side:雷蔵





「それでどうして図書室へ来るんですか、先輩…」
きり丸と二人で図書委員会の当番をしている時だった。勢いよく入り口の戸が開いて、いけいけどんどんのあの人が飛び込んできた。
聞けば、中在家先輩から逃げているのだという。どう考えても七松先輩が悪いから、早めに謝るのが一番だと思うんだけどなぁ。
「まさか私が図書室にいるなんて、長次も思いつかんだろ!灯台もと下しというやつだ!」
「もと暗しです。お願いですから先輩、もう少し声のボリュームを下げてください。ここ、図書室なので…」
苦笑いしか出て来ない。困ったなぁ、僕にはこの先輩は手に負えそうもない。
「でも不破先輩。七松先輩の話、ちょっと気になりません?」
きり丸は僕を見上げてそう言った。
「気になるって…何がだい?」
「だって中在家先輩って本の扱いはめちゃくちゃ丁重じゃないすか。本をツギハギだらけにするなんてこと無いと思うんすけど、なんでそんな本持ってたんすかね?」
「…そう言われればそうだねぇ」
「甘いな二人とも!長次がツギハギだらけの本を持っていたということはだなぁ!」
僕達の話に割って入ってくる先輩。ずいぶん得意げですけど、破ったのはあなたなんですよ〜
「逆にそれだけ大事な本だったということだ!」
静かにしてって言ってるのに、と横できり丸が小さく呟いた。
「何かの拍子で破れたけれど、捨てられない大事な本だったから、繋ぎ合わせてまで持っていたんだろうさ!」
「…で、七松先輩はその大事な本を真っ二つに裂いちゃったんですよね」
「・・・」
部屋の隅で小さくなって、のの字を書き始める先輩。
「不破先輩、やりますね〜」
きり丸がきししと笑った。だってこれぐらい言わないと静かにならなそうだったから…
七松先輩は指先で畳に大量の のの字を生産してから、顔をあげた。
「…きり丸」
「ハイ?」
「あの本、長次が繋ぎ合わせてまで持っていたんだ。ひょっとしたら相当価値のあるものかもしれないぞ」
「あひゃ!? 価値のあるもの!?」
きり丸ってば、すっかり銭目だ。
「ああ。だから長次がきたら足止めを…」
ピクッ、と。
七松先輩の見えない獣耳が、急に何かに反応した。
次の瞬間、ドタバタと派手な音をたてながら、先輩は慌てて窓から走り去った。
「…台風っすね」
「…本当だね」
いったいなんだったんだろう。
「…雷蔵、きり丸…」
呼ばれて振り返ると、そこに中在家先輩が立っていた。
「小平太がここへ来るのを見たと、斜堂先生から聞いたのだが…」
「ああ、七松先輩ならたった今窓から」
「中在家先輩!その本下さい!」
僕の言葉はきり丸に遮られた。もう!きり丸ってば本の価値しか頭になくなってる!
中在家先輩は懐から紙片の塊を取り出すと、それをあっさりときり丸に差し出した。
見るからにボロボロで、どう考えても無価値。
きり丸の眉間に皺が寄る。
中、読んでみたいなぁ。
「先輩、中、読んでも構いませんか?」
「ああ…」
「つーかコレ、なんすか先輩」
先輩はゆっくりと語り出した。

「これは…」



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