人質間違い勘違い
ひんやりと硬い感触に目を覚ます。
「いった、た……」
辺りを見回すとそこは薄暗い部屋だった。いや、冷たい地面や壁に囲まれていることと目の前の鉄格子から、部屋というよりまるで牢屋みたいな印象を受ける。
一瞬呆けてから、私はハッ、と自分が何者かに連れて行かれたことを思い出した。そうだ、まるで牢屋みたい、ではなく、ここは多分牢屋なのだ。あの後気を失ってしまったのでここがどこだかさっぱり分からない。驚きすぎて、しばらくは悪い人が人を閉じ込めるということしか知らないあの地下牢とはこんなところなのかと思うばかりであった。
「あ、起きてますよ」
「おお、もう起きてたのか」
「えっ」
突然の自分のものではない声に鉄格子の向かい側を見ると、そこには真っ黒な忍者服を着た男の人が2人立っていた。
「お前にはしばらくここにいてもらう」
悪い人なのだと身構える私に、2人の内、上司と思わしき方が淡々と告げた。その言葉の意味がさっぱり分からなかった私は声を裏返しながらもなぜなのかと問う。
「まあ人質ってやつだ。悪く思うなよ」
「ひ、人質…?」
「忍術学園のな」
忍術学園?聞けば聞くほど分からない。私が忍術学園での重要人物なわけがないじゃないか。混乱と不安を抱えながら私は必死に言葉を発した。
「な、何を言ってるんですか!私、忍術学園の知り合いなんて2、3人しかいないし、そもそも大きな付き合いをしてきたのは一年生の伊助くんぐらいなんですよ!!」
鉄格子を握りしめながら2人に伝える。そうだ、私なんかを人質にしたってなんの役にも立たない。
しかし、私を待っていたのはこいつは何を言っているんだ?という2人の忍者さんの顔であった。
「嘘をつけ嘘を!あんだけ忍術学園の生徒と関わっておいて!!俺たちが1ヶ月必死に調査したんだ。これで間違ってたら俺らの収入はゼロだぞ。ただでさえロクにない給料なのに!」
「元山さん、最後の方私情交ざってます」
ぎゃいぎゃいと喚く上司らしき人(元山さん?)の言葉に何が何だか分からなくなった私は泣きそうになった。
「でも!でも私!絶対そんなことないです!」
「ええいうるさい!!おい香山!お前もなんか言ってやれ!」
「はあ」
「はあ、じゃなくてだなあ!……まあいい。おい、お前!今日からこいつが監視係だからな。逃げようとなんてするなよ!!」
キーンとくるくらい大きな声で元山さんが叫ぶ。紹介された香山さんとはいうと狭い地下牢でかなり響いた上司の大声に耳を塞いでいた。そんな香山さんに対して、上司の前で大げさに耳を塞ぐんじゃない!と元山さんはこれまた大声で言ってどしどしと牢屋から離れていく。
私の言葉を聞きもしないその態度に、段々むかむかしてきた私は元山さんの背中に大声で叫んでやった。
「私なんて人質にしたって絶対、ぜえぇぇったいに何も起こりませんから!!!!」
元山さんの声くらい、あるいはそれ以上ほどの私の声が地下牢内に響き渡り、それに元山さんが振り返りうるせえ!と叫び、私の前にいた香山さんはやれやれといった表情で再度耳を塞いでいた。
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