あいえんきえん、 | ナノ


  休日にて2


 同じ顔、と不破さんが言っていたのでその三郎さんとやらは不破さんの双子の方なのだろうかうんそうだと勝手に決め付け、私は買い物を楽しんだ。楽しんだといっても別にそんな買ったわけではない。流行の簪を一つと、夏用に新しい紅を一つだけ。一応私もお洒落を気にするお年頃なのだ。恥ずかしいからそこまで派手なのは無理だけど。まぁ色々見てみて迷うことも女の子っぽい、うん。そうだ。


一人なのが少し寂しかったが楽しかったー、今度は数少ない、歳が近い女の子のお友達であるちーちゃんを誘おうと心になんとなく決めながら家路を歩いていると、ふと久々知さんと不破さんらしき後姿が見えた。あれ、見つかったのかな。

じっとみてると彼らが此方に気付いた。久々知さんが、名前さん!と名前を呼んだ。彼らに近寄る。

あ、やっぱり見つかったのか。不破さんの姿が見当たらないけれど。


「久々知さん。三郎さん、見つかったんですね。」
「「え、」」


二人が揃って驚いた顔をするから私も戸惑う。え、私、間違ってはないよね。


「えと、三郎さん、ですよね。本当に似てますね。不破さんから聞いたとおりです。」
「…なんで。」
「え?」
「なんで私が雷蔵じゃないと分かった?」


少しきつい口調で言う。
どうやら不破さんと「三郎さん」は見た目に反して随分性格が違ったようだ。だって、敬語じゃないし。
といってもなんで分かったって言われても、なぁ。


「え、え〜となんとなく、というか、うん、双子でも人間違うところがあるよっていうか…。」
「双子?」
「えっ双子ですよね?すっごく似ていますし。」
「…うーん。何と言うか。」


変な奴だな…。とかなんとか結構失礼なことを呟かれている気がするが何故そんなことを言われるのだろうと思っているうちに、おーい、と「三郎さん」にそっくりな不破さんが来た。
…近くで見ると更に見分けがつかなくなってしまうくらいに似ている。こりゃすごいな。なんていうか遺伝子的なものが。


「もう!三郎何処行ってたのさ!僕らずっと探してたんだからね!」
「悪い悪い。ちょっと気になった店があってな。」
「…どうせくだらないところだろう?」
「くだらないなんて失礼だな。少しばかり胡散臭い只の店だよ。」
「そういうのがくだらないっていうんだよ!まったく!名前さんもすみません。」
「え、いや、」
「ん、そいつも探してたのか?」
「うん。僕と同じ顔を見かけたら声掛けて、って。」
「…なるほど。」


ていうか三郎、そいつだなんて失礼だよ!と不破さんはぷんぷん怒っている。お二人は仲の良いご兄弟なんだなぁ。私には兄弟がいないから少し羨ましい。


「分かった分かった。で、名前は。」
「へ、あ、名前です。」
「そうか。私は鉢屋三郎だ。」
「はい、鉢屋さ、ってえええ!?不破さんじゃないんですか?」


あ、もしかしてご家庭の事情とかそういうとこだったのではないだろうか。だとしたら私いますっごく失礼な部分にふれてしまったのでは?
どうしよう、悶々と考えていると、鉢屋さんが言葉を付け加えた。


「言っとくが私と雷蔵は血はつながっていないぞ。」
「えええええっ!そんなっ。」


なんてことだ。世の中には似たような顔の人が三人いるというがここまで似ているということがあるのか。ふぉおおすごい。
感動やら驚きやらでごちゃごちゃしていた私の思考は

「とりあえずもう帰るぞ。三郎、雷蔵。」

という、久々知さんの言葉で引き戻された。


「あ、お帰りになるんですね。」
「そうだ、名前さんこの前は有難う御座いました!」
「? え、私久々知さんになにかしましたっけ?」


いきなり目をキラキラさせてお礼を言った久々知さんに少々驚きながら言葉を返す。こんな嬉しそうな久々知さんは豆腐関連でしか見たことが無い。まあ豆腐関連以外で彼と関わったことは今日以外ないのだが。


「高野豆腐、おまけしてくださったので。それに今日も奥さんが木綿豆腐、おまけしてくださいました。」
「ああ。いえいえそんな、久々知さん常連さんですので。」


豆腐関連だった。さすが久々知さん。期待を裏切らなかった。
そういえば彼のことは母はもちろん父も知っているらしい。父曰く、彼は若いのにうちの豆腐を沢山買っていくから気に入ってるようだ。ということで久々知さんは見事うちの家族全員の気を引いたわけだ。おめでとう!さすが美形好青年である。


「では、また。」
「あ、はい。ぜひまたお店、いらしてくださいね。」
「僕もまた機会があれば行きますね。」
「ありがとうございます。鉢屋さんも是非。」
「気が向いたらな。」


そう言い、店に向かう。

今日名前を知ることができた三人は本当に良い人だ。鉢屋さんも、なんだかんだ良い人そうだし、まぁよしとしよう。変な奴って言われたけど。変な奴って言われたけど。

しかし同じ顔というのがものすごく気になる。なぜあそこまで。世の中って広いな。
また会ったら今度はよく訊いてみよう。


さあ早く帰って夕飯の手伝いをして店を掃除しなくては。今日は結構歩いたからたっぷりお湯に浸かりたいなぁ。


ぼんやり考えながら家路を急ぐ。空は茜色。東の方はもう暗い。すぐ全部真っ暗になってしまうだろう。


赤と深い群青色の境界線を眺めながら、これからあの三人がもっとお店に来てくれるといいな、と思った。

店の娘としても、もちろん私としても、ね。







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