静かな校舎に人影は少ない。
皆授業を終えて帰ってしまった。
遠くから剣道部の元気のいい声が聞こえてくる。
窓からオレンジ色の日が入って昼間とは違う風景に見える。
あ、どーも。
塩宮がわこです。
ウチは周りを気にしながら、なるべく静かに階段を下りる。
今はウチ1人だから後ろから押されることも無い。
階段の途中にある窓から外を見渡して目的とする姿を探す。
・・・居ない。
頭には真っ白いヘッドフォン。
今日のヘッドフォンにはマイクが繋げられている。
がわこ「あっあー。こちらがわこです、どうぞー」
ヘッドフォンから繋がるマイクに向かって言う。
自分の声さえも人影が少ない校舎には響くのが気になる。
ヘッドフォンに耳を澄ませ、少しノイズが聞こえる。
悠《アヒャヒャヒャッ!》
返ってきたのは自分の声量を遥かに超えた声。
耳をやられて思わず頭がグラッとした。
窓からは悠ちゃんが周りをキョロキョロ見ながら廊下を走るのが見えた。
言葉が言葉だからこの静かな校舎には怪しい人にしか見えないけど。
静かじゃなくても怪しい人で後輩からも先輩からも二度見以上はされている人なのに。
夢汰《ちょ、大声出さないで!耳がパーンってなる・・・!》
うあぁっと夢汰の唸る声。
アンタも五月蝿いよっと言えばサーセンという謝罪が返ってくる。
ドアを開け、椅子を引きずる音などが聞こえるた。
何処かの教室に居るのだろう。
紅夜《標的は職員室前を通過。1番近いの誰?》
カタカタカタッとキーボードを打つ音。
3年間通う学校でも方向音痴を発揮するかーさんはコンピュータ室で指令を出す。
なんだか色々と機材を設置してた。
夢汰《え、何処って?》
紅夜《職員室前……、今応接室前》
夢汰《応接室?》
悠《え、私何処だ、絵の具落ちてるんだけど》
がわこ「知らんわ」
悠《どこおおおおおおお》
紅夜《お前芸術室だろ、1番遠いからな!》
悠《踏んだああああああああ!》
がわこ「わあああああああああッ!」
もちろん悠ちゃん以外は耳がキーンッとする。
驚いたウチも大声を出してしまい、他の2人にダメージがいく。
悠《誰だよ大声ぇ》
夢汰《耳がああああ》
がわこ「サーセン」
紅夜《2度心臓がビックリしたからね》
がわこ「かーさん死なないでしょ」
紅夜《どういう》
普段から「トラックに轢かれても立ち上がる」とバカなことを言っているかーさん。
出来ないであろうことを本当にやりそうだから嘘だと思えない。
紅夜《そんで1番近いの誰?》
悠《ワオ》
紅夜《お前1番遠いって》
悠《喋ることすら許されないのね・・・っ!》
がわこ「ウチもう疲れたー」
夢汰《何故そこで諦めるんた!》
松●修造の台詞で熱くなる夢汰。
だから大声出すなっとかーさんに言われてまた謝罪。
走ったり動いている3人は少しテンションが高いんだよ。
いつも高いけど。
夢汰《あ、もしかして1番近いかも》
悠《走れぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!》
がわこ「ウチが見つけてもやられちゃうし〜」
悠《私が行くよぉぉぉぉぉぉぉ!!》
紅夜《お前うっせッ!》
音量を下げればいいのだが普通の会話になると聞こえなくなってしまう。
叫んだらどっちにしろ五月蝿い。
《まだ標的は捕まらないのか》
急にトランシーバーから男の声にピタッと動きが止まる。
誰だ誰だと頭を回転させる。
聞いたことのあるこの声。
だけど頭の中になかなか浮かんでこない。
夢汰《あぁ、解っちゃった》
がわこ「じゃあいいや」
紅夜《はい追ってー》
悠《ふふんふーん》
《おい、捕まらないのかと聞いてるんだ》
悠《ん?幻聴?》
《おいッ!聞いてるのか!》
夢汰《あぁ、最近の疲れがきてるね》
がわこ「SOMYレンジャー忙しいからね」
紅夜《何もしてねぇけどな》
ゲラゲラと笑って止まっていた行動も動きだしたのが解る。
ヘッドフォンにはやっぱり男の声が流れる。
《校長の私を無視するのかッ!!》
悠《あっれ、校長とか聞こえたよ隊長!》
紅夜《もしかしたらパソコンの操作間違えて校長のボイス流してるかも》
がわこ「耳があああああ」
夢汰《ボイスあるんか》
校長だったらしい。
とりあえず無視をしておこう。
校長《とにかk ブチッ―――》
校長の言葉か切れた。
多分、かーさんのパソコン操作により校長からの通信は強制終了。
紅夜《仕事に支障が出るかもしれないからね》
がわこ「ざまぁ」
《にゃあ〜》
夢汰《あ、いた!あの猫!》
悠《ワァァァァァァァオッ!》
がわこ「あっははははははは!」
夢汰《何か後ろから走ってきたぁぁぁぁぁぁ》
私だぁっ!
bkm