「いやぁ、ファンクラブのある人間ってのも大変ですなぁ、東堂氏」
「なに、そうでもないよ。彼女たちは実にルールを守ってくれるモラルある女子だからな!」


ワハハ!なんて笑いながらせっせと東堂は手を動かす。今言った言葉は本音と皮肉が半々なんだけど、こいつは気づいているのだろうか。ホワイトデーのお返しの準備を手伝わされている私にとって現状面倒以外の表現ないんだけど。

去年もこうして付き合わされたわ、ラッピング。春休み中に帰省して、実家から目ぼしいものをちょろまかして帰ってきて、部活が終わってさぁ帰ろうって私を捕まえて、マネージャー、お前ラッピングってできるか?って。

今年も手伝うなんて言っていないのに、明日から新学期だからお返し準備するんだって。えらいね、そりゃファンだって気合入れたチョコレート準備するよね。でもさ、私自転車競技部のマネージャーであって、東堂のマネージャーじゃないんだけど!


「東堂、アンタ器用なんだからもう1人でラッピングできるでしょ」
「まあ、オレにかかればたやすいことだ、神はオレに何物も与えたからな、そう、器用ささえも!」
「じゃあ1人でしなよ。私まだ春休みの課題ラストスパート残ってるんだけど」


どっさり残っているとかじゃなくて、計画的に残してる分ね。今日で終わるように計算して残ってるやつだからご安心を。暗記物は終わりにやっちゃわないと、どうせ休み明けには課題の範囲から実力テストとかさせられそうだから頭に残そうと思って。本当だよ!


「ふむ、普段なら絶対言わないのだが、特別にオレの課題を見せてやろう。これで借りはなしだ」
「いや、量ないし自分でやる」
「そう遠慮するな」
「してない」


東堂の言葉をバッサリ切ると、彼は眉間にしわを寄せた。本当に表情豊かな男だなぁ。黙ってればもっとかっこつくのに。


「なぜオレがお前にこれを頼んだかわかるか?」
「数多いから?」
「それもある」
「他に何、あ、確かに他の奴らには頼めないかぁ、不器用とか嫉妬とか、」


私がけらけらと笑いながらそう口にすると、東堂はそれに反して真面目な顔になった。何よその顔。一緒になって、まあな!って笑うところじゃないの、今。


「この時間だけは、皮肉だがお前はオレが独り占めできるからな」
「…は?」
「まだ気づかないのか、お前は」


え、なにそれ、気づかないって、何のこと。私は部活のマネージャーで、アンタはその部活の次期レギュラー候補で、結構気が合って、気の置けない部活仲間じゃなかったの。

アンタにとって私は福富や新開や荒北と大して変わらないんじゃなかったの、だって、同じような扱いしてたじゃない、女の子扱いなんて、東堂からされたことないよ。東堂女子大好きなくせに。


「とう、ど、う、…、」
「オレがお前を特別扱いしていないんじゃない、お前がオレを特別扱いしないんだ」
「なにそれ、なに、それ…」
「お前にとってはオレも、フクも、隼人も、荒北も、他の部員さえもみんな同じなんだろう?」
「当たり前じゃん、だって、みんな部員だもん、私そういう立場だもん」
「オレはそれでは満足できん」


いつもの余計な口数はくっついてこなくて、自分の主張だけをはっきりと投げかけてくる。それはもはや反則というものではないか。彼の手に握られたラッピングはよく見れば他と1つだけ異なっている。

特別扱いしていないなんて今言ったばかりのくせに、ここぞとばかりにこんなことするなんて、アンタって意外と馬鹿な人ね。





コメントは生存確認にてお返事。



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