あいえんきえん、 | ナノ


  休日と尾行と変装と


「やっべ、やりすぎた。」

目の前の転がっている男共をみながら私は呟いた。



今日は私と兵助と雷蔵とで街にお使いに行く予定だった。

お使いは何か美味しそうな菓子を買ってくること。私と雷蔵が街にでて何か買いにいこう、と出かけようとしたところを低学年に任せりゃいいのにたまたま学園長の部屋の前を通りかかってお使いを頼まれた兵助と鉢合わせたので一緒に行こう、と言うことになったのだ。

まぁ実際今私はその二人と別れて人気の少ない道にいるわけだが。



何故こうなったのかと言うとめんどくさいが簡単に説明すると、あの二人と街を歩いていたところ、店先で店員が見ていないのを見計らって商品を勝手に盗む言ってしまえば万引き野郎がいたので叱ってやろうと後をつけていたからである。

普段ならそこまで世話焼きではないが、なんだかそいつには変な雰囲気が漂っていて、何か臭うなと思ったので二人にばれないように離れたわけだが、まぁ案の定そいつは人気の無い道に入り込んだので話しかけてみた。

万引きはいけませんよー、って軽く。別に意地の悪い顔して言ったとかじゃないぞ。多分。

最後までつけなかったのは予想以上に何かありそうな道に入っていくので沢山味方がいたら困る、ということで此処で一人だけ倒して話を聞きだすだけにしようと思ったから。奥に行かれて無駄に仲間を呼ばれてもなー、と軽く考えていたのだが、驚いたことに万引き野郎はその場所で仲間を呼んではい戦闘ー。いやぁ大声で叫ばれたときにゃびびったね。

ともかく仕方ないので出てきた奴をとりあえず倒して、今人気の少ない道にいる私の足元に十数人のごつめの男共が転がっているという冒頭に戻るわけだ。うん、私にしては分かりやすい説明をしたな。


とりあえず話も聞いたし、後は帰ってから学園長に報告すればいいだろ。やりすぎたことがばれなきゃいいんだが。ま、私の力はどっかの暴君の馬鹿力とは違うし大丈夫だろう。…雷蔵にばれたら何か言われそうだけど。


「はぁ、雷蔵達と合流するか…。」


パンパンッと軽く手を払って、静かに、誰にも見られないようにそこから立ち去った。




***




結果として、雷蔵達とは、ばれずに合流できた。

さっきも言ったとおり、後は学園に戻ってばれないように報告するだけでうん一件落着、となる筈だったのだが、しかしそんなことよりも私には頭を悩ませる出来事が起こってしまった。

何があったかと言うと、先程出合った少女、年は同じ位だったか。その彼女(名前というらしいが)が一目にして私と雷蔵を見分けたのだ。見分けた、というより一目で私が雷蔵ではないと分かった、と言ったほうが正しいな。

兵助もその場にいたが、私と同じく驚いた顔をしていた。そりゃそうだ、私や雷蔵と今日初めて出会った彼女が、この私の変装をものともせず見分けたのだから。


だが、はっきりいってこれは私、変装名人鉢屋三郎として忌々しき事態である。


というのも、これでも私は自分の変装が簡単に見破られないと自負しているし、事実、私の変装が見破られたことなんて今までに数回、そしてもちろん雷蔵が隣りにいないというのに一目でばれたことなど一度たりとも無かった。
それを彼女はいとも簡単に、無意識に見分けたのである。ありえないことだ。

そんな人生最大の局面に立ち向かい思考しながらただただ無言で歩いていた私を不思議に思ってか、雷蔵が口を開いた。ちなみに今は帰路に着いているところである。


「三郎、どうしたの?」
「ん、ああ。いや少しな。」
「気にしてるのか?名前さんのこと。」
「え?名前さん?どうして?」
「名前さん、さっき一目で三郎が三郎って分かったんだ。」
「え?見分けたってこと?」
「ああ。」
「ええええ!嘘!?くのいちとかには見えなかったよ?」


そう。彼女はくのいちだとか、どっかの城の忍には見えなかった。初めは私も疑ったが彼女は本当に悪い人間ではなさそうなのだ。なんというか全体的に抜けてるオーラで。


「確かに、私達のこと双子だと思ってたみたいだしな。」


そこがよく分からん。変装と分かるのなら双子とは思わないだろうし。やはり一般人なのか?
一般人だったとしても、そう全部見破られていたらたまらない。私の意地とプライドが。

どちらにせよ忍としても人としても、人を顔で判断するな、と言われているから警戒はしようと思うが。もしもを考えて。


豆腐屋の娘、ねぇ。
兵助も気に入ってるみたいだし、雷蔵も嫌ってはいないようだからな。


とりあえず、また行ってみるか。豆腐は兵助、断固として譲らないからな。食ってみたいし。

よし。思考終わり。たまには雷蔵を見習って、全部流してしまおうじゃないか。




「本当なら、すごいねぇ。僕だってたまにどっちが自分か分からなくなるのに。」
「いや雷蔵、それはまずいだろ…。」





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