あいえんきえん、 | ナノ


  私のお友達


先程店員のお姉さんが持ってきてくれた美味しそうなあんみつ、甘いあんみつにぴったりなちょっと濃い目の緑茶、そして頭上からの痛いほどの威圧感のある視線。
(ど、どうしてこうなった!)




「で、何があったか吐いてもらおうか。」
「げげげ、現状が理解できませんちーちゃんさん…。」


私は今、机をはさんだ向こう側にて仁王立ちをしているちーちゃんの前でわけもわからないままに姿勢を正して縮こまっている。ちなみにここは甘味処である。


「何って決まってるでしょ!昨日!双子のお顔の整ったお兄さん方に熱狂的な告白をされてたじゃない!!」
「ね…っ!告白って……。」


ちーちゃんが勢いよく椅子に座りながら掌で机をバンッと叩くもんだからお店の人の視線が一気に私達の方に集まる。うう、気まずい…。
彼女が言っているのはもしかしなくても不破さんと鉢屋さんとのことだろうか。それにしても告白、は言いすぎだ。そりゃ確かに私にはすっごい嬉しい出来事だったけれど。


「消極的とまではいかないけどどちらかといえば控えめな性格の名前がいきなりお友達を作ったなんて!しかも男!」
「うあ、ま、まあ、そうですが。っていうかちーちゃん何でそんなに詳しいの?聞こえてた?」


ちーちゃんの家が営んでいる乾物屋は私の家の反対側、その通りの二件ほど隣りにあるから、店の前でちょっと大きな声を出したら普通に声が届く距離だ。


「うちの店の前掃いてたらそりゃ聞こえるわ。」


ちーちゃんが此方を見つめながら当たり前、といった口調でいった。
彼女が店の前の掃き掃除をしていた、となると私は昨日の不破さんと鉢屋さんとの一部始終を見られたということになる。う、なんだろう特にいけない事をしたわけではないが、少し恥ずかしい。

そんな風に考えて少し視線を逸らした私に彼女がふう、と息をついて言った。


「あの人たち、最近ちょおっと有名なのよ。」
「えっ。そうなの?」
「なんてったってかっこいいから。性格も優しげだし、それに見たところよく似た双子でしょ?一緒にいたらやっぱり目立つじゃない。」


なるほど、と私は納得しながらも、今彼らが双子ではないことを言うと話が面倒くさくなりそうだからと言わないことにする。第一私もどういうことなのか分かっていないし。
ちーちゃんが話を続ける。あ、あんみつもう終わりそう。


「あ、あとたまに一緒にいるご友人さん?もすごくかっこいいから。」
「へえ、そうなの?」
「そうよ。黒髪のすっごい美形でね。あ、あとこの前うちの店に来たときはなんかこう、フレンドリー系な男の子もいたけど。」


あれ、黒髪のすっごい美形?なんだか心当たりがあるぞ。

黒髪の美形で不破さんと鉢屋さんの友人、といったら…うん、やっぱり久々知さんだろうか。まあ彼はほんとに美形だからなあ、そんな噂が立ってもおかしくない。…けど、本当に街で噂になっているとは、さすが美形。


「…なに、なんだかその人を知っていそうな顔ね…。」
「えっ。」
「知ってるでしょ。お見通し。」
「あ、まあ多分…?うちの店の常連さんな気がする、みたいな?」
「え!!そうなの!?くーーっなんでうちの店の常連じゃないんだ…!」


ちーちゃん家のお店は彼女の親の代から始めた乾物屋さんで、見た目がかわいくて気前がよく姉御肌なちーちゃんが看板娘としている彼女のうちのお店は街の人からも評判が高く、繁盛している。そんな繁盛している乾物屋さんに常連ではないとは少しばかり意外であった。


ちーちゃんは美形が好き、というか、街の他の女の子達と一緒に最近あっちにかっこいい人がどうとかこっちにイケメンがどうとかキャピキャピできる、俗に言う年頃の女の子だから、そりゃお友達も多い。むしろ街に彼女の知らない人はいないんじゃないか、と言っても過言ではないのである。



それにくらべ私はといえば今時のことにはそこまで敏感ではなく、最近のイケメンなどとチェックしているはずもなく、というかむしろそんなことをキャピキャピと話す相手がいないのであった。ないない尽くしである。自分で言っててそれはどうなの、という感じだがまず私がそこまでイケメンに飢えていないし、何丁目の何々さんちょーかっこいいー!!ねー!とか言ってる自分は少し、結構、かなり考えられない。ありえない。




残り少なくなったあんみつの白玉をぱくり、と口に入れる。うん、やっぱり甘い物は癒されるなあ。

甘いものにほわっとした気持ちになりながらちーちゃんの方をちらっと見る。
余談になるがイケメンは世界を救う、と豪語している彼女、ちーちゃん本人は彼氏持ちである。名を聡士郎くんというが、彼の雰囲気は優しげな、いや実際とても優しい人なのだが、全体的としては普通な人で、特別キャーキャー言われることは無いような人である。
そのことをちーちゃんに言うと、「何言ってんの、男は顔だけど、付き合うなら中身でしょ。」と当たり前のように言われた。なんだか悔しくなりつつも、ああ、ちーちゃんはやっぱりすごい人なのだと感心した思い出でもある。



「ああーー、うちにももっとイケメンが来ればいいのに!あ、名前。お勘定私がやるからいいわよ。」
「えっいいよ!ちーちゃんいつも奢ろうとするんだから。」


あんみつが食べ終わりお財布を開けた私をみて、ちーちゃんが奢る、と言う。彼女は本当にいい人で、いつも自分が誘ったから、と奢ってくれそうになるのだ。お小遣いが多いわけではないが、流石にお友達にだしてもらうというわけにはいかないので全力で断る。


「だって名前今月はお小遣いまだでしょ?私がやるよ。」
「いやいやいや!ちーちゃんもそんなに変わらないでしょ!もう!いっこ下だからっていっつも子供扱いするんだから!」
「子供でしょ?」
「うぐ、…でも私の分は私が払うから!」
「はいはい。」


そう言って笑うちーちゃんは本当にお姉さんだなあ、と思わせるような優しい笑顔で、誰からも人気のあることに納得できる。そんな彼女に私は、ああ、いつも甘えてしまっているや、とよく思う。いつだって、私と仲良くしてくれた、本当に心優しい友人だ。自慢できる。





甘味屋を出て、今度また暇だったら遊ぼうと言い、ちーちゃんにイケメンに会ったら私に報告ね!忘れんなよ!と釘を刺された。ちーちゃんには申し訳ないが多分私は忘れると思う。



「じゃあね。」
「うん、またね。」


店同士距離が近いので明日も顔ぐらいは合わせるだろうと思うが、それでもちょっと淋しい気持ちになる。


ちーちゃんと別れ、赤く染まった空の下で今日一日のことを思い出して、私はちーちゃんのことがかなり好きなんだなあ、と改めて思う。昔から仲良くしてくれた彼女に私もいつか恩返しができるといいなと思うのだが、いかんせん彼女は優しいのでまた甘えることになりそうだ。



どうかこれからもこの縁が切れませんように、ちーちゃんとも、そして新しく知り合えた彼らとも。



なんて欲張りなお願いをしながら私は笑顔で、ただいま!と大きな声で言いながら家に帰った。







聡士郎くん→さとしろう です。
年はちーちゃんの2つ上。
ヒロインの3つ上。


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