2 ぜんやさい
「伝説の勇者誕生に、かんぱーーーいっ!」
「「「かんぱーーーーい!!!!!」」」
わいわいと大盛り上がりの宴で、俺は力なくかんぱーいと呟いた。
町の全員が集まっているが、残念ながら誰一人としてあれは長年引っ張られ続けた剣が負けたのだという発言をする人はいなかった。唯一そう思っている俺さえこの盛り上がりの中で言える度胸はなく、流されに流されるしかない。
早速明日出発のため、酒ではなくオレンジジュースをちびちび飲みながら今後の人生について真剣に絶望感を感じていると、たくさんの人に話しかけられた。
「やあ、まさかあんたが伝説の勇者なんてねえ。ええと、」
「アアアアです。」
「そうそう、アアアア君。頑張るんだよ。」
「やあ、君が剣を抜くとはね。君には息子が沢山お世話になったなあ、ええと、」
「アアアアです。」
「そうそう、アアアア君。頑張ってね。」
「トンビくん頑張ってねえ!」
「アアアアです。」
「アアアア兄ちゃん!剣抜いたんだろー!すごいなあ!!」
「アアアアで、…間違えた。ありがとな。」
と、こんな風に様々な会話を交わしながら、ってなんなの、宴と書いて集団いじめと読むみたいなアレなの。皆悪気が見当たらないあたり余計傷つくんですけど。
今まで結構まともに生きてきたつもりなんだけどな、と心に刺さったものを丁寧に抜いていると村長がやってきて、外に出ないかと言った。二人でこっそりと会場を抜け出す。
「まさかおぬしがあの剣を抜くとはなあ。」
「はあ、その、まぐr、」
「おぬしは昔から優しいやつじゃったからのう。だからかもしれんな。」
「そうですか…」
「どうじゃ、明日も早い。今日はもう家に帰ってゆっくり休みなさい。」
「あ、はい…」
耳が遠いのかわざとなのか分からないけれどとりあえず村長のお言葉に甘えて俺は帰ることにした。
「村長、今までありがとうございました。」
「ちと、寂しくなるのう。」
「村長…」
もう一度礼をし、俺は村長に背を向けた。
少し涙腺が緩む。明日、俺はずっと生きてきたこの村を出るのだ。
「頑張るんじゃぞう!ハヤタくん!!」
「アアアアです。」
ぜんやさい !
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