番外編 | ナノ





※ちょっとシリアスっぽい


なんだか寝付けない夜。数十度目になる寝返りをついて俺はため息を吐いた。

目を瞑るが眠気も何も襲ってこない。むしろ俺が襲ってやろうかというレベルの勢いで俺は寝付けなかった。
決して少しも眠くない訳ではないのだが、眠気は三歩手前から俺をじっと眺めているだけで俺のもとに来る気配がない。明日も授業がある身としては大変辛い状況である。


ふと、俺をじっと見つめている眠気は人間の影に変わった。


こちらをみているその人が笑っているのか泣いているのか、喜んでいるのか悲しんでいるのか俺には分からない。
だれなのかと問うてみる。口が動いた気がした。何と言っていたのかは分からなかったが。
近くでもなく、かといって決して遠くにいるでもないその人に俺は一言言葉をかける。再度口が動いた。今度は聞き取れた。



その影が平成での俺の親であり、家族であり、友人であり、クラスメイトであることを俺はなんとなく分かっていた。



***



人を殺めたと言ったら、あの時代の周りの人間はどんな顔をするだろうか。

一体何の冗談かと笑うだろうか。友人だったら笑い飛ばして、あるいは悪ノリしてくるだろう。
本当だとしたら、俺の周りから離れてしまうだろうか。俺のことを、どう思うだろうか。


両親はどうだろう。
怒るだろうか。悲しむだろうか。泣くだろうか、苦しそうな顔をするだろうか。
何も言わないまま、ずっとそばにいてくれるかもしれない。

小学生の時ひょんなことから喧嘩したケンタくんに怪我をさせたことを思い出す。もちろん俺も傷だらけで、俺はお互い様だと思って謝らないでいたが、俺の親はそのことにすこぶる怒り、傷だらけの顔にベシンとビンタを浴びせてケンタくんに謝らせに行かせた。あんたは人を、それも友達を傷つけておいて何をふてぶてしくしてるの、とまっすぐに目を見据えられて語られたそれはその時自分が抱えていたもやもやを全てはっきりと照らし出して、擦り傷とひりひり痛むほっぺたを押さえつつ、俺は泣きながら自分が何をしてしまったかを悟ったのだ。

人を傷つけることは理由がなんであれ最低な行為だと、俺は分かっていたはずだ。それこそここにいる俺の同級生よりも長く生きていたのだから。


それでも、それが仕事になってしまった。
両親に教えられたことを、俺は今全否定して生きている。自分が生きるために。
ここでは生きることは死と隣り合わせで、仕事のために人を殺めて、生きるために人を傷つけて、守るために誰かを裏切る。

全てがあのときと正反対で、その違いが俺は苦しかった。

もし両親がいたら。人を殺めたのだと、歳も何も関係なしに泣いて縋りつく俺を叱りつけて、そして、そんな俺を受け止めてくれたら。



「助けて」




必死に絞り出した言葉に返ってきた影の声は実にシンプルに俺を拒絶する言葉だった。




『 さよなら 』




影は淡い光に照らされて消えた。



***




気付けば朝。まだ白くて淡い光を障子越しに感じて俺は閉じたままの目を開けた。
寝たような、寝ていないような微妙な境界を行ったり来たりしたせいか、まだ頭はぼうっとしていた。

もし、馬鹿みたいだと誰かが笑ってくれたら、すべてが嘘だったらと言ってくれたら、なんて考えたところでその誰かはここにはいない。

障子を開けたら、そこはいつも通りの、学園の庭がある。台所もリビングも、母さんも父さんも、高校も友人もクラスメイトも、割と好きだった生物も忌々しい数学ももう目にすることはないのだ。


あの場所で死んだ俺に、帰る場所なんてない。





現在と、過去である未来との差異について





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