僕は今迷っている。見守るべきなのか、伝えるべきなのか。
もちろん相手が嫌がっているならすぐにでも伝えてやめるよう言うべきなのだが、相手もよく分かっていない気がして、変に伝えると地雷を踏むのではないかと迷いに迷いまくっている。しかし段々とエスカレートしていった時になんであの時とめなかったんだと言われても困るわけで、なんで僕がこんなに悩んで胃を痛めなければいけないのかと1周回ってもうどうにでもなれと伝えようとしてやめる。それをもう何回も繰り返していた。
セクハラする側とされる側、轟くんと苗字さんのことにはつっこんだり触れないようにする。クラスメイトの暗黙のルール、踏み込んでは行けない領域。もちろん、轟くんも意識的にセクハラしているなら警察にお世話になっても仕方がないと思うが、彼は無意識にしている。彼が好きな、苗字さんだけに。
「おはよう苗字。今日もかわいいな」
「あ、轟くんおはよう!ありがとう。轟くんも素敵だよ」
「なんか照れるな」
今日も朝から始まっていた。起床して共有スペースで会って10秒。轟くんは苗字さんを見つけると真っ直ぐに向かいいつも同じことを伝える。これだけならまだなんともない。
「寝癖ついてるぞ」
「え?うそ!直したと思ったのに」
「鏡で見えづらいところだな。直した」
「ありがとう。やさしいね」
「苗字が良ければ毎朝髪を整えてもいいぞ」
「それは轟くんも大変になるから遠慮しとくね。ありがとう!きもちだけ貰うよ」
「大変じゃねえよ」
これ付き合ってない人達の会話なの・・・?本当にそれでいいの・・・?ナチュラルに髪を触るし毎日整えたいとかクラスメイトが言っていいことじゃないよ・・・。
イケメンだから許されるけど他の人が言ったらすぐに村八分だよ。
轟くんがセクハラをしだしたのは実は結構最初からだった。たぶん最初から好意的に見ていたんだと思う。苗字さんて見た目も中身もふんわりしてて結構他クラスからも人気あるし。最初はよく呼び出されては告白されていたみたい。気持ちは嬉しいけどあなたのこと知らないから・・・と断っていたらしい。見に行った上鳴くん情報だから確かです。
そのうち轟くんがそばにいることが増えたから呼び出されなくなった。というか呼び出しについていこうとするから呼び出す相手も諦めてた。轟くんに他意はない。ただ苗字さんについて行きたいだけ。それが厄介すぎるし勇気をだして呼び出そうとしてんのにイケメンがついてきたら嫌だわな。天然極まりすぎてる。
実践訓練でコスチュームを着て鬼ごっこをすることになった。個性使用可能な鬼ごっこは結構面白い。鬼も2,3人から始まるから連携組んでもいいし、逃げる方も協力してもいいからなかなかいい勝負になって白熱する。
「じゃあ最初の鬼は苗字と緑谷と砂藤だ。鬼じゃないやつは適当に散らばっとけ。5分後に開始する」
「はい!」
苗字さんと砂藤くんと最初の鬼に選ばれた。上手く連携することが出来ればすぐにでも鬼を変わることが出来そうだ。すぐに相談しないと、5分後には始まっちゃう。そう思って苗字さんを振り返った。
「苗字鬼か」
「うん!轟くん、すぐ捕まえちゃうからね〜」
「苗字になら捕まりてぇな」
苗字さんのすぐ隣にいた轟くんのナチュラルセクハラ発言始まってた。周りを見渡しても巻き込まれたくなくてみんな一瞬でいなくなってる・・・。逃げ遅れた。いや逃げたらダメだった僕鬼だよ。心を鬼にして・・・無にしてこの会話が終わるのを待とう。轟くんもすぐに位置に着くだろうし。
「ええ!逃げないとダメだよ。訓練だもん。ね?」
「あぁ・・・。逃げるから追いかけてきてくれ」
「お!やる気だな〜!どこかタッチされたくない所ある?」
「むしろ全身をタッチして欲しい」
「うーん、それは難しいかなあ」
苗字さんのスルースキルすごくない??なんで?どう考えても全身をタッチして欲しいとか言われたら気持ち悪いよ!!僕が言ってみ??気持ち悪いでしょ?!
ツッコミたくなるのを必死に我慢して心を無にする。すぐに終わる・・・終わるから頑張れ僕!!
「俺が鬼になったらすぐに捕まえに行くからな」
「轟くん強いから、捕まらないように頑張る!」
じゃあな、と去っていく轟くんを見送って深呼吸してから苗字さんに近づいた。砂藤くんもだいぶ遠くにいたらしい。轟くんがいなくなったのを見計らってめっちゃ遠くから走ってきた。始まる前から体力つかって大丈夫かな。
作戦は苗字さんと砂藤くんが追い込んで僕の黒鞭で確保、タッチという流れになった。タッチした人から交代していくから、そこはレディーファーストと言うことで苗字さんに。頑張ろうね2人とも!とふんわり笑う苗字さんに男ふたりはドギマギした。
鬼ごっこがスタートして3人で適度な距離を保ちながら索敵を開始した。何となく轟くんは手前で待っていそうな気がしたので奥の方に回り込んで探索しようとなんとか2人を丸め込んだ。毎日行われるセクハラ劇場を少しでも減らしたい。僕の心の負担を減らしたい。
「あっ轟くんみっけ!」
「なんで?」
何なの?裏の裏をかかれたの?いや轟くんは天然だからそんなこと出来ないから普通に本気で鬼ごっこしようとしてたんだ。僕が変な所まで空気読んだから悪かった。悪かったから普通に鬼交代して普通に終わって欲しい。頼むから・・・
「緑谷くん、お願いー!」
「任せて・・・っ」
苗字さんと砂藤くんで轟くんを追い詰めてくれたので黒鞭を発動して轟くんをなんとか捕獲する。逃げられる可能性もあるので苗字さんも突っ込んで行った。普通にタッチして普通に交代してくれますように・・・
「轟くん!つかまえた!・・・っわ!」
「お」
とお願いした瞬間苗字さんが躓いて文字通り轟くんに突っ込んでいった。2人で倒れ込んでいくのを見て嫌な予感がしたが怪我をしているかもしれないので急いで近寄っていく。砂煙がだんだん晴れてすっ転んだ2人が見えるようになってきた・・・な・・・
「2人とも!大丈・・・ぶ・・・」
「いてて、轟くんごめんね」
「・・・」
砂煙が晴れた先には、轟くんを下敷きにして倒れ込んでいる苗字さん。轟くんが下にいるから苗字さんには怪我は無さそうだ。件の轟くんはと言うと一言も発することが出来ていない。いや喋ってるのかもしれないけど聞こえなかった。轟くんは苗字さんの下敷きになって・・・苗字さんのむ、胸が顔を圧迫していた・・・
ラッキースケベだこれ・・・
「あっ、ごめんね!」
「大丈夫だ」
すぐに上体を起こした苗字さんに真剣な顔の轟くん。これが峰田くんとか上鳴くんだったら取り返しのつかないことになってた。
「苗字の胸柔けぇな」
いや取り返しつかないわ。轟くんでもつかない。流石にこれはアウトだよ警察だよ。遠くの砂藤くんも聞こえちゃったのかドン引きしてる。
さすがの苗字さんもこれはスルー出来ないはず
「ごめんね〜。ちょっと太っちゃって大きくなっちゃったの。苦しかったよね〜」
オイ!!!!オイ!!!!(血涙)
苗字さんの胸の情報とか要らないから!!!想像しちゃうから!!!あと女子に話すみたいに男子に話すな!!
「いや俺は苗字なら大きいのも小さいのも好きだ」
「気にしないように言ってくれてるんだね、ありがとう〜!鬼交代だよ!」
「苗字は太ってないだろ。捕まえる時は足触ってもいいか?」
「むっ。わたしの個性足使うからだな!触れるもんなら触ってみろー!」
鬼ごっこ面白いとか言ったの撤回します。というかダブル天然摂取しすぎて調子悪いので保健室行かせてください。
Request by チョコさん
チョコさん、リクエストありがとうございました!!
轟くんがイケメンで天然だから許されるセクハラでした。これ普通に成人してて会社の上司とかにやられてたらすぐセクハラで訴えるか会社辞めるレベル
緑谷くんが1番苦労人です・・・。周りのみんなはなるべく離れて見なかったことにしています。緑谷くんだけ運悪く見てしまう。これからも巻き込まれていくのが目に見える。ごめんね・・・。
この小説で少しでも楽しんで頂けたら幸いです!
リクエストありがとうございました!
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