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  祝日の彼




「木綿と絹と朧と、ううん、寄せ豆腐、2丁ずつで。あ、あと高野豆腐もお願いします。」
「はい。少々お待ちくださいね。」


 祝日はお客さんがいつもより多めにいらっしゃるが、その祝日に必ず来るお客さんがいる。それも結構な量を買っていくのだ。それがこの、今注文した彼だ。これでも記憶に残るようなお客さんだが、さらに彼は稀に見るような美形である。色は白く顔は整っている。睫も長く、少し癖のある黒髪はつやつやでとっても奇麗だ。

この美形の彼を私は祝日の彼と読んでいたりする。

まったく女顔負けだよなぁ。そんなことを考えながら頼まれた分の豆腐を渡した。高野豆腐は布袋に入れて。量はおまけして多く入れておいてあげた。
彼はよく来てくださるし、なんてたって母さんもお気に入りのお客様だからである。前の祝日、母さんはこの祝日の彼に話しかけてみたらしいが、彼は話してみてもすぐ分かる好青年っぷりだったそうだ。なんて恐ろしい。

お勘定を受け取りながら、ありがとうございました、と彼に言う。


「またのご来店をお待ちしております。」


そういって軽く笑うと彼はペコ、と軽く頭を下げた。おぉう好青年。
後姿からも発せられる品行方正オーラに感動しながら私は次のお客さんに注文を聞いた。

彼ほど豆腐を買う人間は中々いないんだよな。一人で全部食べるのだろうか。あれほどの量だから家族かなにかと分けるのかな。それにしたって多いよなぁ。考えながら接客をパッパと進める。私も随分手馴れたな。


年齢は私と同じくらいに見えたけどいくつなんだろう。いやはや美形だ。


気付いたら彼のことばかり考えていたが、まぁ彼が気になるのは仕方ないことだろう。美形なのに豆腐渡すと目がキラキラしていたりするし中々の豆腐好きなのは分かる。美形なのに。うちの豆腐が好きだとは結構良い舌をしてるんじゃないか、とか思ってみる。


(次の祝日もきっと来るだろうなぁ。)


なんだ、私も彼のこと気に入ってるじゃないかとか思って少し笑えた。次の祝日来たら今度はどの豆腐を多くしてあげようかな。

ちょっと、祝日が楽しみかもしれない。







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