Dream | ナノ

大丈夫、すぐ俺のこと好きになるから


※幸村のキャラがかなり崩れてます。大丈夫な方のみどうぞ










「水野さん、日曜日暇だよね?」
「何でそんな決めつけた質問するんですか。確かに暇ですが」


元来の淡白な性格が祟って彼氏に振られたのは確か先月のこと。友人も少なく、あまり社交的ではない私の休日は趣味に時間を費やし、ひとりで過ごすことが多い。
だからといって決めつけられるのも腹立たしい。怒りを込めた目で同じ部署の先輩である幸村さんを睨み付ける。だが彼はそんな私の怨念をものともせず、笑顔で何かを差し出した。


「何ですか、これ」
「知人に美術展のチケット貰ったんだ。よかったら一緒に行かない?」
「……何で私と?」
「1つ目は暇そうだったから、2つ目は休日の水野さんがどんななのか興味があるから。」


興味って……何だこの男は。失礼にも程がある。モテるからって調子に乗り過ぎ。
先輩だから直接は言えない思いを込めてジロリと睨み付けてみたがこれまたそんなものには屈せず、チケットを1枚机の上に置いた。


「日曜の朝9時に駅で待ち合わせね。来なかったら未だに実家に暮らしている君の家まで迎えにいくから」
「は?!」
「それじゃあね、水野さん」


キラキラした笑顔で自分のデスクに戻って行った。
いや、ちょっと待て。何で幸村さんは私が未だに実家暮らしだと知っているのか。
直接彼に話した記憶はないし、むしろ同じ部署の人どころか会社の人にだって話した記憶は……あった。
恐らく情報源であろう人物宛の書類を入れた茶封筒を持って向かうのは別部署。


「花野、さん?」


後ろから声をかけると、花野乙女はびくりと肩を震わせた。
別部署の同僚、花野乙女は私の数少ない友人。恐らくこの会社で唯一、私が実家暮らしをしていることを知っている人物。
くるりとゆっくり振り返った彼女は苦笑いを浮かべていた。


「な、何でしょう?」
「これ、お願いします」
「は、はーい」
「それと……幸村さんに私のこと喋ったのあんたでしょ?」
「……何のことやら」
「とぼけるなら、あの事課長にチク」
「だって幸村さん、私が好きなケーキ屋のタダ券くれたんだもん」


思いの外あっさりと白状したなと思ったら彼女は手を動かしながら私が怒る前に口を開いた。


「幸村さん、歌のこと悪いようにしないと思ったんだもん」
「え?」
「歌も彼氏いないんだから、期待のエースと付き合うのも悪くないでしょ?」
「そういう問題じゃ」
「はい、できた。戻った戻った」


話の途中だったが、あっさりと終わらせた書類を押し付けてきた。
もう一言くらい何か言ってやりたかったが、乙女の部署の上司は仕事中の雑談などの類いを嫌う人だ。
今も窓際の席から咳払いが聞こえたので、私はすごすごと自分の席に戻った。







「やあ、来たね」
「まだ待ち合わせの10分前なんですけど」
「俺は15分前行動をする主義なんでね。行こうか」


まさか先に来ているとは思わなかったのでびっくりしていると、幸村さんは先を歩き出した。
それに続くように歩いていると突然手を捕まれ、そのまま横に並ぶように歩かされる。


「ちょ……」
「隙を見て逃げられたんじゃあ面白くないからね」
「逃げませんよ」
「念には念を、ってね」


そのまま美術展の会場に着くまで手を捕まれたまま。
受付でチケットを見せて入ると中には様々な絵が飾られていた。
普段、あまりこういうものを見る機会がないので絵の良し悪しはさっぱりわからないが何か圧倒されるものがあって思わずため息が出る。


「どうだい?」
「私、美術館って学生時代からまったく来たことなかったんですけど……大人になってから来るのも悪くないですね」
「だろ?」


どや顔で言われて少々悔しいが今回は認めざるを得ない。
その後彼と美術館を回り、併設する喫茶店でお昼を兼ねた軽食をとることになった。
オーダーを聞きに来た店員さんにそれぞれのメニューとコーヒーを2つ頼むと幸村さんはお冷やを一口で飲み干した。


「そんなに喉乾いてたんですか?」
「結構乾燥してるからね」
「はあ……」


私から話しかけたものそれ以上話が続かなかった。
すると彼は私が「つまらない」と思っていると思ったようで苦笑いを浮かべて口を開いた。


「付き合わせて悪かったね」
「……ホントにそう思ってます?」
「ふふっ、そんなこと微塵も思ってないよ」
「性格悪っ……」
「裏表を使い分けが上手いだけだよ。君には通じないみたいだけど」


そこで注文したコーヒーが来たので一度話を止める。
ついでに幸村さんはお冷やのおかわりを頼んで、すぐに注いでもらっていた。
そういえば日曜日なのにあまり混んでないな。彼なら事情を知っているかと思って聞いてみる。


「ここは来館者しか入れないんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。だから静かだし、俺はよく来てるよ」
「ふーん」
「水野さ、もう少し他人に興味持った方がいいよ。淡白すぎ」
「元来の性格です。放っておいてください」
「やっぱり面白いね。水野は」


あきれるかと思いきや幸村さんは思っていたのとは真逆の反応をしていて、こっちが拍子抜けしてしまった。
大概の男はこんな態度だと呆れ返ってしまうのに。ちなみに彼氏と別れた理由もデート中にずっとこんな態度をとっていたからだ。幸村さんってちょっと変わり者かもな、なんて思った。








その後食事を済まして家まで送ってもらったのだが運悪く、ちょうど夕飯の買い物から帰った母に見つかってしまった。


「あら、歌……と、どちら様?」
「こんにちは、初めまして。幸村精市と申します。歌さんとは会社の同じ部署で」
「ま、もしかして彼氏?」
「えっ?」
「……えっと」
「まあそうなのね? もー歌ったら、そういう人がいるならちゃんと教えてくれないと!」


幸村さんが絶妙なタイミングで言い淀んだから、母は勘違いをした。
私が弁解するのも聞こえていないのか買い物袋の中を確認している。


「足りないから買い足してくるわ! あ、お夕飯一緒に食べましょ!」
「え、ちょ」
「歌、これ冷蔵庫仕舞っといて」


私に買い物袋を押し付けて元来た道に戻っていった。
さすがの幸村さんもこの展開は予想できていなかったようだ。ポカンとしている彼に声をかける。


「……幸村さんさえよければ、食べて行っても」
「じゃあそうさせてもらうよ」


意外にも迷い無くあっさりとそう言ってのけた彼を家に招き入れる。
冷蔵庫に預かった食材を詰めている間、リビングで待っていてくれと言うと彼はこちらを見て口を開いた。


「水野さんの部屋が見たい」
「無理……です」
「なんで?」
「汚いので。それに彼氏でもない男を部屋に入れる程私は不用心じゃありません」
「でもさ、彼氏でもない男を誰もいない家に上げている時点でもう随分と不用心だと思うよ?」
「え?」


そう言うや否や、幸村さんは私の手を掴み自分の方へと引き寄せた。
突然の出来事に困惑していると耳元で彼が囁くように話し始めた。


「何がなんでもキミを手に入れたいと思っていたんだ」
「!」


何とか離れようとするが、思いのほか力強く抱きしめられていて身じろぎ1つ出来ない。
少し大きめの声で離すように言ってみるが彼はそれを無視してさらに力強く抱きしめて来る。


「…っ……なんで!」
「なんでって?」
「何で私、なの?」
「全てが俺好みだったんだよ」


幸村さんは少し力を緩めた。けど離れる事は出来ず動いたのは首の部分だけ。
息苦しかったので上を向くと、ニコリと笑った彼の顔が間近に見える。


「その髪の色も髪型も……目も鼻も口も」
「や……」
「外見だけじゃなくて、今日1日一緒にいて内面も俺の理想通りだ」
「りそ、う?」
「俺を好きになってもあまり干渉しない、束縛しない、君みたいな子をずっと探していたんだ」
「そんな人、私以外にも」
「いないよ。どいつもこいつも何かしらの下心や企みを持って俺と接してくる。特に女性はね」


吐き捨てるように言った彼は普段の穏やかで優しい幸村さんではなかった。
ああそうか、この人はきっと女性関係で苦労したのだろう。だから歪んでしまったのだ。
私がさらに口を開こうとしてもこれ以上は何も言わせないと言わんばかりに力を強めて私を抱き締める。


「俺のものになるっていうなら離してあげるよ」
「は……?」
「時間的にもうすぐお母さん帰って来るよ? こんなところ見られたらどちらにしろ勘違いされるだろうけどね」


確かに時計を見ると、もう5分もしないでお母さんは帰って来るだろう。
そしてこんなところを見られればきっと完全に勘違いをするだろう。
親の前でこの姿をさらして、恥ずかしい想いをして彼のものになるのか。
それとも今ここで降参して彼のものになるのか。
そのどちらかしか選択肢は残されていない。


「大丈夫、すぐ俺のこと好きになるから」


幸村さんのその言葉を最後に聞いて、私はコクリと頷いてしまった。

Title by 確かに恋だった

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