一万(二万)御礼文! | ナノ
「はい、お釣りです。」
「ありがとう。」

そう言ってにこりと私に向けて笑う彼は、初めてのお客さんで、私は今日初めて出会った人である。
…はずなのだが。

「あの、どこかで会ったこと、ありますでしょうか…?」

どうもどこかで会ったような、ええと、なんていうんだっけ、あれ、でじゃぶ?ってやつだろうか?

「なに、口説いてるんですか?お嬢さん。」
「えっそそんな!」

私の言葉に彼はどこか嬉しそうに、にやりと笑みを浮かべそう言った。でも確かに、会ったばかりの人に私は何を言っているのだろう。しかもどこか軟派な雰囲気の言葉を使ってしまった気がする。
慌てて否定をしたが、目の前の彼はそのうちくすっと噴き出したのを皮きりに、堪えきれなくなったのかそのまま笑い続けた。

「えっ?えっ?」
「ははは、分かった分かった。そんな必死にならなくても。ははっ」
「え?」
「私だよ、名前。」

そう言って目の前の彼はぐい、と耳の下あたりを握ってべりりとそれを剥がした。
顔を覆っていた、「私が今日初めて会った人物」がなくなり、その下の端正な顔が現れる。

「久しぶりだな、名前。」
「さ、三郎くん!」

現れたその姿は、私の大事な幼馴染である三郎くんであった。
笑顔のまま、三郎くんが言う。


「なあ名前。良かったら今から買い物でもしないか?」




***



「にしても、名前は相変わらず慌てるところが面白いなあ。」
「あ、相変わらずって!」

母さんに受付を変わってもらって、私は三郎くんと一緒に町にでた。

「昔から名前は少しからかわれただけですぐわたわたしてたろう?ほら、私が豆腐小僧の話をした時、」
「わああああ!!やめてよもう!そんなこと言ったら三郎くんだって、昔はすっごく人見知りですぐ私の後ろに隠れてたくせに!」
「あ、ばか!それは本当に小さい時のことだろう!」
「なによう今だって学園では変装してるんでしょ!」
「な、なぜそれを…」
「伊助くんが言ってたもんねー!」
「ぐぬぬあの一年坊…!」
「あっ!い、伊助くんを悪く言ったな!」

三郎くんが来るのはいつも結構間が空いてからだから、よく初めは昔の話になる。あのころの三郎くんはどんな人にも初対面だとすぐ隠れてしまって困ったものであった。あの時はあんなに可愛かったのに、今となってはとってもお顔の整った人になってしまったから、私としても少し誇らしいような、悔しいような感じである。

そんな風に二人でそんな風に会話を織り交わしていると、三郎くんがあるお店の前で立ち止まった。

「?どうしたの、三郎くん。わっ」

私の言葉には答えず、三郎くんは私の手を掴んでそのお店に入る。
入ったお店は、女の子用の髪紐やら、櫛やら、お洒落な小物などが置いてあるお店で、その品々に私が目を瞬かせていると、三郎くんは奥に入ってすぐ戻ってきた。

「ほら、これ。」
「え?」

そう言った彼の手にあったのは髪紐で、その色は今まで見たことないくらい綺麗な藍色だった。

「な、なんで三郎くん、」
「何でもいいだろう。貰っとけ。」
「でも、こんなに綺麗なの、高かったでしょ。」
「…じゃあ、変える。私がお前にあげたい。」
「えっ?ど、どうしたの、三郎くんいきなり。」

突然の三郎くんの言葉に驚く。だって三郎くんはいつだって恥ずかしがり屋で、なんだって抜群に出来てしまうのに、自分のことを伝えるのが吃驚するくらい苦手で、素直になれなくて。そんな、私の幼馴染で。

「お前が、会う度、寂しそうにするから。」
「わ、私寂しそうにしてた?」
「してた。…でも、分かっているんだ。私も、あまり顔を出さないから。」

三郎くんが伏し目がちに、ぼそぼそと言う。

「だから、ほら、貰え。私のもあるし。」
「お揃いなの!?」
「ああ、嫌か?」
「ううん!嬉しいの。お言葉に甘えるね。ありがとう三郎くん。」

そう言って私は三郎くんから綺麗な藍色を受け取った。明日から、毎日髪を結わえようかな。この髪紐で。


三郎くんはいつだって恥ずかしがり屋で、なんだって抜群に出来てしまうくせに自分のことを伝えるのが吃驚するくらい苦手で、素直になれなくて。そんな、私の大事な大事な幼馴染で。

そんな彼だって、ちょっとずつ自分のことを伝えられるようになっていくし、素直な言葉もちょっとずつ増えていく。
久々に会った私の幼馴染は、私のことを考えてくれていた。不器用だって、それだけでとっても誇らしいことじゃないか。

にこにこしながら私は彼と一緒にお店を出て、出た後三郎くんに「にやにやしすぎだぞ。」と言われた。その顔もうっすら赤くて、私が「三郎くんは照れすぎだよ。」とにこにこしながら言ったら、三郎くんは何も返さなかった。お、いつも口では上手に回る三郎くんを今日は倒したぞ。

そうして、どっちからともなく会話が出て、笑顔が出て、そんな私と彼の幼馴染関係。






三郎くんと!


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