その眼差しの先に
轟くんは、わたしなんかにとってもやさしい。




「苗字」
「あ、と、とどろきくん」
「ここ空いてるぞ」
「え、あ、で、でも」
「皆前で見てるみてぇだから、遠慮すんな」
「う、うん・・・ありがとう」

授業での実践訓練は、ヒーロー科にはなくてはならないもの。色んな形式で行われる授業は大変だけど、ヒーローになるためには必要なことだって理解しているからがんばれる。
今日はペアでヒーロー役と敵役にわかれての実践訓練だった。核はなかったけど、なんとなく入学してすぐの訓練を思い出す。あの頃と比べても、わたしはてんでダメで相方の足を引っ張るばっかり。
ぼろぼろになってモニターが設置されているスペースに帰ってくると、他のペアの訓練が始まっててみんなモニターに夢中だった。
みんなと一緒に前で見てたい気持ちもあったけど、正直かなり疲れてた。
そんな時に轟くんに自分が座っているベンチの横に来るよう声をかけられ、気を使わせた申し訳なさと感謝を携えながら座らせてもらう。

「お疲れ様」
「あ、ありがとう・・・」
「惜しかったな」
「そんなことないよ・・・わたし、足引っ張ってばかりだし、ほんと、」
「そんなことねえよ」

隣の轟くんは労わるように声をかけてくれる。それがなんだか余計に申し訳なかった。こんなわたしにかけてくれる言葉すら勿体ない。
隣に座っておきながら、轟くんはもっと凄いみんなと有意義な時間を過ごすべきだと、矛盾した気持ちで座り続けた。

「と、轟くん凄かったね。」
「そうか?」
「うん、あっという間で・・・ほんとにもうヒーローみたいだった。かっこよかったなぁ・・・。わたしには、できっこないや」
「・・・」
「・・・?、轟くん?」

わたしの前に訓練をしていた轟くんは本当に凄かった。クラスのみんな凄いんだけど、轟くんは本当に強い。最近は入学した頃より雰囲気が柔らかくなったからか連携もバッチリ決まってて、わたしからしたらあっという間の決着だった。
わたしには到底、出来ない芸当。強くて、かっこよくて、憧れのヒーロー像。
わたし、なんでできっこないヒーローなんか目指してるんだろ。
思っていたことをそのまま口に出すと、轟くんは目を少し開いて固まった。
わたし、変なこと言っちゃったかな?

「ごめん、変なこと言っちゃった?気分悪くしたかな?」
「・・・あ、いや。その・・・」
「う、うん」
「苗字にかっこいいって言われると、なんか嬉しくて」
「え」
「ありがとな」

そういう轟くんは、目尻を下げて笑った。それに少し心臓がビックリして、思わず目線を逸らして下を向く。

「それと、できっこねぇなんて言うな。苗字は、お前が言うかっこいいヒーローになれる」
「そ、そんな・・・なれっこないよ。今だって精一杯で」
「苗字は確実に入学した頃より動けるようになってる。努力した結果だ。お前は頑張ってる。頑張ってるやつが、ヒーローになれないわけねぇだろ」

轟くんはやさしく、でもしっかりとした口調でわたしに伝えてくれる。わたしが認められないわたしを、掬い上げてくれる。
なんか恥ずかしくなって、隠れたくて両手で露出している腕を擦った。こんなことしたって隠れられないのに。

「?さみぃのか」
「え、いや」
「空調当たるところか。こっちこい」
「へ、ぁ・・・」

わたしが腕を擦ってるのをみて寒いと思ったのか、轟くんは上の空調を確認してからわたしの肩に手を回した。そうすると必然的に轟くんに近づく訳で・・・

「ひゃ、あの、と、とどろきく」
「これで寒くねぇだろ。」
「あ、あの、その、あの・・・」
「お、次は緑谷達か。」

肩に腕が回ったまま、すこし轟くんに密着するような形になった。くっついた轟くんの左側は少し熱いくらいで、きっと寒がるわたしの為にあっためてくれてるんだろうけど、だけど・・・!
この体勢は、とっても恥ずかしい・・・





「苗字」
「轟くん」
「それ、どうしたんだ?」
「あ、プレゼントマイクに頼まれて」

英語の授業の前に、廊下で偶然あったプレゼントマイク先生に前回提出したテキストをみんなに返すように言われ、ちょっとずっしりしたテキストを持って歩いていた。
そうしたら後ろから轟くんに声をかけられた。あっちは職員室とかしかないけど、轟くんは何か用事があったのかな。

「そうか、重くねえか」
「うん、大丈夫だよ。こ、このくらい平気」

女子に渡すには少し重たい21冊のテキスト達。ちょっと大丈夫か不安だったけど断れる訳もなく。誰かもう1人呼ぶかと言われたけど遠慮してしまった。誰かを手伝わせる為に呼ぶなんて申し訳ない。

「そうか・・・偉いな」

その言葉と共に、頭の上に何かが乗って髪を撫でつける。
びっくりして轟くんを見上げると、その何から轟くんの手で。轟くんはやさしくわらってて、
心臓がまたびっくりして跳ね上がった。

「と、とどろきくん!」
「ん?」
「あ、あの!あの・・・」
「やっぱ大変だろ。俺も持つ」
「えっ・・・え!悪いよ!」

頭から手が離れたと思ったら、腕にかかっていた重みがほとんど無くなった。一瞬で半分以上テキストをさらっていった轟くんは、わたしの言葉の抵抗など聞こえていないのか歩き出してしまう。
それに急いで追いついて隣を歩きながらテキストを返して欲しいと言っても、轟くんは返してくれそうにない。

「とどろきくん・・・ほんとに悪いよ、」
「俺がやりたくてやってるからいいんだ」
「そ、それじゃあ、何かお礼を」

わたしのその言葉に少し考えるふりをして、わたしを振り返った。

「じゃあ一緒に昼飯行こう」
「あ!うん、奢るね!」
「いや奢んなくていい」
「え?」

「苗字と一緒に飯食いたいだけだから」

そう優しくわらう轟くんに、気の抜けたような声しか出なかった。









轟と苗字がまたイチャイチャしてる。あれで無意識だっつーんだからタチが悪い。
たしかにみんな前でモニター見てるけど、誰も後ろ振り向かないわけじゃねえから!

「おい、瀬呂・・・轟と苗字またやってる」
「気にしたら負けだって」
「なんであんなナチュラルに肩抱けるんだ?!」
「轟だからだな・・・」

瀬呂はすこし呆れが入った口調で、目の前のモニターに視線を移した。
轟はモニターを見て、赤くなってあわあわしてる苗字のことはもう見ていない。慌ててる苗字がかわいそうっつーか、なんというか・・・
轟に下心が全然見えないからすごい。
いつもの事だと言われても気にしてしまうし見てしまう。
俺も王子様ルックだったらああやって女の子の肩ナチュラルに抱けたんかな



「おいおいおいおい瀬呂ぉ!見てみろ!!」
「ん?・・・ああ、轟と苗字か。一緒に飯食ってるな」
「いや距離感おかしくね?!」
「魚ほぐしてあげてるな」
「普通解すか?!苗字も少し困ってんだろ!」
「やってあげたいんだろ・・・苗字ってなんか構ってやりたい感じあるもんな。上鳴がやってたら下心満載で気持ちわりぃけど轟ならなんとも思わねぇな」
「いや思うよ?!てか何気に俺ディスられたん?」

食堂の少し離れた席でみつけた轟と苗字。
轟はどうやら苗字の焼き魚定食の骨取りをしている。
いや子供じゃねーし苗字!困ってんだろ!
あ、ほぐし終わった・・・。あれ、轟天ザルじゃん。
天ぷら珍しい・・・
轟は苗字のお皿の端に自分の天ぷらを移している。口元から「もっと食え」と読み取れた。
お前は苗字のかーちゃんか?!

苗字も遠慮してる身振りをしているが、轟は折れないらしい。ぺこりと頭を下げて、天ぷらに小さい口で齧り付いた。
轟はそばを食べずにそれを見てて、

あ、かーちゃんじゃねーわ。

あれは恋してる眼差しじゃん。



Request by さららさん
さららさん、リクエストありがとうございました!!
なんかただかっこいい王子様轟くんになっちゃった・・・甘やかせているか?!と不安です。轟くんはナチュラルに肩を抱いてくると信じています。
そして好きな子には自分が好きと気づいてなくても無意識に優しくする男。
甘やかし方が微妙だったかも・・・!書きながら甘やかすのゲシュタルト崩壊が起きていました!笑
こんな小説になってしまいましたが、少しでも楽しんでいただけると幸いです・・・!

リクエストありがとうございました!
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