Dream | ナノ

弱さを知られている


※柳のキャラが崩壊注意。何でも許せる方向けです。大丈夫な方のみどうぞ。










なぜかあの柳蓮二にかまわれる、というと自慢に聞こえるかもしれない。だから周囲には言わないでいる。
それに言っても信じてもらえないだろうから。なぜなら、柳くんが私に構うのは必ずひとりでいる時だけだから。


「あ……あの、柳くん」
「うん? 何だ」
「……私は大丈夫だから、自分の席に戻ったら?」
「そうか」
「……って、戻る気ないよね」


生徒会の副会長になって1ヶ月。
引き継ぎもだいたい終わり、既に新生徒会が仕事をしている。
今日は来月発行予定の百川の原稿を進めているのだけど、私たち以外の役員は全員部活に出ている。だから、ほとんどの机は空席。なのに柳くんは私の後ろにずっと立っていた。


「水野」
「ひっ……!」
「何だその間抜けな声は」
「や、柳くんが耳元でいきなりしゃべるから」
「ほう。水野は耳が弱いのか。いいデータが取れた」
(そのデータ、どこで使うのよ)


耳を押さえながら顔が熱くなるのを感じる。一方柳くんはどこから取り出したのかわからないノートに何かをメモしている。この隙に逃げよう。
と、ゆっくり立ち上がった瞬間、後ろから柳の手が伸びてきて私の行く手を阻んだ。


「今、そのデータをどこで使うのか、と思いつつ逃げ出そうとしているな」
「!」
「……その反応、どうやら図星のようだな。段々とお前の反応を予測出来るようになってきた」
「そ、ですか」


心の中読まれた。柳くん、ただでさえ身体がでかくて威圧感あるのに……。こんなこと言われて萎縮しないわけがない。
何でこんなことになったんだろう。私、柳くんに何かしたかな。思い返しても心当たりが……あった。


(多分、あれだ。初日の集まりのてんとう虫)


引き継ぎの初日。生徒会室での集まりの際に、私の目の前の机をてんとう虫が歩いていた。
ぶっちゃけ虫の類いが大嫌いで、しかもそのてんとう虫は微妙に羽が出てる状態だった。


(あ、思い出しただけで気持ち悪くなってきた)


今にも飛行しそうなてんとう虫と静かに格闘していたら、隣に座っていた人がひょいとそれをつまみ上げた。
助かった、と思った瞬間、てんとう虫はその人の手から滑り落ちる。
そしてそれは私めがけて飛んできたのだ。
悲鳴をあげる私に一旦会議は中断。私と隣の人は前生徒会長にこっぴどく叱られた。


「この状態で考え事とは悠長なものだな」
「!」


そこまで思い返した途端、柳くんのもう一方の手が伸びてきて、気がつけば彼が背中に覆い被さるような状態になっていた。
その時隣にいたのが柳くんで、あの後から私に対するこういった行為が始まった気がする。


「ねえ柳くん」
「うん? 何だ」
「もしかして、初日のこと怒ってる?」
「怒ってはいない。が、あの出来事がきっかけではある」
「やっぱり」
「お前の反応は面白いからな。つい色々と試してみたくなる」


そんなに面白い反応をしている自覚はないんだけど……。私は柳くんのおもちゃか。
にしても背中からの圧力が半端ない。細身に見えるけどさすがテニス部のレギュラーだ。


「……まあ、今日はもういいだろう」
「は? えっ」


次は何をされても反応しないぞ、と意気込んでいたらそのまま彼はスッと離れて自分の席に座った。そして何事もなかったように作業を始めた直後、生徒会室のドアが開いた。


「お、柳と水野。お疲れー」
「か、たくらくん」
「ああ片倉か。部活はどうした?」
「今自主練中。進捗見に来たんだけどどうだ?」


肩にかけたタオルで汗を拭きながら入ってきたのは生徒会長の片倉くんだった。
呆然とする私に気づかないのか、彼は数歩離れたところから私の手元を覗きこむ。


「って、水野全然進んでないじゃねーか」
「あ……」
「こーいうの苦手? なら他の仕事回すけど」
「いや、やる。ごめん、締め切りまでにはちゃんとやるから」
「そうか? で、柳は……もうだいたい終わってるのか」
「ああ。水野、もしよければ手伝うが」
「…………えっ」
「いいんじゃないか? 柳はもう終わるんだろ?」


ついさっきまで私の作業妨害をしていたのは柳くんじゃないか。どの口がそんなことを言うのかと唖然とする。
一方片倉くんは、柳くんからの申し出を好意的に捉えていた。私の穏やかじゃない心中なんて知るよしもないんだろう。


「や……でも柳くん、テニス部だってあるし」
「そちらは大方片付けてあるから問題ない。水野が頑張って締め切り前に終わらせてくれれば助かるがな」
「んぐっ」
「締め切り前に終わるなら俺も助かるわ。水野、柳に手伝って貰えよ。今日1日でその進みって下手したら締め切り間に合わねーぞ?」


呆れたような顔で提案する片倉くんの後ろで、柳くんは余裕のある笑みを浮かべている。
いやでも手伝ってもらうってことはつまり、彼とふたりきりになることが多くなるわけで。それは私からしたら


「……悪夢だ」
「は?」
「今日、家帰ってから頑張って進める。だから手伝いの話はもう少し待って欲しい」


はっきりとした声でふたりに言い放つ。すると片倉くんはちらりと柳くんの方を見た。どうやら意思確認をしたいらしい。


「ってことなんだけど、どうする?」
「本人がそう言うなら俺は構わない」
「ん、わかった。じゃあ頑張れよ水野。じゃ、俺はそろそろ戻るから」
「えっ」
「ああ、お疲れ様」


無情にも片倉くんは生徒会室から出て行ってしまった。
それと同時にカタン、と柳くんの方から音がした。
また何か仕掛けてくるのかも……。その前に、と私は急いで荷物をまとめて立ち上がる。


「さて、水野」
「私そろそろ帰るね! お疲れ様!」


そのまま柳くんの返事も聞かずに生徒会室を飛び出した。
どこか校内に留まって作業するかとも考えたがまた柳くんに見つかったらやっかいだから帰宅することにした。


「待て、水野」
「!」
「……俺から逃げようなど、10年は早いぞ」


飛び出してすぐに柳くんは追い付いて、気づけば私は手を引かれていた。
足の長さが違うからしょうがないんだけど……ってそうじゃなくて。
彼に引っ張られて気づけばまた生徒会室の同じ席に座らされていた。


「な、何を」
「お前が終わる目処がつくまで帰すわけにはいかないな」
「だ、から……柳くんが邪魔しなければすぐに終わるってば!」
「ほう。お前の集中力の悪さは棚に上げて俺に責任を押し付けるのか」
「な……だ、だって誰だってあんなことされて集中出来るわけ」
「だったら俺にやってみろ」
「…………えっ」


売り言葉に買い言葉とはこのことなんだろうか。いやちょっと違う気もするけど。
呆然とする私のことなど気にせず、柳くんは先程自分が作業をしていた机に座った。ひょっとしなくてもこれは反撃のチャンスなのか? そっと後ろから柳くんに近づいて手元を覗くと、綺麗な字が次々に紙に記されていた。


「綺麗な字」
「お前の字よりはな」
「……」
「で? こうして俺は作業を続けられるわけだが反論は?」
「じゃ、じゃあ……」


先程柳くんにやられたことを思い出す。確か次は耳元で声をかけられたんだっけ。そっと彼の耳元に口を近づけて声をかける。


「や……柳、くん」
「何だ?」
「……すみませんでした」
「わかっただろう。それがお前の弱さだ」
「弱さ?」


首を傾げる私に柳くんは手を止めてこちらに向き直った。
いつもは閉じている目を開き、私に言い聞かせるように話を始めた。


「お前は最初の集まりの件を気にしているようだが、あの時話し合いに集中していれば虫に気づくこともなかったし、俺が怒られることもなかっただろう」
「……はい」
「副会長になったんだ。その職務を全うするのに集中力はあって困るものじゃない。その注意散漫になる癖は直した方がいいだろう」


話をしながら柳くんは手元の荷物を片付け始めた。
ちらっと見ると原稿はもう完成している。とか思っていたら、柳くんが持っていた書類の束で私の頭を小突いた。


「痛っ」
「今もそうだ。ちゃんと俺の目を見て、俺だけに集中しろ」
「……え」
「これからも定期的にチェックするからな、覚えておけよ」


何か今、違和感を覚えたのだけど小さく頷く。私の反応に概ね満足したのか柳くんは帰り支度を終えて生徒会室から出ていった。
はあ、とため息をついて自分の席に戻り机に突っ伏す。


「何だろう、このもやもや」


集中力のなさ、弱さ……彼に言われた言葉を反芻する。収まらない胸のもやもやの理由をこの時の私はまだわかってなかった。
そして、その集中力を鍛えるといっていた柳くんの本心も。

Title by OSG

BACK
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -