一万(二万)御礼文! | ナノ
こそこそ話されたなう

昼食時、いつも通り一人で食事をとっていた俺の隣に萌木色の服を着た人物が来て「先輩、ここよろしいですか?」と言う声を掛けた。上の者をきっちりと尊重するこの時代には珍しいことはないその言葉に俺は「ああ、どうぞ。」と返す。
失礼します、と三年生の三人が座ったが、この前俺が見かけた三人(迷子とそれを探すもう一人)はおらず、俺が知っていたのは目の前に座った、毒虫野郎と有名な伊賀埼孫兵という美形な彼だけだった。

一体何食ったらこんなに顔が整うのだろうとしばらく食べながら美形な彼の顔を見つめていたのだが、ふと俺は隣に並んで座っていたもう二人からの視線を感じた。視線に気づいた俺が二人の方をちらりと見ると二人は慌てて目を逸らす。

こ、これは…まさか、今まで人と関わることがなかったものの一度たりとも人から嫌がらせとかそういうものは受けなかった俺だが、ここに来てついに「何この先輩まじ根暗ーきもーい」とかそんな平成の社会問題ともいえるいじめが勃発してしまったのであろうか。そんな、五年間平和だったのに…
そう思ってずうんと落ち込み、いや自分、被害妄想が過ぎる。きっと大丈夫。きっと大丈夫だと必死に自分で自分を励ましながらも、俺はその二人のこそこそ話に耳を傾けた。


「いや、やっぱり僕にも覚えがないや。」
「でも五年生に転入生が来たなんて話聞いたことないし、きっとずっと前からいたんだよ。」


……いじめじゃなかった。
いじめじゃなかったけど…その、なんか、もっと他の別のところに深く何かが突き刺さった気がする。痛い。胸が痛いよ。


「三年生にもなって先輩の顔すら覚えてないなんて…数馬、僕どんな先輩と対面したときにもしっかり名前が出てくるようにするための予習してくる!」
「えええ藤内、お残しはいけないんだよ!」
「あ。…よし、数馬も早く食べて!」
「え?僕も?」
「あったりまえ!孫兵は!?どうする?」
「僕は遠慮しとく。」


既に声を潜めなくなった三人の会話を聞き、俺のハートに更に傷ができた。ガラスのハートだからもうそろそろ割れそうである。あ、割れる。これ割れるわ。割れちゃうよ。そう思いながら今にも割れそうなマイハートを必死に押さえつけたせいで食べる手が止まっていた俺の前で、先に食べ終わった伊賀埼が立ち上がった。急いで食べ終えて食堂から飛び出していった二人はともかく、マイペースに食べていたように見えた彼ももう食べ終わっていたのか。俺が負けただと…もう俺には何も取り柄がない。いや、食事スピードが速かったからって別に取り柄とかじゃないけど。でもさあ、くだらないことでも一つぐらいさあ、


「では。お先に失礼します、苗字先輩。」


やっぱ何か欲しいじゃん?特技。いや食事スピードは特技とは言えn…あれ?あれ?今なんか俺、あれ?


「…え?」


驚いた俺がばっと顔を上げたが、もう既に伊賀埼はカウンターにお盆を渡して食堂を後にするところであった。
そんな彼の背中を目を見開きながら見送った俺の手からぼろりと箸が零れ落ち、床にぶつかってこつんと音を立てた。





そんな感じのある昼食。
(その後俺は動揺のあまり三回こけて二回穴に落ちました。)


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -