short | ナノ


▼ きみがすべてになった日に


※高校生以下の方は閲覧をお控えください。
※アホなヌルいエロです。







紫原敦くんとは、大学のバスケサークルでファーストコンタクトをとることになった。
尤も彼はこの大学のバスケサークルに所属しているわけではない、所謂プロバスケチームでレギュラーを張っている天才であるわけだがたまの練習のない日には体が鈍ってしまわないようにとサークルの方に顔を出していたのである。サークルの面々もプロ選手のプレーが生で観られるならと歓迎しているし、中々に気難しい彼だがそのうちサークル内の皆とも打ち解けていき、いつの間にやらこちらの飲み会などにも喜んで参加するようになっていた。

当のわたしは、小・中・高と女バスに所属していたので、紫原くんのことはそれこそ中学一年生の終わり頃にはもう知っていた。それに戦友である中・高の男バスの面々はいつだって彼らの存在を嘆いていた。キセキの世代。紫原くんに、赤司さん、青峰さん、緑間さん、黄瀬さん。小学校の頃から月バスを欠かさず読んでいたわたしは当時、非常に驚いたものだった。わたしと同じ学年の中学生が月バスで特集を組まれている、こんなことは今まで購読してきて一度だってなかった、と。
だから大学で紫原くんと初めてすれ違ったときにはもう、見間違えたかとすら思ったのだ。彼らの試合を観にわざわざ足を運んだこともあったし、何なら家に何枚かのDVDだってある、月バスだって一冊たりとも捨てられずに全てとってあるのだから。まさにもう、わたしにとっては芸能人とも同等で、紫原くんと青峰くんが高校卒業後はプロチームへ所属すると聞いた時には飛び跳ねて喜びもしたのだ。

だから、わたしの所属するサークルに彼が顔を出すようになってもわたしは彼と一言だって話そうとはしなかった。
話せばあのときに感じていた憧れが、見えていた輝きが、音も立てずに消えてなくなってしまうだろうことが容易に想像できたから。


「ねぇ〜え〜なまえちゃんってばぁ〜」


なのに、こんな彼とわたしが恋人関係に収まる日が来るとは、誰が想像出来たのだろう?


「なぁに?敦くん」
「…今日さ、なまえちゃんのお家いっていい?」
「……いい、けど」


やったぁ、お菓子を食べながらふわりと微笑む紫原くんとわたしは実は、学科も一緒であった。尤もスポーツ特待生である彼はわたしとは違ってある程度の出席にプラスしてレポートさえ提出すれば単位が貰えるようになってはいるのだが。なんと羨ましいことか。

兎にも角にも、彼の参加した幾度目かのサークル飲みにおいて、わたしと彼は遂に一言目を交わすことになってしまったのだ。


「アンタみたことある」


先輩にガバガバ酒盛りされ、断わり切れずに飲み続けていてはいくらお酒に強いわたしであろうとも少々思考がふわふわと宙を舞っていた。だから、紫原くんが近くに寄ってきていたことにも気付けなくて。
アンタみたことある、初対面でこの口調だ。だから、話なんかしたくなかったのだ。わたしの中で神格化した神様として、彼をみていたかったのに。


「ええと、学科一緒だから、かな?」
「んーん、ちげーし」
「?」
「中学んときから」
「!」
「高校でもみたことあったよ、大会いたでしょ」


中高と強豪バスケ部に所属していたので、わたしも確かに全国区の大会の常連ではあった。大会で実際、彼とすれ違ったこともある。でもまさか、こちらがあちらを知ってはいても、あちらもこちらを認識していたとは。


「な、なんで…」
「ん?」
「なんで知ってるんですか、わたしのこと」
「あー、顔がタイプだったから?かわいーし、身長あるし」
「は」
「メンクイなんだって、俺」
「なんだって、って……」


たまたまわたしが彼の好みのタイプであっただけとは、まさかあのキセキの世代の一人がインハイやウインターカップで自分のプレーを観ていて興味を持ってくれていたのでは、なんていう淡い期待が音を立てて崩れていく。


「ねー今俺フリーだよ?」
「はぁ?」
「つきあっちゃおーよー」
「いやです!」
「えーおれもやだー」
「む、紫原くんあなた酔ってます!」
「ううんー、俺お酒強いもーん」
「知りませんってば」
「じゃあ彼氏でもいんの?」
「い、い、い「いないんだねー」」
「……」
「じゃあいーじゃん顔が死ぬほど好みなんだってばー」
「ぜっっったいにやだ!!!」
「おねがーい、あ、俺エッチうまいよー?」
「死ね!!!」


ーー結論から言うと、紫原くんはやはりこの日お酒に酷く酔っていた。
わたしに死ねとまで言われた翌日の練習にのうのうと顔を出したかと思ったら、わたしの真横をスルーして素通り。コイツいい加減背負い投げでも決めてやろうかとふつふつとした怒りに沸いていたのだが、同学年の友人が昨日の飲み会での玉砕事件について紫原くんをからかい始めた瞬間、彼の顔からスーッと血の気が失せた。昨日あったことの詳細を友人に問い詰めた後のあの彼の真っ青な表情はとてもじゃないが演技とは思えない。


ごめん、ごめんなさい、こんなつもりじゃなかったし、ちゃんと機会を窺っていつか話しかけるつもりでいたし、てかずっと緊張して話しかけらんなかっただけで、ほんとごめん、何言ったか覚えてないけどぜってーデリカシーねーこと言ったよね、ごめんなさい、なまえちゃんのことずっと好きでした、確かに顔が綺麗だなって思ったのが始まりだけどホントです、ホントごめんなさい


サークルのメンバーがおおよそ揃ってしまっていた体育館で、わたしの両手をギュッときつく握りながら涙目になってそんなことを言ってのけた紫原くんには正直羞恥心というものを覚えろ!と叫びたかったが、それ以上に嬉しくてわたしはもう何も言えなくなってしまった。

その日を皮切りにわたしは彼のことを必要以上に意識してしまって、彼がおずおずと話し掛けてくれてもろくすっぽ口すらきけない日々が続いた。しかしそんなある日彼は無言で自身の出場する試合のチケットを手渡して来たのである。手渡してさっさと走り去って行ってしまった彼にわたしはやっぱり言えなかった。わたしこの日バイト入っちゃってます、と。
しかしバイト仲間になんとか頼み込んでシフトを交代して貰い観戦しに行ったその試合の席は最前列。入場してきた紫原くんはわたしに気付くとすぐに目を逸らして少し長めのその髪の毛をヘアゴムで一つに縛った。
その日、彼のチームは実力の拮抗していたはずの相手チームに紫原くんを主な得点源として快勝を収めることになった。







「来てくれてあんがとね」
「……うん」
「俺、頑張っちった」
「…うん、すごかった」
「かっこよかった?」
「うん」
「来てよかった?」
「うん」
「惚れた?」
「…うん」
「えっ」


ちょっとしたノリで聞いてみただけであろう彼が、素っ頓狂な声を上げた。
馬鹿め、あんなかっこいい姿見せられて惚れない女なんていないに決まってんだろーが、とは悔しいから絶対に言ってやらないけれど。
わたしは少しバツが悪くて彼の顔を睨んでみせたが、そんなのお構いなしに彼はわたしを抱き締めた。ばかやろう。


「ちょっと、紫原くん…!」
「やぁだ〜もう俺たちコイビトどーしなんだから敦って呼んでよなまえちゃん」
「ぐぅ……」
「呼んでくれたら離したげる」
「あ、敦くん…!」
「なまえちゃん、好きだよ」


やっぱりだ、名前で呼んだらより一層きつく抱き締められた。なまえちゃん、なまえちゃん、頬をわたしの頭に摺り寄せながら愛しそうにわたしの名前を呼ぶのだ。

あぁ、もう、ばか、好きだから、許す。



***



「敦、く、」
「なまえちゃん」


そうして現在に至る。
わたしの一人暮らしのアパートに敦くんを迎えたのは、付き合って5ヶ月、今日が初めてだ。デートをした、手も繋いだし、キスもした。でも、そういうことはまだしてない。
ご飯を食べて、テレビを観て、敦くんをお風呂に入れさせて、その次にわたしも入った。脱衣所から出てくれば、ベッドに座ってそわそわ落ち着かない様子の敦くん。テレビを観るふりをしたり、ケータイをいじるふりをしたりしている彼を見て見ぬ振りしてわたしは冷蔵庫からミネラルウォーターを出して、小さく飲み干した。ばぁか、わたしのが緊張してるもん。
素知らぬ様子のままベッドに戻り、敦くんの隣に腰掛ける。
その瞬間に、ふわりと押し倒された。


「あのさ」
「ん、」
「…こーゆーこと、していいんだよね?おうち来ていいってことは。」
「……こーゆーことって、なに?」
「ばか、」


顔を赤く染めた敦くんにキスをされて気付く。わたし、心臓すっごくばくばくいってるや。敦くんは初めてじゃない。けど、わたし処女だし。


「えーっと。えっちなこと、していーですか」
「…うん」
「震えてる」
「……」
「はじめて?」
「ん…」
「うれしー」



大学二年生も終わりに近づく、そんな頃なって未だに処女だなんて正直笑われてしまうんじゃないかと考えていたから、嬉しさを抑えきれないといったように笑顔を零した敦くんにすごく安心した。
思えばバスケばかりの青春を送ってきたのだ。彼氏というものには興味があって中学生のときにそれこそ興味本位で作ったけれど、部活に熱中していたわたしたちは早々に自然消滅をしたんだっけ。






「ぁっ、あん、ん、っ!」
「きもちい?もーイく?」
「ぅ、ん…っ、」
「もっと声出してよー」
「ゃ、ぁ、はずかし、ぃ」
「ん?」
「ひゃっ、あ!あぁっ、」


テクニシャンってやつだ、こいつ、手慣れやがって!
数々の愛撫にすっかり濡れそぼったそこに二本指を埋めて内壁の弱い場所を小刻みに刺激してはにやにや嬉しそうに笑う。太い指は緩急をつけてだんだんと激しく攻め立ててくるのでこちらもわけがわからなくなって来た。
不意に愛芽を彼の舌でくりくりと潰されてわたしは遂に我慢が出来なくなった。


「だめっ、それ、ぁあ、っイ、っちゃ…っ!」
「いーよー」
「あぁっ!ぁ、ん、んん、っ!!!」
「イっちゃった?」


身体を逸らして、ぴくぴくと跳ねるのを抑えきれないままわたしは絶頂を迎えた。敦くんの問いには応えず、ぼぅっとうつろに彼を見つめていると、彼の目が欲にぎらついているのが見える。身に付けたままの彼の下着を、痛いくらいに彼自身が押し上げていて。わたしを見て、興奮してくれているんだ。
イってしまったばかりなのに、そんな事実に奥がきゅうんとなって再びむくむくとえっちな気持ちが湧き上がって来た。


「あつしくん」
「んー?」
「…挿れてほしいです」
「……ちょっとやめてよ」
「?」
「ハジメテっつーから、今日は挿れるつもりなんかなかったのに」
「そうなの?」
「俺のマジでデカイから」
「…自慢?」
「そーゆーんじゃなくて!」
「でも敦くん余裕なさそう」
「あのさぁ、ちょっとは彼氏の顔を立てようよ」
「それにわたしだって敦くんのほしい」
「………………」
「んんと、わたしの中、敦くんでいっぱいにしてほしいな?」
「………………」
「敦くんのおちんちんなまえにちょうだい?」


いつか敦くんとこういうこともあるかもと高校時代の友人にAVを借りて、鑑賞していたときにドンッッ引きした女優の台詞をそのままお借りして言ってみたところ、効果は抜群だったみたいだ。さすがは、男性の夢が詰まった魔法のビデオ。
性急に下半身を露出させて手近にあったゴムを被せた敦くんはそのままそれを入り口に突き立てた。


「敦くんの、熱い…」
「しんねーからね、俺、マジで」
「優しくしてね?」
「出来るかわかんねーから!」


それでもいーよ、と笑ったわたしに敦くんは息を荒げて野性的なキスをした。ずくずく、彼が入ってくる度に痛みで目尻から涙が零れた。
それを指で乱雑に拭ってはごめん、ごめん、痛いよね、と眉根を寄せるのだから、ほら彼は十分優しくしてくれてるじゃない。
痛みで意識が飛びそうになるけどそんなもったいないことできないな、だって今こんなにも、敦くんがかっこいい。


好きだよ、口にしてみたけれど、掠れてしまって言葉にならなかった。それでも敦くんは俺も好きだよ、そう返してくれた。




きみがすべてになった日に


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