Dream | ナノ

知らない方が幸せなこと


※幸村目線の低レベルギャグ。ヒロインが色々と酷いです。キャラ崩壊注意(特に幸村)真田があんまり出てきません。
ほんの少しですがBLといった言葉が出てきます。何でも許せる方向けだと思われます。大丈夫な方のみどうぞ。













親友に彼女が出来た。とても喜ばしいことだし、俺もお祝い出来るものならしたい。
ん? この言い方だと祝いたくないように聞こえるって?
……ああ、そうだよ祝いたくないよ。むしろ早く別れろって思うね。


「あの……幸村先輩?」
「ん? 何だい?」
「眉間にシワが寄って……ます」
「ああ、ごめん。ちょっと、ね」


おずおずと声をかけてきたこの天使みたいな子だったら俺だって歓迎するさ。
よかったな、真田。幸せになれよって。
ちなみにこの天使、花野さんは俺の彼女だから何があってもあげないけど。


「あまり、無理をしないでくださいね。ただでさえ部長のお仕事大変なんですから」
「花野さん……ありがとう」
「えへへ」
「やっだー、もう乙女ちゃんのエンジェルスマイルいただきましたっ!」


ああ幸せだな、っていう気持ちを2秒で破壊する悪魔の声が聞こえて俺は思わず舌打ちをする。
声のする方を見れば、そこにいたのは……


「水野、うるさい。さっさと帰れよ」
「そう思うなら早く部活切り上げなさいよ、幸村。そうすれば愛しのゲンイチローとさっさと帰るわよ」


隣の天使より10cmは高いところにある口がニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
まさかあの真田がこの大女、水野歌と付き合うことになるなんてまさに悪夢だ。







水野歌は有名人だ。身長が高いだけでなく言動が男らしいから、女子の中にはファンが多い。よく廊下で歌様歌様と騒がれている。
そんな彼女の好きなものは可愛い女の子と日本男児。特に後者をずっと探していて、理想の王子様が真田だったわけだ。


「ゲンイチロー、お疲れ様!」
「む、水野か。まだ帰っていなかったのか」
「うん。一緒に帰ろうと思って。テストも終わったしさ、どっか遊びに行こうよ」
「下校途中に寄り道とはいかがなものかと」
「寄り道じゃなくて、パトロールよ。最近、駅前で立海の子がナンパされるらしいよ? 未然にそういうトラブルを防ぐのも風紀委員の仕事だと思わない?」
「……確かにそれは捨て置けんな」


いやいや、そんな話聞いたことないから。真田騙されてるって。
だいたいそれは風紀委員じゃなくて警察の仕事だろ、どう考えても。
とか心の中で突っ込んでいたら水野が急にこちらを見た。


「幸村もくる?」
「は、何で俺が」
「あっそ、じゃああんたは不参加ね。乙女ちゃんが好きなマ○クのストロベリーサンデーの無料クーポンがあるのよ。しかも期限は今日まで」
「えっ」
「乙女ちゃん、来る?」


俺の後ろで作業をしていた花野さんはぴたりと手を止めて、水野の方を見た。
窺うように俺の様子を見る。その目から「行きたいけど、幸村先輩は水野先輩のこと苦手だし」という彼女の心が読み取れた。


「……やっぱり、俺も行くよ」
「じゃあ、私も」
「オッケー。じゃあ私校門で待ってるから。着替えたら来てねー。ゲンイチローまた後でね」
「!」


なぜか最後に投げキッスを真田に向けてする。と、他の女子から黄色い悲鳴が上がった。真田は顔真っ赤にして呆然としているし、他のメンバーも浮き足立っている。
そして、俺の機嫌はすこぶる悪くなった。ベンチから立ち上がり声を張り上げる。


「みんな動きが悪いよ! 校庭50週!」


俺の一言にテニス部員の顔が一気に青くなって、空気が引き締まった。
バタバタとテニスコートから出ていく部員達を見て、俺は頭を抱えてしまった。







練習後、支度を終えて校門に行けば水野が数人の女子と話をしていた。
いや、正確には侍らしている、といった方がいい。女子たちの目には一様にハートが浮かんでいる。


「お、やっと来た。それじゃあ、みんなそろそろ帰ろうか」
「えーっ、私たちも歌様と御一緒したいです」
「歌様、ダメですか?」
「うーん、今日はちょっとね……。その代わり、明日はみんなで遊びに行こう? ちゃんとクラスまで迎えにいくから」
「えー、そんなこと言って私たちのクラスわかるんですかー?」
「もちろん。じゃあひとりずつ答え合わせね」


困ったように笑いながらそこにいた女子の学年クラス名前を全て言い当てている。
言われた女子はきゃあああなんて黄色い声を上げて、頬を赤く染めていた。


(……俺たちは一体何を見せられているんだ)


多分、花野さんも同じことを思っただろう。
水野に名前やクラスを覚えてもらっていることに満足したのか、女子たちはバタバタと帰宅していった。


「ふう、やれやれ。ごめんね、待たせて」
「いや……別に」
「あ、もしかして私が可愛い女の子に囲まれてるの見て嫉妬したの? 幸村って意外と私のこと好きだよね」
「何でそうなるの。普通それは真田に言うもんだろ」
「ゲンイチローはそんなこと気にしないよね?」
「うむ、仲が良いんだな」
「ダメだこりゃ」


がっくりと肩を落とした俺に花野さんが慌てて寄り添ってきた。
もう、このふたりには関わらない方が俺の精神衛生的にいいんじゃないか。なんて思ってしまうほどに疲労が蓄積された。







そもそも俺と水野の家が近所で、たまたま俺の試合を観に来た水野が真田に目をつけたのがきっかけで話すようになったんだ。
だから、こうなったのは俺の自業自得といえばそうなんだけど……いやもうこの事考えるのは止めよう。


「…………何してんだよ水野」
「え? 乙女ちゃんの口にクリームがついてたから取ってあげようかと」


先にメニューを注文して席を取っていた花野さんと水野がものすごい近距離で見つめ合ってたもんだから思わず口に出てしまった。
確かに花野さんの口元には少しクリームがついているけど……。


「素直にそこにある紙ナプキン渡せば済むだろう」
「あら、幸村わかってない。女の子はこういうことにキュンとする生き物なのよ?」
「それは彼氏である俺がすることだろ、外野は引っ込んでろ」
「外野はどっちよ。私は乙女ちゃんとゲンイチローしか誘ってないのに。来たのはそっちでしょ?」


バチバチと飛び散る火花。それが見えるくらいの眼光で水野を睨み付けた。
やっぱり、俺はこいつが気にくわない。本当に自分が好きなもの以外には辛辣でどうしようもなく無関心だ。


「おい、水野。幸村の前でそういうことは止めろ」
「!」
「ゲンイチロー」
「幸村も座れ。花野が困っているだろう」


言われて花野さんを見れば困ったように俯いている。それを見て我に返った俺は慌てて彼女の肩を叩いた。


「あ……」
「ごめんね。せっかく来たのに」
「い……いえ、私は大丈夫ですから」
「本当に乙女ちゃんは健気ねー」


まるで私には関係ないと言いたげに座り、ポテトを頬張る水野を再び睨み付ける。
と、真田がゴホンと咳払いをした。


「いい加減にしろ水野。なぜそんなに幸村を挑発する」
「え、だってじれったいんだもん」
「何?」
「幸村さぁ、いつになったら乙女ちゃんのこと名前で呼ぶのよ」
「!」
「私が乙女ちゃんにちょっかい出してればさ、どっかで俺の乙女に触んな! くらい言うかなーって思ってたんだけど」


そこで一度区切って水野はドリンクを口に含んだ。
……つまり、俺たちのため? 思わず花野さんと顔を見合わせる。
何だ、意外といい奴じゃないか。感心してしまった。


「結局、幸村がヘタレでそんなことにならなかったけどね」
「……」
「私が男だったら乙女ちゃん奪うところよ? よかったわね、私が女で」


見直したのもつかの間、こいつ本当にムカつくな。余裕ぶっこいている姿が余計にイライラする。
一言言い返してやろうかと思ったが、先に真田が口を開いた。


「それは困る」
「えっ?」
「……水野が男だったら俺は誰を好きになればいいのだ」
「っ!」


何とはなしに言ったんだろう。真田は特に気にすることなく目の前のハンバーガーを食い始めた。
その横で水野が顔を真っ赤にしている。初めて見た、こいつにも照れってもんがあるんだな。


「……大丈夫よ、ゲンイチロー」
「ん?」
「……私、もし男でもゲンイチローとBLするから!」


シーンと静まり返る周囲の空気。あ、わかったこいつにないのは恥じらいだ。
さすがの真田も凍りついている。と思ったら、彼は首を傾げ始めた。


「水野、びぃえるとは何だ?」
「ん? ああゲンイチロー知らないんだ。BLって言うのは……」
「水野先輩、そこまでです!」
「真田、知らない方が幸せなこともあるんだよ! それよりとっとと食べよう!」
「あ……ああ」


なぜ俺たちが止めに入るのかがわからない真田はどう見ても納得してなかったけど頷いた。多分、俺たちがかなり慌てていたからだろう。
そして、そんな俺たちの様子を水野は面白いものでも見ているようにニヤニヤ笑っていた。







次の日の朝練。
真田は水野の顔を見るなり気まずそうに逃げていたから、きっと帰ってから調べたんだろう。


(あんな反応、水野のおもちゃになるだけだろう)


コートの外から聞こえる水野のゲンイチローと呼ぶ声を聞きながら俺はため息をつくしか出来なかった。

Title by OSG
『知らない方が幸せだったかもしれない』改題

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