fantasma | ナノ






All of a sudden, you seemed special. I was way too conscious of my real feelings for you.


北風が窓を叩き始める季節、ぬくぬくとした教室で彼とテスト前の追い込みをたしていた。
英語のテストに出る例文を覚える紫原くんの側で、わたしもそれなりのテスト対策をしていたのだが、それまで黙って教科書を黙読していた彼が急に英文を口にする。
突然のことに驚いてわたしは思わず肩を跳ねさせたが、彼の視線を感じて目を合わせると期待に満ち満ちた目をしていて。しかしわたしは突然彼が言葉を発したことよりもずっと気になることがあった。


「そ、そんな例文テスト範囲にありましたっけ・・・」
「・・・いや、ちげーけど。」
「あ、ですよね。良かった。」
「・・・・・・・・・」
「なら何の英文なんですか?今のは。」
「もう言わねーよ」
「意地悪しないで下さい」
「・・・みょうじさんの馬鹿」
「えぇっ!」
「・・・鈍感。てかマジ鈍い。にぶちん。」
「に、にぶちん?もう・・・なんだっていうんですか?」
「なんでもねーし」


耳に慣れない文章を疑問に感じて聞いてみればやはり、そうだ。テストに出るものではなかった。知らない間にテスト範囲が増えていたのかと思って驚いてしまったではないか。
しかしどういうわけか拗ねてしまった彼はつんとした態度で英文書を眺めているが、今のどこに拗ねるような要素があったのだろう。

わたしは少し考えてから彼の髪で遊ぶように頭を撫でる。
すると彼の機嫌はすぐに治るのだから面白い。

わたしは結局、彼の発した英文がどのような意味であるかなど、考えなかったのである。



独白のゆくえ



「みょうじさん!!!!やばい、俺、天才!!!!」


テスト期間もすっかり明けた翌週の月曜日の話である。
三限の日本史の授業終了の鐘がなり終わった瞬間だ。担当教員の礼と共にクラス中の雰囲気が緩んだと思った瞬間、壊れてしまうのではないかと思うほどの勢いを付けて教室のドアをガラリと明けた人物は、第一声から声を大にしてわたしの名を叫んだのである。

クラス中の視線が一気にわたしに集まるのも無理はない。


「聞いてよみょうじさん!俺さ俺さ、」
「む、紫原くん、人の迷惑にならない所でお話は聞きますから、」
「は?迷惑?」
「と、とりあえず場所を変えませんか?ね?」
「アララ?みょうじさん顔真っ赤だよ?」


あぁ、もう!とにかく出ましょう!
そう言ってわたしが足早に教室を出ると、ちょこちょこと紫原くんも後を着いてくる。ちょこちょこ、というのはわたしの主観を通した感想であり、実を言えばずんずんとかそんな印象を受ける人が大半なのだと思うが、その話は今は置いておこう。

人気のない、特別教室のひしめく別の棟への渡り廊下で足を止めたわたしは改めて紫原くんと向き合った。どこか寂しそうな顔をしていた彼の表情が一気に明るくなる。
こんな巨体を可愛い、と思う日が来るだなんて。


「えぇと、・・・まずは急に場所を変えてごめんなさい。それで、どうしたんですか?」
「そうそう、見てこれ!」
「・・・っ、すごいです!!紫原くん!!」
「でしょ?へへ〜」


一、二、三限ってテスト返しだったんだ〜。お店行くまで報告するの我慢しようかと思ってたんだけど、我慢できなくなっちゃった。
彼はそう続けたが、正直わたしの耳にはあまり入って来ていなかった。
彼に渡された三枚の答案用紙はわたしの心を踊らせる。

現代文、80点。古典、82点。英語、92点。
赤点を制覇していた生徒がここまで伸びに伸びるサクセスストーリーとは一体どのようなものなのか。英語なんて特にわたしだってこんな点数取れている自信がない程だが、勝手に教師を引き受けた手前お恥ずかしい話である。


「俺天才かな〜?」
「そうかもしれないです。本当に、すごい。わたしもとっても嬉しいですよ。」
「頑張っちった〜」
「頑張りましたね。」
「じゃあ・・・ご褒美くれる?」
「返ってきたのはまだたったの三教科でしょう?」
「・・・ちぇっ」
「・・・なんて、仕方がないから、ちょっとだけですよ。」


いつものように頭を撫でて貰えると思ったのかわたしの視線に頭を持ってくる彼の額をぺちりと叩くと、わたしは胸ポケットから黒いペンを取り出した。
不満そうに、だが不思議そうな顔でこちらを窺う紫原くんの見ている横で答案用紙の点数の横に花マルを付ける。三枚の用紙にそれを描いたところでそれらを彼に返した。ぽかん、今にもそんな音を出しそうな顔なのは言うまでもない。


「え、なにこれ。」
「ご褒美です。赤マルじゃないのは申し訳ありませんけど。」
「まじかよー・・・」
「不満でしたか?」
「・・・いや、いい。無いよりは全然マシ。」
「ふふ、もし全教科赤点じゃなかったら紫原くんのお願い、何でも聞いてあげますから。」
「ま、まじで!?」
「二言はありません。」


わたしがそんなことを言えばこれ以上はない程に喜んでいた紫原くんに一体何を強請られるのかは少し不安になったけれど、言ってしまったものは仕方がない。


そう思ってわたしが折角腹を括ったというのに彼はその後一番最後に返却された日本史のテストで見事に赤点をマークし、再試を受ける羽目となった。しかし今回は以前と比べて非常に出来が良かった為か部活からのお咎めはなかったようである。
鬼の申し子だと彼が称していた雅子ちん、荒木先生ですら彼のテストの結果を聞いて目を飛び出させて驚いていたようだ。

それでも悔しいのか恨めしそうな顔でわたしを見ていた紫原くんの頭を撫でてあげたのは、言うまでもない。

それで彼の機嫌が治ってしまったことも、言うまでもないだろう。


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