![](//img.mobilerz.net/sozai/1607_w.gif)
きゅうこ!
「でも意外だな。うちの特進クラスって女子すごい少ないだろ。だからあいつ、クラスじゃすげー可愛がられてんのに。」
「え。」
昼間の太陽も厚い雲で隠れ、そろそろ一雨降ってきそうというような空模様の放課後、私達5人が適当に勘右衛門たちクラスで駄弁っていた途中、ふと兵助が思い出したように言った。実際今日の昼のことを思い出して言ってるんだろうが。
最近、私達が話すときには彼女、言ってしまえば私のストーカー苗字についてが多くなっていると思う。
よく分からないうちに私達に溶け込んだ彼女は、今では随分と私達と一緒に行動するようになっている。彼女は周りから(というか私達からも)ストーカーなんて言われているが、その名のまま厄介で迷惑なものではなく、むしろ周りでキャーキャーと媚を売る女子のほうが私には迷惑な存在だったから、苗字が自分たちと一緒に行動する、というのが別段嫌だということは今まで一度も無かった。
それはきっと、他の4人も同様に考えているんだと思う。
だから兵助たちも簡単に彼女と話せるし、彼女について話題を触れられる。
先程の兵助の言葉に同じクラスの勘右衛門も同意して、普通科クラスメンバーに彼女について語る。
「うん。なんていうか名前ちゃん、好かれるタイプだからね。友達も多いみたいだし。」
はっきりいって特に彼女について聞いた事の無かった私達には今日勘右衛門達から聞くことは知らないことばかりで、私達3人は驚くばかりだった。
私と同じことを思ったのか雷蔵が、ふと言った。
「へえ、そうなんだ。…今更だけどさ、僕達彼女のこと全然知らないよね。」
「「「「…………。」」」」
私含め他4人が黙る。確かに、私達5人は彼女のことを知っている、とまでいかないとは思う。
「…確かにな。」
「あーそれは俺も思った。」
「うーん、距離が遠いワケではないと思うんだけどな。」
上から私、竹谷、勘右衛門と、口々に雷蔵の意を突いた言葉に同意する。
なぜだろうか、彼女は一緒にいるつもりなのだが、私達が彼女に近付いている感じがしない。いや、近付いているし、仲も随分良くなっていると思うのだが、なにか、どこか違う、というか。
全員がどう言ったらいいのかと頭を悩ませているうちに、兵助がさら、と課題を進めていた手元を見つめながら言った。
「苗字は深入りはしないけど、自分も訊かれなきゃ言わないタイプだからな。」
「ああ、なるほどなあ。」
なるほど、と皆で兵助の言葉に納得する。あいつ、自分のことは話さないから。
そう思いひとり納得した、というところで私の斜め前の席から、勘右衛門がでもさ、と言った。
「俺はこの中で、一番離れてるのは鉢屋だと思うよ。」
「「「「?」」」」
この勘右衛門の言葉にはずっと課題の方に集中していた兵助も顔を上げた。
「なんでだよ。ストーカーされてる本人が、って。」
「んーなんかさあ、こう、俺らはさ、友達じゃん。名前ちゃんにとって。」
「三郎は違うのかよ?苗字にとって。」
すぐさま勘右衛門の意図が分からないという感じで竹谷が顔をしかめて言った。しかし私もよく意味が分からなかったから何も言わずに勘右衛門の言葉の続きを待つ。
まっすぐに問われた勘右衛門がうーん、と苦笑しながら言葉を続ける。こういうとき竹谷は強い。まっすぐ、答えを求めるから。
「鉢屋はさ、ストーカーの対象でしょ?彼女にとって。」
「そうだな。」
「上手くは言えないけど、うーん、なんていうのかな。友達はこう軽口とか叩いたりする、いわゆる対等な関係でしょ?」
「…ああ、?」
「でもさ、鉢屋は違うよ。」
勘右衛門が断言する、とでも言うようにまっすぐに私達を見て言った。
「名前ちゃんにとって、鉢屋はストーカーの対象。友達なんかじゃない、それよりもっと上の特別なんだ。彼女にとってね。でも、同時に友達とかなんかよりも、ずっとずっと遠い存在っていうか、そんな感じなんだよ。分かるかな。」
そう言った勘右衛門に、兵助が少し表情を固くして言う。
「それは、分かる。なんとなくだけど、苗字が接する時の俺らと三郎では違いがあるっていうか、ほんのちょっとだけど。」
兵助が自分の発言を注意しながら言っているということは、このことを兵助自身が言っても良いことなのかと迷っているからだ。
でも、私はそんなことを考えるよりも、心に衝撃にも似たような何かが走った気がして、何も言うことができていなかった。
「三郎?」
何も言わずに勘右衛門と兵助の顔を見ている私を、雷蔵が心配したような声で呼ぶ。
別に彼女が友達ほど近くないってことぐらいじゃどうってことない。だって苗字はいきなり私の目の前にやってきたのだから。別にいつも一緒にいたのは雷蔵たちだから、違う。じゃあ私は何でこんなにもやもやとして寂しい気持ちになっているんだ?周りから、雷蔵達すら離れて行ってしまったような孤独感。
それでも自分がなんでこんなに変になっているのか分からなくて、出てこない、よく分からないままな自分の気持ちになんだかむしゃくしゃもまざって耐えられずにガタッと音を立てながら私は立ち上がった。
「悪い、ちょっと考える。」
よく分からないからそのまま簡潔に言葉を伝えて、私はその場から逃げた。
「三郎!」
後ろから雷蔵が呼んだが、振り返らずに廊下に出る。
勘右衛門達をみる私の顔は、きっと酷い顔をしていただろう。
無意識アンバランス(どうも変な気持ちが、)(なぜ?)[10/11]