あいえんきえん、 | ナノ


  お友達宣言





「いらっしゃいませ、あれ。」
「「こんにちは、名前さん。」」
「不破さんに鉢屋さん。こんにちは。」


いつものように店番をしているとやってきたのは不破さんと鉢屋さんだった。
彼らはあの出会った日以来ちょくちょく来てくれるようになって、今となっては結構な常連さんである。お二人とも一見普通の双子のお客さんだが彼らには久々知さんにも負けずとも劣らずの変わったところがある。


「で、あの、」
「はいはい、此方から見て右が鉢屋さん、左が不破さん、ですよね。」


その変わったところというのがこれで、毎回二人で来たときは必ずどちらが不破さんでどちらが鉢屋さんなのかという質問をするのだ。

初めは彼らが(というかほとんど鉢屋さんが)すごい剣幕で問い詰めるのでかなり戸惑ったが、今となってはもうすっかり慣れてしまって、質問される前に答えられるようになってしまった。慣れとはすごい。同じ顔の全然性格の違う二人に挟まれ、片方がすごい剣幕で何故見破れるのかを問い、そしてその後ずーんと落ち込んだと思ったら、片方はのんびりと笑顔で接してくれるというあべこべなこの風景が軽く日常化するとは思わなかった。
彼らは2週間には一度来るペースで、ここらへんに住んでいる人以外では、まあ久々知さんはさておき、もう既にかなりなうちの店の豆腐マスターであると私は踏んでいる。


「っくっそ…!」
「はは、また三郎の負け、だね。」


いつものように悔しがる鉢屋さんに不破さんが苦笑いをしながらドンマイ、と声を掛ける。この光景すら板についてしまっていて、私も苦笑を返すしかない。
ちなみに今のところ鉢屋さん不破さんどっちでしょうクイズは百発百中な私である。初めはやっぱり少し間違っているかもしれないとは思ったりしたが回数を重ねるにつれて、今ではもう私は彼らを見分けられないことは無いだろうという自信までついてきたところだ。


「なぜだ!なんで分かる!?」
「ええ、鉢屋さん、その質問何回目ですか…。」
「納得できないから何度も聞いているんだ。」
「うううんと、あ、じゃあ鉢屋さんは何でそんなに不破さんにそっくりなんですか?血は繋がってないんですよね?」
「あ、じゃない。お前もその質問は何回目だと思ってる。」
「私だって納得ができていないんです。鉢屋さんと一緒ですよ。」


むくれて言ってみせると彼は、それは言わん。と突っぱねてしまった。我侭だ。


「まあまあ三郎。いいじゃないか、もう名前さんには敵わないってことで。」
「なっ!雷蔵は負けを認めるのか!?」
「うーん、そりゃもう何度もやってきたことだしなあ…それより三郎どの豆腐がいい?」
「それより、って雷蔵……おぼろ。」


しょぼくれながらもちゃんと不破さんの質問に答える辺り、鉢屋さんは律儀な性格だ。



不破さんと鉢屋さんの二人ががよく店に来るようになってから思うようになったことだが、鉢屋さんはちょこちょこ可愛い一面を見せると思う。彼はいつもなんだかんだと面倒見のいい人なのだ。話すようになってからそのことがよく伝わってきた。

ちなみにもう一方の不破さんは見た目通り柔和だが、彼は想像以上に男らしい人である。
この前、何の豆腐を買おうかと迷っていた彼が最終的に全種類の豆腐を買っていったことは多分もう一生忘れられない出来事だ。清々しい笑顔で「じゃあもう全部下さい。」なんて言ってのけた彼は他のどんな街のイケメンよりもかっこよく見えた。あまりの潔さに惚れるかと思った。


「あ、この豆腐最近のオススメですよ。」
「あ、じゃあそれと、朧と、絹、いや木綿…、うん。どっちもで。」
「雷蔵…。」
「は、はい。また随分買われますね、不破さん…。」
「えへへ、まあ沢山買っても損は無いですし。」


うちには兵助がいるから、と彼は笑った。


「あ、そんなに久々知さんとは家が近いんですか?」


仲がいいのはよく知っているがやっぱり近所の仲だったのか。


「あ、ああ、はい。そうですね、よく僕ら仲のいい五人で行動してますから。」
「へえ、余程仲がいいんですねえ。」
「ええ、まあ。昔からの友達ですからね。」


そう言う雷蔵さんの顔がすごく嬉しそうだったから、彼は余程そのお友達のことが好きなんだな、と思った。少し、いいな、と思う。私はいつも一緒な友達なんてあまりいないから。

どういうわけかここらへんには私と同じくらいの年代に生まれた人が少なく、私がすごく仲がいいと思える友人は、近所の、年が一つ上のちーちゃんぐらいのものなのだ。
もちろんその他にも仲がいい子はいるが、ここらへんのような店が連なる街となっては、皆自分の店の手伝いがあって中々遊ぶことなどできない。
私は「ここらへんでは年の近い女の子が少ないから少し羨ましいです。」と返した。


「へえ、そうなんですか。あの、でも「雷蔵、そろそろ帰るぞ。」あ、うん。」


話していた途中だったがどうやらまだ行くところがあったようで、鉢屋さんが雷蔵をせかすように言う。

そっか、行っちゃうのか。少し、さみしい。


「まったく、この後に行きたいところがあるって言ってたの雷蔵だろ。」
「そういやそうだった。じゃあ名前さん、また。」
「あ、はい。ぜひまたご来店ください。鉢屋さんも。」


いつもどおりのことを言ったら不破さんが笑って返した。


「来ると思いますよ。三郎、負けず嫌いだから。」
「あはは、そうですね。」
「なんだ、失礼な奴だな。まあ来るけど。」


鉢屋さんの子供みたいな言い方が可愛くて、私はまた笑った。最近すごくこの二人といるとなんかすごく楽しいな、と思う。そっか、だからさみしかったんだ。私、自分で思っている以上に彼らと話してるのが好きなんだな。

店を出たとき、不破さんが思い出したようにパッと振り返って少し大きな声を出して私に言った。


「あ、名前さん!僕らもう十分仲いいですよ、友達です!」
「へ。」
「だから、気軽にいつでも遊びましょうね!な、三郎?」バシッ
「いてっ……そうだな。そんな遠慮するなよ。」


そう言って彼らは軽くお辞儀をした後、前を向いて歩いていった。私はといえばいきなりの彼らの言葉に呆然としたままである。


考えてみると、羨ましい、と言った私に気を使ってくれたんだろうな、と思う。この辺じゃ年の近い友達が少ないって言ったとき、ちょっと寂しそうにしてたのかな、私。
どちらにせよ、彼らが仲がいいことが私にとっては自分の想像以上に羨ましかったのだろう。だから、あんなに優しいことを言ってくれたんだ。

気を使ってくれたんだな、と思いつつも、私は彼らが言ってくれたことが嬉しくて口元が緩んでいくのが抑えきれなかった。

(十分仲いいって。友達だって。)

あのとき二人が言った言葉を何度も頭の中でころころ転がしながら私はによによする。


いつだって誘えちゃうんだ。


もちろん、私は彼らのことを詳しくは知らないし、そもそも彼らの家がどこにあるのかを知らないので約束なんて滅多にできないことだろうが、でも、でも私は彼らが私をそんな風に言ってくれるような存在になれたということが、すごく、すごく嬉しかった。


(もっと、もっと、仲良くなって、沢山彼らと話せるようになりたいな。)


本当にそうなるのかは分からないけれど、それでも、そうであったらと私は思い描くのだ。彼らとより仲良くなれた日常を。

さあ、もう空は紅く染まっている。
そろそろ、店の片付けをして、夕飯の手伝いをしなくては。


によによと緩む口元を抑えずにそのまま、私は店の片付け準備に取り掛かった。





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