side:伊作





保健室の片付けを終えて、自室に戻ろうと歩いていると、背後からだいぶ慌てた様子の足音が聞こえてきた。忍者なのに、忍び足をする気はさらさら無いようだ。
振り返ったら、小平太だった。
「あれ?」
小平太、長次と塹壕掘りの約束だったんじゃないのかな。なんでこんなところに居るんだろう。
小平太は僕に気付くと、苦虫を噛み潰したような顔で「こんなときに!」と騒ぎ出した。
「げぇ!不運!!」
「…名前を"不運"にするの、やめてくれないかな」
失敬極まりない。
「しかし今の私は藁にもすがるぞ!実はかくかくしかじかでな!助けてくれ!」
「うん、小平太が考えるより先に口に出しちゃう子だって、僕知ってる」
どうせ僕は藁だよ。
「面白いですね」
次に言葉を発したのは、小平太でも僕でもなかった。
「私、七松先輩に加勢しましょうか」
見上げると、木の上に鉢屋くんが居た。…鉢屋くんだよなぁ?不破くんより少し声が通るから。
いつから居たんだろう。完璧な気配の消し方だ。全然気付かなかった。
鉢屋くんは僕達二人の前に降りてくる。
「要は中在家先輩から七松先輩を守り通せばいーんですよね?」
「本当か!?鉢屋! お前が味方なら心強いぞ!」
あはは露骨に態度が違うなぁ。藁って言われた僕って何?
「だからもし…」
鉢屋くんの目の奥に、一瞬、恐ろしい色が宿る。

「だからもし、中在家先輩が大怪我しても不慮の事故ですよね」

ゾクリ。
彼の視線に背筋が凍る。
この子は、危険だ。
「…! 鉢屋くん、ひょっとしてこの間の実習のコト、まだ怒って」
「不慮の事故だな」
「…え?」
僕の言葉は、小平太に遮られた。

「長次が大怪我するはず無いだろう。お前なら出来るかも分からんが、その時はお前だってたたじゃ済まない。」

鉢屋くんの殺気を押し返すような、強い瞳の色。

「そんなことあるとしたら、いさっくんの不運に巻き込まれた時ぐらいだ」

鉢屋くんは、何も言わなかった。
少しの沈黙。

「じゃあ、そういうわけだ!」
ぱっ、と。小平太は急にいつもの人懐こい顔に戻ると、癖っ毛の塊を揺らして翻った。
「動機なんかどーでもいんだ!とりあえず長次を見たらしっかり足止めしてくれよ!頼んだぞ鉢屋!」
それだけ捲くしたてて言うと、彼はいつもの口癖を叫びながら走り去って行った。
「・・・」
残された僕ら。どうしよう、気まずいなぁ。
「…やる気なくなったなぁ!」
不機嫌な表情で鉢屋くんは叫ぶ。
「七松先輩に加勢するのはやめにします!気が変わりました!」
「…だよねぇ」

そりゃそうだ。
小平太ってば、やっぱり考える前に口に出しちゃうんだから。



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