side:小平太





怖い怖い怖い怖い!!!
助けて!助けて!

「待て、小平太アアァ!!!」

いさっくんが鬼の形相で追いかけてくる。
嫌だ嫌だ待つもんか!

「やだーっ!!!」
「やだじゃない!六年生にもなって、情けないよぉ!!」

必死で逃げてたら、目の前に私の砦が見えた。
「あっ、長次ぃ!」
長次が振り返るのと同時、私は長次の背に隠れた。正確にいうなら長次を盾にした。
「?」
わけが分からないという顔で長次は私を見やったが、まぁ長次なら大丈夫だ!なんとかいさっくんを撃退してくれるはず!
「往生際が悪いよ小平太…」
体重は軽いはずのいさっくんの足下からズズンという効果音が聞こえる。
もうあれ、いさっくんじゃないよ。ただの鬼だよ。
「…? 落ち着け、伊作…」
いさっくんを宥めようと声を掛ける長次。さすが私の盾!
「いくら長次の頼みでも、こればっかりはきけないよ! 小平太の為でもあるんだからね!」
「?」
「小平太ってばひどい虫歯を隠してて口の中ボロボロだったんだ!だから保健委員のみんなで取り押さえて治療してたんだけど、途中で逃げ出したんだよ!新野先生なんてひっかかれたんだよ!?」
ああっ!いさっくんのバカっ!なんで全部しゃべっちゃうんだよおぉ!
「・・・」
長次と目が合う。これ以上無いぐらいの真っ直ぐな目で見つめ返す。だって目で訴えるしかないし。けど
「…お前が悪い」
やっぱ無駄だった。
長次は私の頬を掴んで、私を自分の背から引き剥がす。
痛いよ痛いよ!もともと痛い場所なんだから触らないでくれよ!
「痛ひのヤにゃあああ!!」
もう何に対しての悲鳴なのか分かんない。つねられた頬に対してか、これからされる治療の続きに対してか。泣きたい。
「時々忍務で凄い怪我して帰ってくるくせに!あれに比べたら虫歯の痛みなんてどうってことないじゃない!我慢しなさい!」
「どうってことあるっ!!」
「小平太がどんな駄々こねても連れて帰るからね!保健室でみんな待ってるんだから!ごめん、長次も手伝ってくれる!?」
長次にふるなよ! ニ対一なんて卑怯だぞ!
「・・・」
長次は私をじぃっと見つめて動かない。嫌だな、私、この視線苦手なのに!
「…う…なッなんだよぅ…」
「・・・」
「たっ、たとえ長次がバレーに付き合ってくれるとしても、私、保健室には戻らないぞ!絶対嫌だぞ!」
「…小平太」
「はいィ!」
「…もし無事に治療を終えたら、塹壕掘りに付き合ってやる」
「・・・ゥえ?」
予想外だった。ま、まじで!?
「本当か!?本当に一緒に塹壕掘ってくれるのか!?」
「ああ」
いつもどんなに誘っても頑なに断られるのに! しつこくし過ぎて縄ひょう投げられるのに!
「よぉおし、いさっくん!私は逃げも隠れもしないぞ!どこへなりとも連れて行けェ!!」
長次と塹壕掘りしたいからな!

「…小平太、気持ちは嬉しいんだけど…座り込まずに自分で歩いて」



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