Dream | ナノ

自分勝手で、テキトーで


※ヒロインにやや強めの設定があったり、立海女子テニス部の設定をかなり捏造しています。
話も暗めです。大丈夫な方のみどうぞ。










立海男子テニス部は全国でも有名な、絶対王者だ。
では女子もそうなのか、と問われれば答えは「NO」だ。


(今日もまともな練習ができなかった)


はあ、と大きくため息をついて部室の鍵を閉める。
原因はきっと、私の統率力だ。私がもっと上手ければ、みんなきっとついてきてくれる。
隣の男子コートを見ないで自分もああなりたいと憧れる。そんな存在になれればと思うんだけど。


「……でも、難しいよね」


そんな技量、私にはない。しかも今女子テニス部は崩壊寸前の状態だ。
練習態度だけではなく、終了後の片付けもみんなテキトーにやるので、備品はごちゃごちゃの状態で倉庫に仕舞われている。
以前これのせいで私は部長会で頭を下げた。部に持ち帰って全員に話をしてしばらくは改善されだけど最近また緩んできている。


「あれ、水野?」
「……幸村」
「こんなとこでどうしたの?」


部室を出た後に倉庫に立ち寄れば、今日はいつも以上にごちゃごちゃに仕舞われている。他の部のスペースを潰す勢いだ。仕方なく、整頓をしていたと話すと幸村は顔を歪めた。


「他の部員は?」
「もう帰ったよ。みんなスイーツ食べるのに忙しいんだって」
「……そうか」
「幸村こそ、どうしたの?」
「帰ろうとしたら倉庫の電気がついてたから、消し忘れかと思ったんだ。最後に片付けるのはいつもうちの部だろ?」
「男子はいつも遅くまでやってるからね」


他愛のない会話をしながら、手は止めない。何でネット入れにボールが突っ込まれてるんだ。ネットに絡まっているボールをひとつひとつ取ってはボールのカゴに戻す。
と、横から手が伸びてきた。なんだ、と思っているとそれは幸村の手だった。


「手伝うよ」
「でも」
「俺だってテニス部だからね。ボールやネットがこんな扱い受けているのは正直怒りを感じる」
「ごめん……」
「さっさとやって帰ろう」
「うん、ありがと」


目が熱くなって、涙が出てきた。それを幸村に気づかれないように軽く袖で拭く。横で黙々と手を動かす彼に倣って、私も作業を再開させた。


「水野ってさ、外部生だよね?」
「うん、そうだよ」
「どこ通ってたの? 公立?」
「…………桜桃って言えばわかる?」
「え、桜桃って」
「去年の女子ベスト4、東北の桜桃女子学院中等部で合ってるよ」


そう、私は去年まで女子テニスではそこそこの強豪校に通っていた。そこではレギュラーってほどではなかったけど3年生の時何回か公式戦に出て勝利している。
桜桃に通っていたことは立海に来てから誰にも話をしていない。幸村が初めてだ。


「何で立海に来たの?」
「高校は実家に近いところでって親と約束してたの。で、テニス強くて一番近いのがここだって聞いてね。男子が強いなら女子もそこそこ強いと思って入ったんだ」


けど実際はそんなことなかった。女子部は形だけの男子見学が目当ての女子が大半。試合をすれば1年生だった私が3年生にストレート勝ちしてしまうこともよくあった。
そんな私は1年生の頃から先輩に疎まれていたんだけど、なぜか部長に指名された。


「部長に指名されたのもきっとこうなるってわかってたんだね、先輩たち」
「……部長会とかで何かと言われるからね。そういえば去年の女子テニス部の部長も何か色々言われてた」
「そっか、幸村去年から部長なんだよね」
「ああ。俺ぐらいしか出来る人がいないからね」
「ふふっ、何それ」


普通な顔して冗談みたいなこと言うもんだから思わず笑ってしまった。
幸村、意外と話しやすい人だな。気づけばボールは全部回収できていた。あとはカゴやネット、予備のラケットなんかを綺麗に戻して作業はおしまいだ。


「手伝ってくれてありがとう、助かったよ」
「いや。俺も水野と話が出来てよかったよ」
「何で?」
「同じテニス部の部長なのに俺、水野のこと何も知らなかったからさ。知れてよかったよ」
「……そう?」


柔らかく笑いながらそんなこと言われて、不覚にもドキッとしてしまった。
きっと幸村は部長同士って意味で言っているのに勘違いしてしまいそうになる。校門に向かって歩き始めた幸村を見送ってから、倉庫の鍵を返却するために職員室へと向かった。







次の日の朝、朝練のためいつも通り登校した。でもいつもは誰もいないはずの部室の前に今日は人影がある。
珍しいなと思って駆け足になったのは、鍵を持っているのが私だけだから。部室が開かなくて困っているんだろうと思ったからだ。


「ごめんね、今開け」
「おはよう、水野。やっぱり君が一番なんだね」
「幸村……」


部室の前にいたのは、もうジャージに着替え終わっている幸村だった。男子の朝練はもう始まっているのにこんなところにいていいのだろうか。


「今日は真田が見ているから大丈夫だよ、ちょっと話がしたくてね」
「話?」
「うん。とりあえず着替えてきなよ。話はその後でするから」
「あ、うん」
「あとラケットも忘れずにね」
「?」


部室に入りすぐ練習着に着替えた。一応言われた通りラケットも持って行く。鍵置き場に鍵をおいて外に出れば幸村から着いてくるように言われた。


「どこ行くの?」
「行けばわかるよ」


行けばわかるって、話をするだけじゃないのか。意味がわからないまま着いて行き、気づけば男子が練習しているコートに来ていた。どういうことだと聞く前に、幸村は何食わぬ顔でコートに入っていく。


「水野も入って」
「え、ちょっと幸村」
「悪いけど、玉出しやってくれないかな? 今日個人練習で人が足りなくて」
「あ、うん」
「ありがとう。じゃあ右端のコート頼む」


話をするんじゃなかったのか、と思いながらコートに入れば1年生と思われる男子が「お願いします!」と頭を下げた。
ラケットを持ってきて、ってもしかしてこのため? 人が足りないなら素直にそう言えばいいのに。


「うわっ!」
「えっ?」
「……あ、すみません! もう一度お願いします!」


コートの向こうの相手にそんなことを言われたのは久々で、なぜか胸がじーんと温かくなった。
そうだ、こういう部活がやりたいんだ。隣のコートのかっこいい男子を見るんじゃなくて、見られるくらい強くなって……。


「水野、交代。ありがとう」
「……幸村」


玉出しをしていた手を握るように止められて、後ろを振り向くと幸村がいた。
ああ、幸村の言いたいことがわかった。
部活って、テニスって相手がいて初めて成り立つものだ。確かに練習の時、向こうのコートに人はいるけど、その人は大概隣の男子テニスの方ばかり気にしていて、こちらを見てはいなかった。
……やり直したい、女子テニス部も。部長なんだから、私が何とかしないと。


「幸村、私」
「あの部活を建て直す、なんて言うなよ?」
「……えっ」


思ってもいなかった言葉に顔を上げると、幸村は真剣な眼差しで私を見ている。
呆然とする私の手をそのまま引いて、コートの端の邪魔にならないところに向かう。私がいたところにはもう別の部員がいて普通に練習が再開されていた。


「あの部活を建て直すなんてもう無理だと思う。俺は次回の部長会で女子テニス部との練習時間をずらしてもらうように提案するつもりだ」
「えっ」
「もう他の部長に根回しもしてあって、承認される手はずになってる」
「!」
「正直に言うと、男子は結構迷惑しているんだ。声が煩くて集中できないし、隣であんなやる気のない態度を見せられるとこちらの士気も下がる」
「……」
「だから、練習時間をずらせば俺たち目当ての子たちは来なくなるだろう? それで何人残るか、柳に概算してもらったんだけど……」


そこで幸村は一旦話を切った。はあ、と息を吐いて心を落ち着かせているように見える。
それだけ重い言葉なんだろう。


「残るのは、水野と、いても2、3人だろうって」
「……」
「もちろんそんな数じゃ活動実績は残せないし、多分来年には廃部になると思う。部長の君にこんなことを言うのは酷だと思うけど、わかって欲しい」


本当に申し訳なさそうに頭を下げる幸村に、何も言えない。部活がなくなるってことは、私がテニスをする場所がなくなるってこと。外部の施設を利用するという手もあるけど高校生には敷居が高い。


「それで、ここからは未来の話なんだけど」
「未来?」
「うん。女子テニス部が廃部になって、俺たちが3年生になったらマネージャーになって欲しい」
「…………えっ」
「水野にはテニスに関わることを止めて欲しくないんだ」


幸村の言葉ぎゅっと胸が締め付けられた。誰かに望まれることがこんなに嬉しいなんて初めてだった。


「言葉が悪いかもしれないけど、水野はあんなところにいたらダメだ。その気持ちも才能も、潰れてしまう」
「っ……」
「俺たちと一緒に全国制覇を目指そう、水野」


ぎゅっと両手を握られて、弾みでラケットが落ちてしまった。頭も目も熱くて、涙もボロボロ溢れてきている。
部長としては最低の決断だと思う。自分勝手な気持ちだったと後悔するかもしれない。
それでも私の、今の気持ちを汲んでくれた幸村に感謝をして、首を縦に振った。

Title by OSG

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