とにかく魔が差したのだった。

つい、二人きりになったことにムラムラしちゃってキスもまだ、それどころか手を繋いだことすらなかった大好きな女の子のおっぱいを揉んでしまった。
理由が完全に、性犯罪者の犯行動機のそれだ。


しかし、だ。
目の前には、発情しきっている可愛い可愛い彼女。

こんなこと、ある?



来襲



とりあえず、事の顛末のみを言えばギリッギリに残っていた理性によって、まさ子ちんに見つかっては元も子もないよと彼女をなだめ、据え膳を無碍にした。

なまえちゃんとエッチしてるとこを見られてもまず100%俺にしか非はないとみなされるだろうからそれはいいとして、ペナルティがあるとしたら大会出場停止とか。俺だけ出場しちゃだめとか、そんな感じだろう。そうなったときに一番困って悲しむのはなまえちゃん。

それだけはダメだ。
ダメだけど、下半身は反応してしまうのだ。


「これから、俺の部屋来れる?」


熱っぽい眼差しのまま、俺をぼんやり見つめてこくりと頷いたなまえちゃん。
なんだか洗脳でもしている気分になってくる。

ともあれ俺は寮で一人部屋なのだ。これなら好き放題できる。



***



女子寮と違って警備と監視の手薄な男子寮。

敦くんの部屋には、付き合う前からなんども来たことがあった。本来二人部屋のはずのこの部屋を一人で使っている敦くんのもとにみんなは集まりやすかったのだ。

でも、いつもと違うのはわたしたちのほかには誰もこの部屋にいないということ。そして、わたしたちが恋仲に収まったということ。


ドアも窓も、しっかりと鍵をかけて、ベッドに座ったわたしたちは抱き合っていた。
ドキドキ、いやバクバクと騒ぎ立てる心臓は緊張か、興奮か。

試合中みたいに息が上がっている敦くん。
その目と目が合うと、わたしの口を食べちゃうみたいにしてキスされた。唇を合わせるだけじゃなくて、舌と舌がくちゅくちゅと音を立ててる。
いつもお菓子を食べてるときに見える、赤い舌。その舌とわたしの舌が絡み合ってるのだと思うと、恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだった。
敦くんが必死になって唇を合わせてくるので、同じように必死に応えていたら頭がぼーっとしてきた。


「・・・っ、ん、はぁ、っ」
「コーフンしてきちゃった?」
「っ・・・うん・・・」
「なまえちゃん、すんごい、えっちな顔」
「ち、ちがう、もん・・・っん、」
「こーんな顔も、できちゃうんだね、」
「や、やだ、っあつしくん、いじわる」


誰も知んないだろーね、ドジでいっつもニコニコしてるなまえちゃんが、こんなにえっちになれちゃうなんて。
そんなことばっかり耳元で囁かれて、本当にどうにかなってしまいそうだ。

静かにベッドに押し倒されて、息を飲む。
柔らかくて、敦くんの匂いがするベッド。もうまともに顔なんか見られなくて、ぎゅっと目を閉じるとまた敦くんはその柔らかい唇を押し付けて来た。
わたしの上に覆い被さり、全身をまさぐるように手を這わせられて興奮を煽られる。敦くんの勃ちあがった股間が先程からずっとわたしの身体に当たっていて、もう我慢できないと主張しているようだった。
あぁもういよいよ逃げ場がないのだなと息を飲んだ。

制服のブラウスの下から敦くんの手が侵入し、いざ胸に触れようかという瞬間。


ガチャ


ドアの鍵の開く音、わたしも敦くんも飛び上がって部屋のドアを見つめた。


「こんにちは。・・・ん?あれ、どうして女の子が?」


ドアにはちゃんと鍵をかけたのに。とにかく服を脱ぐ前でよかった。
なんていうことしか、考えられなかった。それ以上の思考が一切停止してしまったのだ。

扉を開けた人物のことをわたしは知らない。恐らく敦くんも。
美しい黒髪の青年だ。
左目を覆うほど長い前髪。
少し垂れ目の色っぽい目元、色っぽいと感じるのはおそらく右目のすぐ下にある泣きぼくろのせい。
敦くんほどではないにしろ高身長で、筋肉も程よくついている。


「・・・アンタ、誰・・・?」


ようやく口を開いた敦くん。
わたしのシャツから手を抜いて、代わりに身体を覆うようにタオルケットをかけられた。

別に、服は着ているんだけどな。
しかし聞いたこともないような敦くんの地を這うような冷たい声色。ここは素直に従っておこうと渡されたタオルケットにくるまった。


「今日から君と同室の、氷室辰也。転校してきてね。さっき秋田に着いたばかりなんだ。」
「そんなん聞いてねーし」
「おかしいな、話は通してあるってことだったんだけど・・・」


・・・氷室辰也さん。
敦くんの新しい同室の人、だから鍵を持ってたんだ。だから部屋を開けられたんだな、なんて当然のことを考えながら。
だんだんと先ほどまでの熱っぽい感情が萎んでいき、冷静な気持ちになってくる。あぁ、なんて、恥ずかしくてはしたないことをしてしまったんだろうと、いたたまれない感情を覚えた。

渡されたタオルケットに隠れて乱れた制服を正す。
敦くんは依然として氷室さんのことを睨むようにして見ていた。


「・・・もしかしなくても、邪魔したかな」
「そーだよ」
「悪かったよ。アメリカではこういうのよくあったけど。日本も同じだね。」
「は?」
「あ、あの!」
「?」
「・・・わたし、かえります・・・ね。失礼しました!」
「ちょ、なまえちゃん!」


このままわたしがここに居ては氷室さんはいつまで経ってもドアの前で立ち往生することになってしまう。
とにかくもう恥ずかしくて敦くんの顔も見られなくなってしまっていたので、このままここに居たところで何もできやしないのだ。

スタコラサッサという効果音でも鳴りそうなほどに見事な逃げっぷりを披露したつもりだったが、敦くんの部屋に散乱していたお菓子の箱に躓いて大きくバランスを崩してしまった。
結局今日もドジばかりだと思いながら固い床の感触と出会うのを待っていると、ぼすんと抱きとめられた。
氷室辰也さんに。


「うわぁ!」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫・・・。」
「女の子なんだから。気をつけないと。」
「ほ、ほんとですね」
「ちょっと!!いつまでくっついてんだし!」


敦くんの怒号に慌てて氷室辰也さんの胸から抜け出し、今度こそドアから飛び出した。

二階に位置する敦くんの部屋から一番近い階段を駆け下り、その階段を降りた先の窓を開け放つ。ここが女子寮への近道なのだ。
急いでいたのと、恥ずかしくてたまらかったのとで焦ったために、窓からぴょんとジャンプした拍子に今度は窓枠に足を引っ掛け、外の植え込みに顔から突っ込んだ。


「もう・・・散々な日だ・・・」


わたし、何してるんだろうと今日の数々の失敗の出来事を振り返りながら大きな大きなため息をついた。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -