ぼっちなう | ナノ





とある部屋の前で、一人の男が立ち止まっていた。男は普段は学級委員長の活動場として使われているその部屋の障子に手を掛けようとしてその手を引っ込めるのを繰り返している。明らかに挙動不審、道にいたらお巡りさんに話しかけられるであろうその怪しい男は、まあ皆さんのお考えの通り俺である。
活動時間よりかなり早く来た俺だったが、未だにその部屋に入れていなかった。ああ畜生、行けっほれっ頑張れ俺!できるって!大丈夫だって!


「そろそろ入ったらどうだ?」


いつまで経っても手の往復を繰り返すだけの俺の目の前に何かが淡々とした声と共に垂れ下がってきた。驚いて出かけた叫び声をぐっと飲み込む。廊下の屋根裏に足を掛けて俺の目の前、本当に眼前に現れた人物は学園内でも有名な顔であった。数秒無言のまま見つめあった後、相手側が口を開く。

「なんだ、もう少し驚くと思ったんだが」

逆さまに笑ったその顔はろ組の鉢屋君、もとい不破君の顔だ。
まあ入れよ、と言いながら彼はくるりと地面に降り軽々と障子を開けた。


「お前がどれくらい時間をかけたら入ってこれるのかと思って気配を消して待ってたんだがな、いつまでたっても入ってこなかったからついに出てきてしまったよ」

ああ、お茶がもう冷めてしまったな、と言いながら彼は机の奥側に座って急須の側面を軽く撫でた。その仕草が慣れたもののような気がしてここは彼のホームグラウンドなのだと感じる。思えばこの部屋自体も六年を差し置き学年を統一する学級委員長委員会の委員長代理、天才との異名をもつ彼に見合ったどこかおぞましい雰囲気を密かに漂わせている気がした。ここから俺と鉢屋君との一対一、生きて帰ることはできそうとしても精神をごりごり削られそうである。端的に五文字でいうと、マジ怖い。

「で、お前はいつになったら入ってくるんだ?」

鉢屋君が未だ廊下に立ちすくしている俺に向かって呆れたように言った。俺はそれに正直に答える。


「そ、想像以上に吃驚して……」


そう、俺は先ほどの突然の対面に軽く腰が抜けていた。

朝の、人気のほぼ無い学級委員長委員会室の周りに、鉢屋君の笑い声が響き渡った。






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