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迷子捜索なう

厠からの帰り。今日は休日で暇だから座学の勉強でもしようかな、いや待てよ俺いつも暇だったわ、とアホなことを考えながら長屋に向かっていると前方に三年生と思われる少年が大声を出しながら駆け抜けていくのが見えた。聞けばなにやら「左門ーーッ!!三之助ーーーッ!!」と彼の友人と思われる名を叫んでいる。なに、その二人が消えちゃったりとかしたの?七不思議的なアレなの?と思いホラーは別に全然苦手じゃないけど少しぞくっとした俺は、その左門と三之助とかいう全く知らない人物のことが心配になった。


その時ふと見れば学園の塀の上に這い上がっている影が二つ見える。そのままジャンプして塀の向こうに消えていった少年たちの衣服の色は、先ほど前方を駆けていった少年と同じ萌木色であった。
え、少年が探してるのってあの二人じゃね?というかその前になぜ学園外に出ちゃうの?と疑問を感じながら俺はとりあえず塀に登り、彼らを見てみたが、二人は作兵衛はどこに行ったんだとか全く俺たちがいなきゃ駄目だなとか言いながら二人して森に入り込んでしまった。
ええええええ、ちょ、待とうよ、いくらその作兵衛君が行方不明でも突然森の中に入っていくのはどうよ、いや俺は作兵衛君がどこに行っているのかは全く知らんけども、っていうかまず小松田さんに出門票は…とりあえず突っ込みどころ多すぎて捌ききれないどうしよう。

このまま二人で行ってしまうのは危険では、ほら神隠し的な意味で、じゃない山賊とかいるしね!と思いホラーは別に全然苦手じゃない俺は心配になり、ぱっと二人を連れて帰ってこようと思い、それぐらいだったら小松田さんに出門票を出すまでもないだろうとそのまま塀から飛び降りた。しかし森に入ってみても既にその二人の気配は感じられず、俺は空を見上げてバカな…早すぎる…と懐かしいネタを呟く他なかった。ネタ分かる人がいなくてさみしいとか言ってられないのでとりあえず地面を蹴りあげ走り出す。頼む、無事でいてくれよ…!ちょっと漫画の気分が味わえて楽しいね、これ。

しかしこのままでは、楽しんでんなてめえ下級生のことなんだと思ってんだ、と言われかねないと俺が真剣に走り始めてから十分後。先ほどの少年たちの影が見えた。やっと見つけた、と思いその方向に走った俺を待っていたのはとても良い眺めであった。
言い換えてみると崖であった。
背筋が凍った。別に全然、そりゃもう全ッ然ホラーが苦手だとかそんなことはない俺のこめかみにも冷や汗が流れ落ちた。

ちょ、グロ注意なの?それともその、か、神隠し的なアレなの?



その後俺は急いで崖をおり、二人の死体がないことを確認してから森中、更に裏山の裏山まで走り回り、その途中遭遇した猪と熱い戦いを繰り広げ、勝利の成果である猪の肉を手に学園に戻り、猪の肉をおばちゃんに渡し、小枝とかの切り傷や猪と闘った証とも言えるであろう別にいらない傷を見て、自分は一体全体何をやっているんだろうと我に返った。そもそも彼らは三年生で、あんな崖から落ちることはないはずである。そして、か、神隠しとかそんなもんはあるわけない。絶対ない。俺は信じない。


夕飯まで時間があるので風呂に入って泥と土埃、汗、そして体からちょこちょこ流れる血を洗い流した。あの猪、中々手応えのあるやつだったぜ…


そうして食堂に向かい、俺は今日特別メニューの猪鍋を食った。部屋に帰る途中、あの時左門とか三之助とか叫んでいた少年と森に消えていった少年二人が見えた。俺が見失った二人は無事な様子で、馬鹿だな作兵衛全くすぐいなくなるんだからとか言っていた。その言葉に叫んでいた少年はひどく怒った様子で朝の時以上に大きな声で叫んだ。


「馬鹿野郎ッ!!てめぇらが迷子だったんだよ!!!」


……え、そっちの二人、迷子だったの?
結局彼らは誰を探していたのか。誰がいなくなったのか。俺はてっきり作兵衛とかいう人物が迷子なのかと思っていた。謎はすべて解けた。いなくなったのが俺が追いかけた二人。それを探していたのが一人。最初の考えであっていたじゃないか。

いまだ作兵衛と呼ばれた少年が二人に怒っているのを見て、俺は一日の疲労とか傷の痛みとか全部消えて、彼にお疲れ、と心の中で呟いた。
君は苦労人なのか。




…でもね、一言だけ。

迷子の自覚だけはしてください。





そんな感じのある休日。
(迷子は見つかっても俺の休日は消えてました。)




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