一万(二万)御礼文! | ナノ
良く晴れた日、強すぎない心地よい風が吹くお昼過ぎに私はある場所に向かっていた。

町の中心から少し離れた家、そこには私の幼馴染がいる。普段は忍術学園に通っている彼は家にいることは少ないのだが、先日連休があるのでその間実家に帰ってくると私のもとに文が届いた。今日は久々にその幼馴染、雷蔵くんの家に遊びに行くところであった。
楽しみだなあと私が鼻歌交じりに歩いていると、調子に乗りすぎたのか曲がり角で一人の男の人にぶつかってしまった。あわてて頭を下げたが、顔をあげて私の目に映った彼は、私が先ほどまで考えていた人物、雷蔵くんだった。

「あれ?雷蔵くん。どうしてここに?」
「あ、名前。そろそろ名前ちゃんが来るころでしょ、って母さんが。本当は名前の家まで迎えに行くつもりだったんだけどね。」
「ありがとう。大丈夫なのに。」
「はは、母さんは心配性だから。」

そう話しながら二人で並んで歩く。雷蔵くんの家まではそこからすぐであったから時間は掛からなかった。
少し久々になる雷蔵くんの家に入る。

「ただいまー。母さん、名前来たよー。」
「こんにちは、お邪魔します。」

雷蔵くんが奥の方に呼びかけると、一人の人物が出てきた。

「あらあら、名前ちゃん。久しぶりねえ、おや、また一段と美人さんになったじゃないの。可愛いわあ。」
「おばさん、こんにちは。おばさんも相変わらず美人ですねえ。」
「あら、こんなおばさんに気を使う必要ないのよ、名前ちゃん。さ、あがってあがって。」

そう言ってふふ、と笑う雷蔵くんのお母さんは昔からちっとも変わらないのんびりとした優しげな可愛らしい方である。おばさんに言われるまま私はお部屋に通していただいた。入ったのはいつもの場所、たくさんの本が置いてある雷蔵くんのお部屋だ。雷蔵くんのお部屋というより、たくさん本を詰め込んだこの部屋を雷蔵くんがよく使っているというだけなのだが、私たちは昔からこの場所を二人だけの遊び場として使っていた。狭くはないけれど、たくさん本が積まれたり並べられたりしていて四方八方が本であるこの部屋は古い紙のにおいや少し埃の交じった匂いがして、私はいつもここはきっと特別な空間なんだと考えていた。そんな異空間に紛れ込んだようなこの部屋が私は大好きで、多分雷蔵くんも好きなんだと思う。

「あ、雷蔵くん、この前は本をありがとう。」
「ああ、どうだった?良かったでしょ。」
「うん!すっごく描写が綺麗でさ、感動したなあ。」

雷蔵くんと私が二人でいるときは、特に何をするって訳ではなくて、前に交換した本の話だとか、最近のことだとか、頭に浮かんだことをぽこぽこと二人で交わしていくことが多い。話題からまた新しい話題に繋がっていき、そのあとにさっき何を喋っていたっけなんてことがよくあるが、私はそんなのんびりとした彼との話が好きだった。

「そういえば、前に文に書いてあったあの話はどうなった?豆腐屋、赤字だーって言ってたよね?」
「ああ、おかげさまで。今は全然大丈夫だよ。梅雨も抜けたし、お客さんも来るようになったよ、良かったー。」
「それは良かった。そういや、」

雷蔵くんが何か言いかけたところで、おばさんがやってきて私たちに声を掛けた。服装からして、どうやら出かけるようだ。そういえばいつの間にもう日が傾いてきている。もうそろそろ御暇しないと。

「雷蔵、お母さん買い物行ってくるわ。名前ちゃん、折角だから今日はうちで晩御飯食べていきなさいな。」
「えっそんな、」
「大丈夫大丈夫。お母さんにはおばさん、お豆腐買うついでに言っておくから。ねっ?いいわよね、雷蔵も。」
「うん、折角だから食べていきなよ。父さんも名前に会いたいって言ってたよ。」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて…」

そんなこんなで私は不破家でお食事を共にすることになった。昔はよくあったけれど大きくなってからは雷蔵くんが忍術学園に通ってしまったこともあり、最近はあまり機会がなかった。私は昔のことを少し思い出して、久々だなあ、と呟いた。
おばさんにいってらっしゃいと言ってから、私達はまた新しい話題に話を膨らませていった。


その後、一緒に本を読んだり、それぞれのお勧めを読んだり、帰ってきたおばさんの料理を手伝ったりして、晩御飯の時間になった。

「ほんと、名前ちゃんは良いお嫁さんになるわあ。聞いてよ父さん、名前ちゃんったらすっごくお料理上手なのよ。」
「お、いいなあ。どうだ雷蔵、うちに嫁に来てもらったら。」
「もう、父さんと母さんは…迷惑になるよ。ね、名前も困るよね。」
「え、そんなことないけど、えっと、えへへ。」

どう応答していいのか分からずとりあえず笑って返しておいた。そんな私を察したのだろう、苦笑いを返した雷蔵くんにおばさんがさらに言葉を続ける。

「でも名前ちゃんがお嫁さんに来てくれたら、私安心だわ。可愛くて家事もできて、ついでにお豆腐もタダだしね。」

そう茶目っ気たっぷりに言うおばさんはやっぱりまだまだ現役だ。私はといえば照れくさくてもう笑顔以外何も返せなかった。雷蔵くんのお嫁さんかあ。昔から一緒にいたから、あんまり想像ができないな。
晩御飯はとっても美味しくて、おばさんとおじさんは優しいし、何より久々に会った雷蔵くんがいて、私はお腹も心もいっぱいになった。雷蔵くんが送っていくよと言い、私と彼は一緒に夜道を歩いていた。

「あ、そういえば。」

ふと話していた時のことを思い出して私は声を出す。雷蔵くんがどうしたの、と隣を歩く私を見た。

「おばさんが出かける前に雷蔵くん何か言いかけてたよね。そういや、の続き。何だったの?」
「ああ、あれか。僕が文を交換しているって知った同級生がいいなって言っててさ。」
「どうして?」
「女の子と文通したいんだってさ。僕は幼馴染だよ、って言ったんだけれど。」
「そっかあ。」

もうそういう年になるんだな、とまるで自分は関係ないみたいに思った。だめだ、だから私はちーちゃんに「あんた発言がばばくさいわね。」なんて言われるんだ。何気にショックだった彼女の発言を頭から振り払うように私は思ったことを口にした。

「雷蔵くんは迷惑じゃない?私とまだ文通するの。」
「え?なんで?」
「だって、雷蔵くんも好きな人とかできたら、女の子と文通するのはあんまりいいことじゃあないかなって。」
「そんなことないよ。だって僕、名前に文を送るのも、名前の文を読むのも好きだから。」

そう言ってにっこりと笑う彼はどこまでもあったかくて、私は雷蔵くんの袖を少し握った。

「え、ど、どうしたの、名前。」
「雷蔵くんは明日帰っちゃうんだよねえ。」
「うん、」

「…寂しい?」
「…う、ん。」


なんだか自分が駄々っ子見たいで恥ずかしくなる。あれ、こんなことをするわけではなかったんだけどな。おかしいぞ。

「あの、雷蔵くん、その、ええと、違くて、」
「名前。」
「は、はい。」

うまく言えないままの私の顔を覗き込んで、雷蔵くんは私の名前をよんだ。少し間が空いて、私はいつの間に自分たちが立ち止まっていつことに気づいたが、雷蔵くんの言葉をじっと待つほかなかった。

「迷惑じゃないよ。」

ゆっくり、彼は考えたことをその一言に纏めたように言った。私はえ?と声を漏らす。


「名前が気を使うことなんてないよ。それに、僕も寂しいから。なんでも言ってよ。僕も男だから、頼られるとやっぱ、嬉しいんだよ。」


彼の優しさが胸にしみた。ああ、なんて素敵な幼馴染をもったのだろう。私は幸せ者だ。嬉しくて嬉しくて私は言葉にならない気持ちを手に込めた。袖、しわになっちゃうかもと思ったけれど、雷蔵くんの顔があんまり優しいものだから、私は手を放すのをやめた。

「雷蔵くん、また、家に行っていい?」
「もちろん。」

家の前で、私たちは別れた。寂しさはまだあったけど、もう小っちゃくなっていて、不破家特産な雷蔵くんのあったかパワーはすごいなあと思った。昔から、雷蔵くんや彼の家族といると、私はすぐ胸がぽかぽかしてしまうのだ。だって、あそこは私の「すき」がいっぱい詰まっている。


(ほんとに嫁いじゃおうかな)

なんて冗談を言ったら雷蔵くんはすっごく慌てるんだろうな。





雷蔵くんと!


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