月が綺麗ですね。 | ナノ

りんと蓮子






※若干残酷な描写があります注意!





 一度、目は覚ましたが、蓮子はまたすぐ眠りについた。
 蓮子の傷は目が覚めたからといって、すぐに治るものではなかった。





 ‡ 弐拾玖 ‡





 傷のせいか、高熱が続いたので、熱冷ましの薬草を飲ませ、こまめに服を着替えさせなければならなかった。
 身体を拭くのや器を持つのはりんにも手伝うことができた(なにせ邪見は手足が短い)が、実際に服を着せたり、粥や薬を飲ませるのは殺生丸がやった。

 蓮子の額の手拭いを交換してやりながら、りんは心配する。

(お姉さん・・・苦しそう・・・)

 額に汗を滲ませて、荒く息を吐いている。りんは蓮子が目を覚ましたとき、殺生丸に向かって微笑んだ姿を脳裏に浮かべる。

(優しそうなひとだったな・・・)

 りんが殺生丸たちをみつけたとき、二人は気絶をしていた。最初にみつけたのは殺生丸だったが、りんはすぐに蓮子を見つけることができた。傷だらけになりがらも、その腕に何かを抱き締めているとすぐにわかったからだ。それくらい大事そうに抱えていた。

(きっと、殺生丸さまの大切なひとなんだ。)

 りんはムンとやる気をだして、蓮子の額の汗を拭った。

「はやく元気になってね。」

 せっかく、また話せるようになったのだ。たくさんお喋りしたい。名前もまだ言えてない。
 りんは蓮子の綺麗な声で自分の名前を呼ばれる夢想をした。

「りん、出ろ。」

 声をかけられて、振り向いた。りんは殺生丸の手にあるものに、さっと顔を青ざめさせる。

「・・・はい。」

 それはりんの嫌いな時間だった。とぼとぼと御簾から出る。

 部屋からは出るなと言い付けられていたので、御簾からでてすぐのところで待機する。

「・・・ぅあっ!」

「・・・っ」

 中から聞こえた悲痛な声に、りんは思わず耳を塞ぎ、身を竦めた。

 薄い御簾越しなので、中の声がそのまま聞こえる。行われているのは治療だとわかっていても心臓に悪い。

 殺生丸が手に持っていたのは薬だった。しかし、それは傷に直接塗るものだ。

 途中で目が覚めた蓮子が薬を塗る前に傷口に強い酒をかけろと言ったので、その通りにしてやったらとても痛そうで、りんはそれが嫌だった。

 強い酒で傷口を洗い、それから血止めの軟膏を塗り込む。この度に、蓮子が痛がるのだ。

「蓮子、我慢しろ・・・」

「ぅ、ん・・・・・・・・・っつぅ、あっ・・・んんっ!」

 因みに治療中、蓮子は縛られもしていないので、動かないよう自分で自分を抑えているらしい。邪見が並の精神力ではないと驚いていた。

 りんは痛がる蓮子の声に野盗に襲われたときを思い出す。父も母も兄も、りんの目の前で殺された。その悲痛な断末魔に似ているのだ。

「やぁああ!」

「ひっ・・・」

 思わず声を漏らしてしまい、口を押さえる。

 途端に中からも声が聞こえなくなって、りんは不思議に思う。

「・・・蓮子、指は噛むな。」

「!」

 殺生丸の嗜める声で、蓮子が声を漏らすまいと、己の指を噛んだのだと気付いた。

(りんのせいだ・・・)

 怖がらせまいと、声すら我慢しているのだ。痛みを我慢するだけでも辛いだろうに、痛みを紛らわす声すら耐えさせるのは、りんには辛いことだった。

 思わず、りんは御簾を上げて中に踏み込む。蓮子は薬を塗るために着物どころか包帯すら纏わぬ状態で、痛々しい傷口が丸見えだった。親兄弟の死に様や自分が狼に噛み殺されたときが一瞬浮かんだが、りんはぐっと我慢する。

「りん・・・」

 殺生丸が嗜めるように呼ぶが、りんは蓮子の枕元に座る。蓮子は殺生丸の左腕の袖を掴み、噛んでいるようだった。それで、声を押さえていたのだ。

 りんは袖を掴んでないほうの彼女の手を握りしめた。

「りん、ここにいたいです。」

 そういうと、蓮子がしばらくりんを見つめ、そっと袖から口を離した。声がでないのだろう、口を動かすが、音はでなかった。それでも、その口の動きでなんていったのかわかった。


 あ り が と う 。


 音の無いお礼に、りんは胸が透くようだった。

 それから、蓮子の薬を塗るときは、りんが手を握るようになった。
 たまに強く握られ痛かったが、彼女はもっと痛い想いをしているのだと耐えた。 







りんちゃんは天使!と思いながらかきました。
夢主はギャグ世界からきたので、すぐに復活するパターンも考えましたが、思いっきり趣味に走ってます。
この時代は痛み止とか抗生物質とかないから傷とか膿んで大変だったろうなという妄想からです。
あと、夢主が自分で自分の傷を縫うシーンも入れようかと思いましたが、さすがに痛々しいだけで面白味がなかったので削りました。
(20/08/05)


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