![](//img.mobilerz.net/sozai/1607_w.gif)
ろっこ!
「名前ちゃんは鉢屋のどんなところが好きなの?」
ちょっと前、俺はそう質問をしたことがある。
「え、全部?可愛いところとか。」
「はは、やっぱりかー。」
「やっぱりと言われましても…。」
「特別ここが好き!とかは?」
当たり前のように全部と答えられたが、この疑問は多分、俺ら5人がずっと気になっていることだろうから俺は食い下がってもう一歩踏み出した質問をした。
「なに勘右衛門君。やけに興味深げだね。」
「えーだって気になるじゃん。」
「んーむ、というか全部が特別?みたいな。」
「すごいな。」
大方想像していた返答だったので俺は、まあ、健全なストーカーな彼女らしい答えだな、なんて軽く思ったのだ。
「あ、でも。」
そこでこの話題終了かと思いきや彼女がふと思い出したように呟いた。俺はそれに耳を傾ける。
「鉢屋君は突然、すごく綺麗なことを、いうから。」
「え?」
「そんなところが、私はきっと、好きになったんだよ。」
驚いた。
さらり、と彼女が言った一言は、長年と友人をしている俺たちぐらいしか気付かないようなことだったから。
たったそれだけで俺は、彼女が鉢屋のことをすごく理解していると思った。分かった。
「よっし、終わった!先生に渡してこなきゃ。じゃあね、勘右衛門君。」
そういって今日が日直当番であった彼女は日誌を手に廊下に出て行った。俺はじゃーね、と言いながら名前ちゃんの後姿を見送る。
鉢屋は随分良いストーカーをつけたなぁ、なんて考えながら俺は誰もいない教室の天井を見上げた。
鉢屋のストーカーとここまで仲良くなるなんて正直俺ら5人とも考えもしなかったことだろうと思う。勿論鉢屋含めて。
ひょっとしたら名前ちゃん本人もそうだったかもしれない程に。
溜め息をつきながら、彼女だったら鉢屋を任せられるんじゃないかとかちびっと考えてみたが、残念ながら鉢屋は坂本さんに恋する男となっていて、しかも当の本人である名前ちゃん自身ですらそんな鉢屋が好きだと言っているのだから、まったくよく分からん関係だよなあ、とつくづく思う。
どちらにせよ、俺ら5人と関わりを持った彼女は想像以上にすごい人間だったということだ。
鉢屋がなんもしないまんまなら、俺らやその他に取られちゃうぞ、ともちらりと思ったが、残念ながら名前ちゃんは鉢屋がそれこそストーカー並に好きなのでそこもどうなるのか分からんところだろうな。
漫画や小説の中でない思春期の学生達の気持ちがどう変化するかなんてきっと誰にも分からないことだし、唯一分かっていることはそれが高速スピードであるということだけなのだ。
(まあ、誰が取っちゃうとか、ずっと友達関係なのかなんて俺にも分かんないからね。)
さ、帰るか。
自分の中でその日ちょっと近付いた彼女を頭の中で描いて、下駄箱で待っててやろ、なんて思いながら、俺は鞄をもって立ち上がった。
アンダンテ・テンポ・ステップ(歩くような速さで、)(ちょっとずつ、君に、)[7/11]