鉄砕牙の威力「兄弟だったんだねー。言われてみれば似てるねー。」 ぴしり。 どうみても仲が良くない兄弟に爆弾発言をする。 「どこが!似てねえ!」 案の定、犬夜叉が憤慨して全否定する。 「髪が白いとことー。目が金色なとことー。あとツンデレなとこ。ほらそっくり!」 「まて!最後のはよくわからんがぜってぇ違うだろっ。」 『ツンデレ』の意味を知らないくせに、勘のいいやつだ、と思う。 「ツンデレだよねー、二人とも。ねー、かごめちゃん。」 「えーと・・・うん、まあ・・・」 そうかも・・・。と、若干煮え切らない答えだが、同意は同意だ。 ‡ 拾壱 ‡ 「今日は犬夜叉に用がある。おまえはじゃまだ。」 「(がん!)」 ハッキリと言われて、蓮子はショックを受ける。 「ふんだっ殺生丸のいけず!こうなったら高みの見物してやる。犬夜叉を応援するもんねーだ!」 プンスカと怒りながら、蓮子は殺生丸が乗ってきた大鬼によじ登る。 同じ鬼に乗っていた邪見がぎょっとして、口火を切った。 「き、きさま!気安く乗るでないわ!」 「かってにしろ。」 「ほら、「かってにしろ。」って。」 「えぇ〜?!」 殺生丸を指差しながら、蓮子はどや顔で鬼の肩に居座っている。まさか、主が許可を出すとは思わなかった邪見はあんぐりと口を開けて驚いた。 目を剥いた邪見の顔が面白かったらしく、蓮子が「きょほほ。」っといやらしく笑う。 *** 「邪見!」 「はいっ殺生丸さま。ただ今、山の妖怪、精霊を追い出しまする。」 (やっぱ、みてるだけはつまんないなー・・・) 蓮子はあぐらをかいた上に頬杖をついて、不満から唇を尖らせる。犬夜叉に迫る殺生丸の姿を大鬼の肩から見下ろす。 「高みの見物してやる」と豪語した手前、勝負にこれ以上手を出すつもりはなかった。何より、蓮子にとっては犬夜叉も、殺生丸も同じくらい大事でどちらかだけの味方をするのはなんだか気が進まなかった。 それでも、ひりひりと肌に伝わる闘気と闘気がぶつかる感覚。戦場の空気に身体が疼くのは武道家の性か。 (でもなんか、高校生が小学生をいじめてるみたいで可愛そうにみえるな・・・) 鉄砕牙を奪われた犬夜叉と鉄砕牙を構える殺生丸。どちらが有利なのかは明白だった。 「よいか犬夜叉。ひと振りだ・・・」 大鬼に住み処を荒らされ、いぶり出された妖の群れを見上げながら、まるで技を伝授する師のように、殺生丸が噛み砕いて言う。 それを見て、蓮子は尚更殺生丸が犬夜叉を殺そうとしているとは思えなかった。 (本当に殺すつもりなら、鉄砕牙を奪うときに引き裂いてるよね・・・) わざわざ力比べのようなことをして、殺生丸は犬夜叉から鉄砕牙を奪った。自分の実力を鼓舞するためもあったかもしれないが、蓮子には殺生丸が心から犬夜叉を憎んでいるようには見えなかった。 (まぁ、猫がネズミで遊んでるようなものかも・・・) 猫は狩りの練習で、ネズミをわざと殺さずに、いたぶって遊ぶことがある。そっちのほうが近いかもしれない。 その考えは殺生丸が山ごと百匹の妖怪を切り裂いたことで、確信に至る。 *** 「なにあれー!すっごーい!」 殺生丸が宣言通り、百匹の妖怪を鉄砕牙のひと振りでなぎ倒した。 いままで倒した妖怪も特殊な術や技を使っていたが、蓮子の記憶の中では桁違いに強い技だ。 「ふっふっふっ見たか小娘!あれが殺生丸さまのお父上が残した鉄砕牙の真の威力よ!」 「なぜ、おまいがどや顔をする。」 まるで自分のことのように威張りくさる邪見に蓮子はつっこむ。 「犬夜叉のような半妖なぞ、ひとたまりもないわ!」 (それは、まぁそうだ・・・) 半妖以前に、あんな攻撃をくらったら人間だろうが、妖怪だろうが、普通はひと溜まりもないだろう。 (やっぱ犬夜叉に加勢するか?) やっぱりどこか不公平さを感じて、蓮子の母性が犬夜叉に傾く。しかし、蓮子が行動に写す前に、かごめが動いた。 「やめて!」 犬夜叉を案じたのだろう、かごめが二人の間に割り込む。 (おおっ少女漫画のヒロインみたいだ) 「一緒に死ににきたか?うるわしいな。」 「え゛。」 (ぶふっ。) かごめの優しさに感動していたが、彼女の尊い行いも殺生丸には通じなかったようだ。通じなさすぎて噴いた。 「てめぇ!蓮子とかごめで態度が違いすぎだろ!」 「そこだー!かごめちゃん、伝説の「あたしのために争わないで」を発動するんだ!」 「おまえはやかましいわ!だあっとれ!」 なんか、怒られた。 「もう黙っていられませんな。」 色んな意味で目があてられなかったのか。ちゃっかり隠れていた弥勒が、ずいっと前に出てきた。犬夜叉とかごめでは心許ないと思ったのか、弥勒まで参戦するようだ。 憎まれ口を叩くが、なんだかんだ面倒見のいいあんちゃんだと思う。 「さぁ!お待ちかね、真打ち登場です!いったいどのような激闘が繰り広げられるのか!」 「何をいっとるんだ、おまえは・・・」 暇だったので実況してみた。 「弥勒ー!がんばれー!殺生丸なんてやっつけろー!」 蓮子が笑顔で弥勒に声援を送ると、弥勒も嬉しそうにこちらに手を振って答えた。対峙する殺生丸はやっつけろと言われたからか、不機嫌そうに蓮子を睨んでいる。 「はい〜。蓮子さま。勝ったあかつきには私の子を産んでくだされ〜」 「あはは。それなんて死亡フラグ〜?」 弥勒の冗談(半分以上本気だろうが)を笑って流す。さすがに、必殺『風穴』があるだけあって、余裕そうだ。 「ふん、どうみてもただの人間ではないか。」 「ん?」 反対の肩にいる、緑色した小さな妖怪がポツリと呟くのが聞こえた。 「あとはこの邪見におまかせを。殺生丸さまのお手をわずらわせるまでもない。」 邪見と名乗る妖怪の言葉に、殺生丸もなにか思うところがあるようだった。 「・・・そうだな。見てみたい。」 (実力をってことかな。でも、なんかひっかかる言い回し・・・) まるで、弥勒の存在を知っていたかのような言い方に、蓮子は首を傾げる。 鬼がズシンと前進したので、その肩に乗っている蓮子も、弥勒の前へと否応なしに行ってしまう。 「え゛。」 それは困る。と、蓮子は鬼の大きな首の後ろに身を隠す。 「ちょっとちょっと、おじいちゃんやめときなよー。」 「誰がおじいちゃんじゃ!あのような小さな人間なぞ、この邪見さまがたたきつぶしてくれる!」 「あんたのが小さいだろっ。」 小さいくせにでかい態度で、弥勒に大鬼の手のひらを差し向ける。 「成敗!」 案の定。弥勒の風穴に、叩き潰そうとしていた大鬼の手のひらが吸い込まれる。そのまま腕からどんどん吸い込まれていくので、蓮子はこれは不味いと思う。因みにまだ距離があるので蓮子は余裕で逃げれるのだが。 「うそっ。やめてっ!」 わたわた、と、大鬼の腕をよじ登って逃げている小さきものが見えて、蓮子は仕方ないなと思う。 「よっ。」 一躍飛び、邪見とやらを回収し、すぐに離れる。蓮子は体が軽いので、風穴との相性は悪い。 「だーから、いったじゃん。」 ひと先ず安全なところまで移動し、首根っこをつまんでぶら下げた邪見を前から覗き込む。 「あんなのがあるって言ってないもん!言ってないもん!」 よっぽど怖かったらしい。ぷるぷると震えながら涙目で幼子のような言い訳を言う。気難しいおじいちゃんだと思っていたが、なかなか面白い生き物だ。 弥勒に「私の子を産んでくだされ」って言われるのは鉄板ですよね! あと、管理人は邪見が大好きです。(見たら丸わかり) (20/07/17) 前へ* 目次 #次へ ∴栞∴拍手 |