「はじめっ!」という先生の合図に俺たちはすぐ動きぶつかり合った。
相手の鉢屋君は俺と同じ苦無を使っていて近距離の戦闘が続く。しかし同じ武器とはいえ、相手の有利さがすぐに分かった。どんな生徒だって苦無は普段から使う機会が多いものの、大抵の授業や戦闘ではほぼコンプリートと言える程度には苦無を使ってきた俺にもどこか余裕を見せて闘う鉢屋君はなるほど、やはり紛うことなき天才という奴なのだろう。
「ぐっ、」
スピードも入れてくる場所もすべてが正確で、俺にはぎりぎりくらう前に受け止められる程度。どんどん体力がすり減っていくのを自身の荒くなっていく息遣いが物語っている。
やっとのことで彼を大きくはじいたがそんなのには目もくれず、間髪入れないで鉢屋くんは飛びかかってきた。
ガキンッ
双方の苦無が悲鳴を上げて、俺の手からはくーこちゃんがすり抜ける。
マジか。やばい今回は他の武器や薬は持ってきていない。絶体絶命。
そういつもの調子で思ったが、次の瞬間俺の頭の中は空っぽになった。
目の前には、俺の顔。
勿論学園内では留まらずに、一部の学園外にまで知れ渡る彼の変装技術は俺も知っている。そこにいたのは確かに変装名人と呼ばれるだけある、本物と寸分違わない俺の顔だった。そのあまりにも似すぎた顔のためだろうか。彼の完璧な変装技術による俺の顔から脳裏に一つの場面が思い起こされた。
今朝の夢。
なんてことはない、よく在るような良くない夢。ただひたすら自分が情けない夢。もう戻れないというどうしようもない夢。
頭の中が真っ白になる。戦法とか、勝ちだとか、負けだとか、全部が、只々真っ白。
真っ白の中で、俺は『俺』の顔面に拳を入れた。