「あ、むっくん!」
「あー、さっちんじゃーん、おひさ〜」
「ホント、久しぶりだね!なんて、わたしはたまにむっくんチームの試合観に行ったりしてるんだけど!」
「まじー?連絡くれればチケットあげんのに」
「自分のお金で観に行きたいの!」
「へんなのー」
「最近みんなとは会ってる?」
「んー、赤ちんとかミドチンとか?連絡は取ってるかな。あと黒ちん。」
「そっかぁ。みんな忙しそうだもんね」
「さっちんは峰ちんがアメリカいっちゃってさみしーね」
「別に!何の相談もなしに決めちゃうんだもん、あんなヤツ知らない!」
「あはは、わかりやすー」
「もう、むっくんってば・・・。そうだ、これから暇なら甘いものでも食べに行こうよ!」
「いく!」



片想いファイター





久しぶりに偶然会ったさっちん、やっぱりすごく可愛い。
峰ちんや赤ちんからちょっとだけ聞いてはいたけど、フツーに大学生やってて(あんまり偏差値は高くないところ)、語学系を専攻してて、フツーに大学のバスケ部のマネージャーをやってるらしい。うーん、モテるだろーな。


「むっくん何が食べたい?」
「んー、今監督に甘いもの控えろって言われてるからなー、うーん、ケーキかなー」
「それ一番食べちゃダメなやつだよ!」
「一個で我慢するもん」
「うわぁ、あのむっくんが。変わったね〜。えらい!プロなわけだ」
「ホントそれが一番しんどいよー」


ひさびさに会ったさっちんは何も変わらない。中学のときから愛嬌があって天真爛漫で優しくて可愛くて、正直峰ちんには勿体ねーし黒ちんのがまだマシと思いつつ、さっちんにとって結局峰ちんが一番なのだから仕方がない。
黄瀬ちんとさっちんと同じクラスだった中学時代が懐かしい。黄瀬ちん元気かな。

俺の最寄り駅がさっちんの大学に近いそうだ。
駅前のケーキ屋さん美味しいんだよ、と言うので後を追って歩いて行くと、ついこの間なまえちゃんと一緒に来たケーキ屋さんに辿り着いた。
なまえちゃんの顔が浮かんで、つい顔が緩む。


「ここ!美味しいんだよ!むっくん来たことある?」
「んー、一回だけね」
「さすが!」
「でも、味はよく覚えてないや」
「あれ、あんまり美味しくなかった?」
「そーゆーことじゃないんだけどさ」


緊張してて、あんまり覚えていないだなんてとてもじゃないが口には出来なかった。
俺の言葉に不思議そうな顔をしたさっちんの後に続いて店内に入ると、ケーキの並んだショーケースにお出迎えされた。どれにしよう、やっぱり、二個食べちゃおうかな。


「あー、迷う!むっくんはどれにする?」
「んー・・・」
「真剣だねぇ」
「一個しか食べらんないから」
「死活問題だもんね」


悩みに悩んだ挙句、俺はショートケーキを一つ頼むことにした。
そりゃあ他にも食べたいケーキはたくさんあったけど、一個だけ選ぶんなら。この間なまえちゃんが美味しそうに食べてたケーキにしようと思った。


「紫原さん?」
「・・・・・・」
「こんにちは。よく偶然会いますね。」
「・・・なまえ、ちゃん・・・?」
「あれ、むっくん、お知り合い?」
「こんにちは、紫原さんのチームの事務所で働いてます。みょうじです。」
「そうなんですね!わたし、桃井さつきです!」


キレーな人だねー、と零したさっちんをよそに、俺は冷や汗が止まらない。

なまえちゃん、さっちんは違うの。彼女とかじゃなくて。全然そーゆーんじゃなくて。
でも予想通りなまえちゃんはやっぱり俺とさっちんの関係なんてなにも聞いてこない。聞かれてもいないものを否定も肯定もできないし、なまえちゃんと来たこのケーキ屋にほかの女と来てるの嫌だったりしないの?とか、別に俺誰にでも優しくしてるわけじゃないんだよとか。
言葉にしたくてもできないことばっかりだ。

そんな俺の葛藤を全く知る由もないなまえちゃんは涼しい顔してさっちんと話している。


「ところで紫原さん、ケーキ屋さんなんか来て。甘いもの控えてって言われてるんじゃないんですか?」
「あ、みょうじさん、むっくん偉いんですよー?一個だけしか食べないからって!ちゃんと考えてるんだなーって。」
「それにしたって。ケーキのカロリー知ってます?」
「でもね、中学の頃からじゃ考えられないんです!毎日毎日24時間ずーっとお菓子食べてたんですから!」
「そうなんですね。」


なんだかまたさっちんが無意識に引っ掻き回すようなことばかり口にしている気がする。
なんかもう俺たちがまるで中学のときから付き合ってたみたいじゃん。
さっちんのことは大好きだけど、大好きだけどなんで今日ばったり偶然会ったのが女の子であるさっちんだったのだ。なまえちゃんは顔色一つ変えずさっちんと談笑している。もう少し、嫉妬とかあってもいーんじゃないの。

さっちんを黙らせるわけにもいかず、否定するわけにもいかず。とにかく黙りこくることしかできない。


「あ、ごめんなさい。わたし急ぐのでそろそろ・・・」
「あっ、ごめんなさいつい話し込んじゃって・・・」
「いいえ、こちらこそごめんなさい。これから家に人が来るものだから。」
「あっ、カレシさんですかー?」
「ふふ、違いますよ。それじゃあ、紫原さん、桃井さん、失礼しますね。」


ぺこりと俺たちに頭を下げ、なまえちゃんは店員さんにケーキを三つ頼んだ。
そのうちの一つはショートケーキ。あれはきっと、なまえちゃんが食べるのだろう。


「なまえちゃん」
「?、はい?」
「今週末の試合観に来て」
「・・・?、はぁ、わかりました」
「ぜったいだかんね」
「わ、わかりました」
「最前で見て」
「それは・・・もうチケットがないと思いますけど・・・」
「じゃーベンチにいて」
「それは無理ですよ」
「・・・」
「とりあえず、分かりました。必ず行きますから。」
「その試合勝ったら」
「は、はい」
「俺のお願い一個聞いて」
「・・・?」
「一個でいいから」
「わ、わかりました・・・それじゃあ」


なまえちゃんはちらちらとさっちんに視線を向けながら気まずそうにそう言った。
やっぱり、俺とさっちんが付き合っていると思っていて、恋人の前で他の女にそんなことを言うべきじゃないでしょうとでも言いたげな表情だった。
ケーキを店員から手渡され、今度こそなまえちゃんはそそくさと逃げるようにしてケーキ屋を後にしたのだった。

その様子を終始ニヤニヤと見守っていたさっちんが、イタズラっぽく笑って俺の方を向いた。


「むっくん、みょうじさんのこと好きなんだね」
「・・・まーね」
「顔がキレーな人が好きなの、相変わらずだよね」
「そーゆーんじゃねーの!」
「わたし、あの人中学の時から見たことあるな。高校のときも。大きな大会にはいつもいた。インハイの決勝で帝光の女バスと試合したこともあるよね?」
「!」
「むっくん、昔から目付けてたんでしょ」
「・・・な、なんでわかんの」
「女の勘」
「・・・女こえーし」
「じゃあもう一つ女の勘を」
「なに?」
「みょうじさん、多分ほんとに彼氏さんいないよ」
「えっ!?」
「なんとなくね、そういうの雰囲気でわかるの。」
「さっちん神」
「でもわたしとむっくんが付き合ってるって勘違いしてたよね。」
「・・・だよねー」
「大丈夫、ピンチはチャンスだよ!今度会ったらわたしとは付き合ってないって、まず話を切り出せばちょっと進展するんじゃないかな」
「さっちん神。てかなまえちゃんって俺のことどう思ってる?」
「それはちょっとわかんないかな。色々カマかけてみてたけど、うーん、決定打はないかんじ。」
「えー、てかやっぱさっちんわざとやってたんだー」
「バレてたかー」


さっちん、昔から勉強はからっきしだったけど頭はすごくよかったなそういえば。要領良くて、裏で色々暗躍するのが得意だった。

今日、さっちんと一緒にいるときになまえちゃんに会ったのが良かったのが悪かったのか。

その結果を知ることになるのは次に彼女に会うとき。それまではきっとまた、悶々とする毎日なのだろう。
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