夜練なう
日が落ちて夕飯とってそれから。
辺りはもう真っ暗だったが、そんな中俺は来週行われる体術テスト用の夜練をしていた。
とりあえず体を動かしたり筋トレやったりと、五年間一人で自主練をやってきた俺は何をやればいいのかという疑問を持ち合わせることはない。一人でも意外とやれることは結構あるのである。だから俺は寂しくない。寂しくないからな。ひとりでできるもん。懐かしい。
そんな詳しくは知らないが懐かしい番組に意識が飛んでいた時、俺の目の前を、ギンギーン!という大声と共にとある人物がすごいスピードで通って行った。
逆立ち片手腕立て伏せという、逆立ちは壁がなきゃできなかった(それは既に倒立である)前世の俺には確実にできなかったであろう筋トレをやっていた俺はそのいきなりの風圧によろめき慌てて足をついた。
大声で既に薄々勘付いていたが、駆け抜けた方向にはいたのは頭に苦無を立てたシルエット、六年の潮江先輩であった。
しかし、様子がおかしい。いつもならもう既に姿が消えていてもおかしくないのというのに、今、潮江先輩は立ち止まっていた。その影がくるっと俺の方に振り返る。
えっなに?俺何かしちゃいましたっけ。
「なにしとるバカタレ!人が通ったぐらいで体制が崩れてどうする!」
!?な、なんという忍者精神!というか既に軍隊の心構え!
時代先読みしまくりっすねという言葉を飲み込みつつその威勢の良さにびびった俺はすぐにすみませんと返した。
「常に敵がいると思って全力で鍛錬を行え!今お前の命を危険に晒したのはお前自身なんだぞ!」
「す、すみません。分かりました。」
「腹の底から声を出せい!!」
「はい!!分かりました!!」
俺がそう言いながら気をつけの姿勢でびしっと敬礼のポーズをしたら、潮江先輩はよしっ!!と一言言ってまた暗闇の中に消えていった。なにこれマジ軍隊。
暗闇の中、ギンギーンと言う掛け声を耳にしながら俺は敵が来るかもしれないと思いながら逆立ち片手腕立て伏せをした。当然のごとく敵はもちろん人っ子一人通らなかった。
遠くでギンギーンという声といけどーんという声が聞こえ、世の中色んな人がいるもんだと思い、何か深いものを学んだ気がしながら俺は風呂に入って部屋に戻った。
というか敵が来るときに腕立てしてるってどんなシチュエーションだよと頭の中でもう一人の俺からの冷静な突っ込みが聞こえたが、俺は聞こえなかったことにして柔らかい布団の中に入り込んだ。
そんな感じのある真夜中。
(次の日食堂で昨日の夜のことを話していた潮江先輩が暗くて顔が見えなかったと言っていたのを聞きました。)
(泣きたい。)