B


ここでの勤務にもだいぶ慣れてきたと思う。
日が経つにつれ、忍者隊での組頭と小頭の立ち位置もよく分かってきた。

組頭である中在家長次その人は、温厚で親切な良き上司。
対して小頭である七松小平太その人は、部下の間で忍務の鬼と呼ばれ、この忍者隊での規律そのものだった。
部下はみんな、小頭を恐れて組頭へ寄り添う。
僕だって組頭の方が好きだ。忍務を成功させて戻れば、きちんと名前を呼んで褒めてくれる。
まぁもともと小頭を見かける機会なんてそんなに無いから、小頭自身がどういう人なのかいまだによく知らないけれど。



ある日の昼。
城の警備の当番日だったので、中庭へ訪れた時のこと。
中庭をフラフラと歩き回る女性が一人。よくよく見れば殿の側室の一人だった。
こんなところで何をしているんですか、女性一人で危ないですよ。そう言えば
「城の中は息が詰まりそうで抜け出してきたの」
と返された。話を聞けば、殿の子供を身籠もっている為、ろくに外へも出させてもらえないのだそうだ。可哀相だと思って、少しばかりのあいだ会話に花を咲かせた。そうしたら彼女は「もしよければこの子が生まれるまでの間、私の護衛になってくれないか」と僕に言ってきた。
僕はそれを快く引き受けた。



それからしばらくの間、仕事の合間を見て僕は彼女の護衛についた。
そんな、ある日の夜のこと。
彼女の寝床に一人の黒い影が現れ、彼女を殺めようとした。僕は慌てて助けに入り、一瞬、我が目を疑った。

彼女を殺めようとしたその人が、小頭だったから。

うまく回らない頭で「何故こんなことをするのですか」と小頭に問えば「その女は間者だ」と答えが返ってくる。
嘘だ、いくらなんでも無茶苦茶だ。たとえ側室でも彼女は姫君だ。間者なわけがない。
何を根拠にそんなことを、と訊けば、組頭がそう判断したからだ、というキッパリとした返答。
僕にはもう訳が分からなくて、半狂乱で叫んだ。とにかくこの場から小頭を追い払いたくて、だけど僕の実力では小頭に敵わないことを知っていたから、人を呼ぶしかないと思ったんだ。



翌日の晩。
側室の姫君は「昨日は助けてくれてありがとう」と、僕のような目下者に茶を淹れてくれた。
僕はそれが嬉しくて、一気に飲み干した。

僕の意識は、そこで途切れる。



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