C


目が覚めて僕は『現実』を知る。


僕が眠っていた間の出来事を、傍らで看病してくれた先輩が教えてくれた。
あの姫君は僕に睡眠薬を盛ったあと、城主の首を取りに向かったらしい。
そこで、城主の傍で待ちかまえていた小頭にバッサリ斬り捨てられたそうだ。
腹の子ともども。

その話の全てが、僕には受け止めがたい現実で。
姫君の笑顔や言葉が全て嘘偽りだったこと、組頭の推測にハズレはなかったということ、小頭が躊躇い無く母子ともに一刀両断したこと――
頭の中がグチャグチャだ。

物思いに耽っていたら、不意に僕の傍らへ誰かが降り立った。
顔を上げれば、そこに小頭が居て、
「お前のせいで殿が命の危機に晒された」
降った言葉は説教だった。獣のような瞳に見下ろされて無意識に肩が震える。
「申し訳ありません…」
「何故、邪魔をした」
「…姫が間者だなんて…信じられなくて…」
「組頭の判断を疑ったのか」
「…すみません…」
小頭はひときわ視線を鋭くさせると、低く唸るような声で言った。

「次に同じことをしたら、迷い無くお前を斬る」

ほんの一瞬、呼吸が止まる。
いま目の前に居るこの人が恐くて仕方ない。
けれど、僕は、どうしても、
「小頭は、あの人を斬ることを躊躇わなかったのですか」
「何故」
「あの人が間者だという確証もないまま、組頭の判断だけで姫君を斬り捨てようとしたんでしょう? 殿の逆鱗に触れる可能性だってあったはずですし」
「その時は殿が私の首をはねるまでだ」
「な…っ! どうしてそうも簡単に割り切れるのですか!」
「ならお前はあの所業を組頭がやるべきだと言いたいのか?」
「ち、がいます…」
「何を言ってるのかよく分からんが、私が仕えているのは殿でなく組頭だ。組頭が斬れと言うならば斬る。阿呆なことを訊くな」

これ以上の会話はくだらないとでも言いたげに、小頭は背を見せて消えてしまった。



僕には、小頭という人がよく分からない。



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