ぎりっぎりだった。我ながらぎりっっぎりだったとすごく思う。
お互い礼をして、ぱちぱちと形式的な拍手が起き、そしてその後俺は周りのため息を聞いた。傷ついた。
かみこちゃんが大丈夫か気になったが、それ以上に自分の左手がお前マジで大丈夫かと問いたくなるほどの状態だったので俺はとりあえず急いで保険テントに向かおうと思った。また善法寺先輩にお世話になってしまうなと申し訳なくなりながら振り返ったその時、俺に「あっ、おい!」という声が後ろから掛けられた。多分。俺だよね?声掛けられたの俺であってるよね?違ったらどうしようとびくびくしながら半分だけ振り替えると、竹谷君がこっちを見ていた。俺であってたようだ。良かった。
それにしてもなんだろうか、まさか、竹谷君は俺が彼の大事にしているかみこちゃんに手を出してしまったことについて怒っているのでは…!と思っていたら彼が口を開いた。
「悪いな。俺もちゃんと躾けてたつもりだったんだけど…」
「?」
「腕の怪我。大丈夫か?」
!!!!!
た、竹谷君…!!!君は、君ってやつは…!!!
「あ、や、いや、大丈夫だから…」
とりあえず返事をしたが、俺はあまりの竹谷君の優しさにキョドってうまく発言できなかった。竹谷君が輝いて見える。かっこいい。
「いや、その怪我は本当に俺が悪かった!ごめん!」
そう言って竹谷君はパンッと手を合わせて頭を下げた。頭を下げられて面食らった俺は慌てる。
「大丈夫、なわけないよな。俺、テントまで連れてこうか?」
「いや、本当に大丈夫で…それより、その、かみこちゃん?を、」
「かみこ?」
「ああ、俺、薬ぶっかけちゃったから。毒性はそんな強くないから大丈夫だと思うけど、とりあえず水で洗い流さないと…」
なるべく普通に答えたつもりであったが、俺の心内はもうお祭り騒ぎのパレード状態、そしてパニック状態。なんてったって対人でこれだけ長文を口にしたのは超久々だ。やばい、俺今日本語喋ってる?大丈夫?ねえ大丈夫?
「かみこちゃんのこと、ごめん。じゃあ、俺テント行くから。心配してくれてありがとう。」
「あ、ああ、分かった。ほんとごめんな。お大事に。」
とりあえず大丈夫だということを精一杯伝えて俺は逃げるように保険テントに向かった。竹谷君の輝きにやられるかと思った。いや正直やられた。
嫌なことあった分いいことはあるというが、まさか狼に咬まれてここまでいいことがあるとは思わなかった。こんな良いことあるんならもういくらでもかみこちゃんに咬まれてもいいと思った。
かいっわ、かいわわっかかいわ、人とかいっわー、とるんるんらんらん歌いながら俺は保険テントを目指した。