Bリーグのクラブという、スポンサーありきのチームである以上、選手だけを集めれば活動できるわけではない。
クラブには営業がいて、広報がいて、事務要員がいて、なんかあと他にも色々いてファンクラブ作ったり(室ちんにはやっぱファン多い)、会場埋めるための戦略考えたりする人がいて、初めて成り立つらしい。
そんで、そういう人たちが直接俺たちに関わることは意外と少ない。

あんま色々考えたことないけど、スポンサーにはある程度サービスしないとクラブの偉い人からすごい怒られる。
赤ちんの会社がもう少し大きくなったらうちのスポンサーになってくれねーかな。そしたらちょっとは楽なのになー。



再上映





「え」
「?」


ある夏の暑い日、なんかの契約書を書きに来いって言われて事務所に立ち寄った時だった。
クラブの事務所は練習場所の体育館からほど遠くない場所にあるが、事務所に行くことなど月に一度あるかないか。
行ったとしても実際に事務員が働く執務室には出入りせず、ミーティングルームなどで長々と話を聞いたり、契約書にサインをしたり、とにかくまず会う機会がない人も少なくない。
商売である以上、年俸を貰っている以上、そういう人たちがいて初めてこのクラブでバスケを出来てるってゆーのはわかるけど、やっぱり高校時代なんかを思い出すと、面倒な仕組みだなって思う。

ある日ある時、ある契約のためにクラブマネージャーと事務所で会う約束をした日。
クラブマネージャーとやってきたのは例のあの子だった。何年経ったかわからないけど、絶対にそう。絶対にあの子だ。


「あぁ、紫原くん初めて会うっけ?総務やってくれてる、みょうじさん。新卒だよ。」
「申し遅れました、みょうじなまえです。よろしくお願いします。」


あ、よかった、死んでなかったんだやっぱり。
てか、俺がどんだけずっとあんたの名前知りたいと思ってたと思ってるわけ?どーしてこんなにサラッと知れちゃうわけ?本物?この顔の良さだから本物なんだろうけど。

あまりにもあっさりとした再会に拍子抜けするというか、何だかんだ言って動揺を隠すのが精一杯で。


「ん、よろしくー」
「紫原くん、いつもこんな感じだから。気にしないでね」
「はい」
「あと、女癖悪いから。気をつけて。」
「はぁ、本人の前で言っちゃうんですね」


ホントだよマネージャーてめー本人の前で何言ってくれてんだ。
当の彼女はそんなことを特に気にした様子もなく、その可愛くてキレイな顔を何の色に変えるでもなく、ただ淡々と契約書についての説明を始めた。
もちろんそんなの聞いちゃいなかった。
もっともっと、感情を表に出すタイプだったのに。中高生のときの話だし、そりゃ変わるか。増してや仕事なんだから。
バスケは辞めたんだろーけど、こういうとこで働いてるってこと嫌いになったわけじゃないんだろう。
俺のこととか、覚えてんのかな。一回目合ったのとか、覚えてんのかな。
あんたのプレー何回も見たことあるよ、わざわざ試合観に行ってやったこともあるよ。


「説明は以上ですが、ご質問ありますか?」
「・・・」
「紫原くーん?聞いてたー?」
「ん?あー、おっけー」


絶対聞いてなかったでしょ、まぁいいけど。と溜息をつくマネージャーをよそに、結局何者かは分からない契約書にサインをして判を押した。へんなもんじゃないだろーし。


「みょうじさん、だっけ?」
「?はい」


声をかけたはいいが、その後に続く言葉がなかった。
ライン教えて、って女癖悪いって言われた直後に言うことじゃねーか。
中学のときからあんたのこと知ってたよ、ってストーカーっぽい?
よろしくね、ってなんか初めて会った関係みたいじゃん。そりゃ初めて会ったも同然だけど、ぜってーそんなこと言いたくない。
だめだ、何も思い浮かばない。


「かわいーね」
「はぁ、ありがとうございます。」
「セクハラやめろ、紫原」
「別にセクハラじゃなくなーい?今の。思ったこと言っただけじゃん」
「相手がどうとるか次第だ」
「や、別にそんなこと思わないんで」


つい口をついて出た言葉は、結局チャラ男のそれだった。多分、印象サイアクってやつだろうなと内心乾いた笑いを零したが、可愛いという褒め言葉も彼女の心には何も響いてはいなさそうだ。
いくら仕事とはいえそもそも、こんな子だっただろうか。何か、おかしい気がした。自分が知らないだけでこんな子だったんだろうか。
そーいや、試合中のこの子しか知らないんだった。


「それじゃあ、私はこれで。紫原さん、貴重なお時間ありがとうございました。失礼します。」
「あー、うん、じゃあねー」


行かないでよ、なんて言うこともできず、追いかけることもできず、ただ間の抜けた声だけが出た。
パタンと閉まった小さなミーティングルームの扉。クラブマネージャーと取り残された。


「みょうじさんはダメだよ」
「はぁー?」
「全然ダメ」
「何がだし」
「うちでアプローチかけた人全員玉砕だから。そういうの興味ないんだよ、若いのにね。」
「あっそ」
「本当、キレイなのに勿体無い。」
「今度練習見に連れてきてよ」
「それもあんまり行きたがらないんだよね。」
「は?」
「バスケものすごい詳しいし、好きみたいだけど、誘うとなんでかかわされちゃうんだ。仕事は出来るから別にいいんだけどさ。」
「がんばって」
「期待はすんな。っていうかやっぱりお前狙ってるだろ」
「だって、かわいーから。」
「本当にメンクイだな紫原。」


そりゃまぁかなりメンクイな自信はあるけど、そーゆーんじゃないし。でもそんなん説明すんのはめんどいから、なんも言わないけど。
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