あいえんきえん、 | ナノ


  桃色金平糖


我が苗字家行きつけの染物屋さんは、先祖から交流のある二郭さんのお店である。


昔から私はその二郭店がすごく好きだ。もちろん腕の確かさやおじさんおばさんがフレンドリーであるということもあるが、なんといってもそこには伊助くんという男の子がいるからである。


伊助くんとは彼が赤ちゃんのときからの付き合いで、ということは私が四歳のときからの仲だ。彼は本当に可愛いしとってもいい子で、たまにうちの店の接客を手伝ってくれることもあった。それに一時期はいつも私の名前を呼んで後ろをついてきてくれたりともうほんっとにかわいいのだ。ああ、かわいい。

まあ、10年たった今では彼は忍術学園に行ってしまったのだが。

忍術学園とは其の名のとおり忍術を学ぶ場であり、まさかの全寮制で場所も極秘らしい。
本当は一般人にはあまり教えることができないらしいが伊助くんのおじさんとおばさんは、名前ちゃんは伊助と特に仲が良かったから、と教えてくださった。
そのときもう結構大きくなっていた私と伊助くんはお互い忙しいときにお店を手伝いあう仲で、そして毎日のように遊んでいた仲だったから、私はもう寂しくて寂しくてさよならをするときはこの年にして半泣きであった。お恥ずかしい話である。

それでも彼はちょくちょく帰ってきて家の店のお手伝いをしているようで、それを私も彼に会えると楽しみにしている。



最近は会っていなかったけど今日もしかしたら手伝いに来ていないかな、と思い彼の好きな金平糖を買ってみたがやはりというべきか、残念なことに彼はいなかった。


折角、昔伊助くんが桃色は一番甘いから好き、と言っていたのを思い出してお店のおばさんに桃色を多めにいれてもらったのにな、一緒に食べたかったのにな、としょぼくれながら私は染め直しを頼んでいた着物を受け取り、家路へとついているときであった。




バッと男の人がすごい勢いで横を走りぬけた。というよりぶつかった。瞬間私の手の中が軽くなる。ちなみに荷物を持っていたほうの手である。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、よろけながら一度瞬きをして手元をみた私は急いで後ろを振り返った。


「えっ、ちょっ、ちょっとまっ!!」


ひったくりだ!うわ、染め直したばかりの着物と珠樹堂のご主人に安くしてもらった薬が!困る!非常に困る!100%おっかさんに怒られる!


「ひ、ひったくり!待って!」


叫びながら体制を立て直して必死に走って追いかけるが、もちろん待てと言って止まるようなら最初からこんなことはしていないだろうし、このまま私の足ではぐんぐんと差が広まっていくだけである。

やばいやばい、っていうか誰かその人止めてくれないの!と思うが皆吃驚して立ち止まったり相手にぶつかられて転んでいたりとそんなことができそうな人はいない。うわあどうしよう!

ひったくりはものすごく足が速く、普段そんなに運動なんてしない私はもうぜえぜえとして追いつけそうになかった。


「もうっ!」


待ってってば、と必死に声を出そうとしたとき、私の横をバッとものすごい速さで抜けていった人影があった。


「え?」


そのひとははそのまま先にいるひったくり犯にすぐ追いついた。そして、


「とうっ。」


と、余裕そうな声をだしながら華麗に飛び蹴りを決めたのである。

私はその光景に只、呆然としていた。





***






ひったくり犯は倒れ、彼に腕をつかまれてぐう、と唸る。
彼がひったくりに話しかけた。


「おじさん、休日の真昼間に女の子の荷物ひったくるってどうよー。」
「う、。」
「金が欲しいのかどうかは知らないけどさ。とりあえず犯罪。侍所つれていくからね。」



「はっ、はっ、あの!」
「ん?あぁ、ひったくられた。」


やっと私が追いついて声を掛けると、近くにいた人にひったくりを頼んでいた彼は此方に気付いて言った。そうです。私がひったくられた奴です。


「はい、荷物。ちょっと砂ついちゃったけど。」


彼がパンパンッと風呂敷を軽く叩きながら私に荷物を渡してくれた。受け取りながら私は急いでお礼を言う。


「すみません、ありがとうございます!」
「いーよ、それより大丈夫?怪我とかない?」
「あっはい!大丈夫です!貴方は大丈夫ですか?」
「ん、俺は大丈夫。良かったー、突き飛ばされてたから、心配だったよ。」


助けてくれた彼はすごくおおらかというか優しそうな人であった。ていうか優しいよ。ひったくり捕まえてくれたし、私の怪我を心配してくれたし。
彼は見た目も丸っこいというか特徴的な髪型をしている。笑顔がかわいい人だなあ。


「あ、あのお名前は…?」
「ん?あー尾浜勘右衛門。君は?」
「あ、私名前と申します。あの、尾浜さん、本当にありがとうございました!」


ペコリ、と思いっきり頭を下げた。


「え、いいよー、そんな。俺もかっこいいところ見せられた訳だしね。」


なんておちゃらけて言って見せた彼は本当に優しい人だと思った。今確実に私の心のいい人リストに大きな字で書き込まれた。


「あの、ぜひお礼を…。」
「え、そんな、」
「いえ!本当に助かりましたので!あ、そこのお団子屋さんでいいですか?」
「え、まじで?じゃあ甘えちゃおっかな。」


ということで彼にお団子を奢ることになった。

色々と話したが彼は話せば話すほど面白くて、ついでにものすごく甘味が好きな人だった。かわいいな。





御代を払ってお団子屋を出る。


「ふーん名前ちゃんの家、お豆腐屋さんなんだね。」
「あ、はい。ぜひいらっしゃってくださいね、お安くしますから。この先にあるんです。」
「あはは、じゃあ今度行こうかなあ。知り合いに豆腐好きがいるし。」
「そうなんですか。あ、そうだ尾浜さん。これ、」


最近よく豆腐好き関係の人を知るなあ、意外と若者でも豆腐好きが多いのかな、なんて感心しながら私はあるものを思い出して荷物の中からそれを取り出した。


「え?」
「金平糖です。よければ貰ってください。」
「いやあ、さすがになぁ。悪いし…」
「いえ、今日買ったんですけど渡す予定の人が留守でして。」
「うーむ、…あっそうだ。じゃあさ敬語とか無しにするって言うならいいよ。」
「え?」
「あと、尾浜さんってのも無しね。うん、それでいいや。」
「ええええ、でも尾浜さん、」
「尾浜さんは無しだって。それにそっちだけ敬語とかは変じゃん。」



その後私は彼と話し合い、結局彼に押し負けて敬語をやめ、名前呼びすることになった。助けてもらった私が恩人である彼に口で勝てるはず無かった。


「じゃあ、か、勘右衛門くん…。きょ、今日はありがとう。」
「いいのいいの。あ、今度豆腐屋寄ってみるね。」
「あ、ありがとう。ま、またね。本当にありがとう。」
「うん。またね、名前。」


なぜか勘右衛門くんは名前呼び捨てになっていたし、私は私でいきなり男の人敬語無しで話すのは初だったのでめちゃめちゃ恥ずかしかったです、まる。




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