side フローリアン

弟の名前はよく本を読む。本というものは先人の知識に溢れている、と言って、それこそ多種多様な本を読む。ある時は哲学書、ある時は小説、この前はディンの所にいるジグに勧められたという譜業の本。まさに節操なし。ジャンルを問わないとはこの事。
どこまでも雑食な彼は、本日恋愛物を読んでいる。

「……あのさ。」

「ん?」

「そういうの、席を変えて読んでくれない?」

シンクーもう一人のボクの弟だーがそう言うのは無理もない。名前が今読んでいるものは恋愛物の中でも過激な描写が含まれるジャンル、つまりは官能小説である。

「あぁ、これですか。酒場の常連さんに勧められたので読んでいるのですが、文学的にはそんなに良くありません。特に主人公の心情の移り変わりが激しくて現実味が無くなってます。」

「色々と言いたいことがあるが、なんでボクの質問に答えないんだ!?」

「飲んでる訳ではないので大丈夫ですよ?」

「当たり前だ!」

「最近の流行を知るためです。シンクも読んでみますか?」

「読まないよ!」

「おや残念。ではフローリアンはいかがですか?」

「そこでフローリアンに勧めるアンタの精神を疑うよ!」

話を振られて答えようとするも、その前にシンクに遮られてしまった。シンクはボクの事を子ども扱いする。ボクの方が僅かながらも長く生きているのになぁ、と思いながらも二人のやり取りが面白いのでそのまま放って置いてみる。

「大体どうして酒場に行ってるのさ!」

「酒場で仕入れた情報って結構参考になるんですよ。」

「お前いつから酒場に入り浸ってたんだよ!?」

もうツッコミしか言わなくなったシンクは、最後に食卓に突っ伏した。たぶん疲れたのだろう。

「大丈夫ですか?」

「お前のせいだから……。」

まあそんなこんなの毎日。案外三人で仲良くやっている。
そんな日々にちょっとした事件が起こった。



「ただいま。」

ある日、帰ってきた名前の声に覇気が無かった。どうかしたのだろうかと振り返る。

「おかえ、り……。」

振り返ったら、右側の頬を赤くした名前が苦笑しながら立っていた。

「どうしたの?」

「いえ、少しばかりトラブルにまきこまれまして。」

「名前がトラブルぅ?」

処世術に長けた名前がトラブルなんて珍しい事もあるものだ、と思いながら救急箱を探し当て湿布を取り出す。今シンクは武器の買い出しに行っていて家には居ない。

「ええ。酒場でお知り合いになった女性がいるのですがね、彼女の連れのお方に。私が子どもだからと拳ではなく平で殴られました。」

「うへー。大人気ないね、その人。」

ペタリと湿布を貼ってやれば、名前は少し表情を歪めた。痛かっただろうか。まあきっと大丈夫だろう。ちょっとやそっとじゃへこたれない子だ。

「シンクには黙っていてください。」

不意に名前がそう呟いた。

「なんで?」

「私が酒場へ行くだけであんなに気にかけるんです。こんな所見られたら心配か怒りで倒れちゃいます。」

「シンクもそんな柔じゃないと思うけどなー。」

「無駄な心配はかけたくありません。」

「えーボクはー?」

「フローリアンはいつも怒らないじゃないですか。」

「まあねー。」

怒らないからと言って心配していない訳ではないのだが。まあそんな事を言えば名前はボクにも怪我を言わなくなる事は必須。大人しく黙る。
でも、と思ってしまう。前述した通り、ボクだって弟の心配くらいする。シンクに対してもそれは変わらない。もう少し自分自身を慮ってくれれば良いのだが、如何せん名前はどこ吹く風。大した事ないと結論づけてしまう。

「だからこそ兄のボクがしっかりしなきゃね。」

「何か言ったフローリアン?」

「何でも無いよー。」

弟が気にしないのなら、兄のボクが何をしても良いだろう?

(さて、仕返しはやっぱり同じ平手だよね!)



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護送屋を営む下準備時のお話でした。
私の中で緑っ子は
一番目:フローリアン
二番目:シンク
六番目:名前
七番目:イオン
と、勝手に指定してます。公式設定があれば教えてくださいm(_ _)m


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