炎天下誘拐
「え?」
ぐいっと引っ張られたその先、背中に人の感触。
「な、誰で、んぐっ!」
何事かと思い振り返る前に口元を手でふさがれた。男の人だろう。身長も私より随分と大きいし、手もごつごつしていた。
そんなことよりも私にはこんなことをされる覚えがない。知り合いでもなさそうなその雰囲気と行為に急に恐怖感が襲ってきた。私、何をされるのだろうか。見当もつかない先の現実に私の頭は更に混乱する。
「んーっんーー!」
呻ってみるが手は既に両手を握られていた。いつの間に近くにもう一人その仲間なのではないかと思われる人物が立っている。顔を見るが半分布で隠れていた。しかし、やはり確かに私は彼と面識がないはずである。
もう一人は手早く私の両手を縛った。そのあまりの手馴れている感に更にぞっとする。この人、きっと悪い人だ。
なんで、だれ、何のため。
頭に浮かぶ様々な疑問を投げかけたかったものの、口には布を噛まされるだけだった。
どんどん悪い方向に進んでいく現状に、当初の驚きが全て恐怖で塗りつぶされるのを感じる。いやだ。怖い。
片方が私を担いだ。どこかに連れて行く気なのだ。混乱でうまく働かない私の頭でも、そこがいいところでないことだけは分かった。
怖い怖い、助けて、私、さっきまでお店にいたのに。
お父さん、お母さん、ちーちゃん、作兵衛くん。色々な人の顔が頭に浮かんだ。
何故か、最近仲良くなれた彼らの顔が強く浮かんで、
そのまま、私の視界から真夏の日差しが消えた。
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