あいえんきえん、 | ナノ


  土砂降りさん




 初夏。今日は先程から雨がざあざあと降っている。俗に言う土砂降り、という感じだ。


(…暇だなぁ。)


こんなときは当然お客さんは来ない。朝は晴れていたのだがついさっきざあざあと振ってきた。道行く人が全力で走っている。頑張って下さい。応援してます。

こんな天気のままだったら今日の晩御飯は豆腐満載メニューに決定だ。主食は木綿豆腐、おかずは高野豆腐におぼろ豆腐とおから、汁物は全体の半分が絹ごし豆腐の味噌汁決定だ。勘弁してくれ。豆腐は好きだが流石にそれはきつい。


今、私は店の中に一人である。
父は今朝、足を捻ったらしく奥で休んでいる。母はこの天気を見て、ある程度仕事が片付いたら、父の看病と言って奥に引っ込んでしまった。
絶対自分が休みたいだけである。畜生全部私に任せやがって。

なんて悪態付いてみるがしかし本当にやることが無い。カウンターに肘をつきながらぼうっと外を眺めているだけだ。つまらないなあ。



と、そのとき外からバシャバシャと音を立てて勢い良く一人の男の人が入ってきた。その人は、なんとまあ、当たり前だがびっちょびっちょであった。しかも転んだのだろうか、ものすごく泥で汚れている。これはひどい。


「うぅ…さっきまで晴れてたのに…。」


そんなことを呟いている。まあこんな雨だからなぁ。出かけていた人にとってはとんだ災難だったろう。
可哀想に、と思いながら私は彼に声を掛けた。


「あの、大丈夫ですか?」
「え、あ!すみません、急に入ってきてしまって…!」
「いえ、急な土砂降りでしたから。それより、随分泥だらけですね…。」
「あぁ、その、さっき急いで走ってきたら転んでじゃって…はぁ。」


大きな溜め息だ。よほど盛大な転び方をしたのだろう。このままでは風邪を引いてしまう。


「あ、ちょっと待っていてくださいね。」


そう彼に言い、私は急いで店の奥に入った。箪笥から何枚か手拭いを取り出す。


「どうぞ。使ってください。」
「え、いやいや大丈夫ですよ。」
「駄目です。風邪を引いてしまいますよ。」


そんなにびちょびちょに濡れているのに、と遠慮する彼に手拭いを無理やり押し付ける。


「でも、汚れているし。」
「何言ってるんですか。汚れたら洗えばいいんです。気にすること無いですよ。」


まだ尻込みをする彼にそう言うと、彼はおずおずと手拭いを受け取り、有難う御座います、と言った。





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