面が良いから仕方ない! | ナノ

やけに本格的なデートの練習

 寮を出てすぐにショルダーバックに入れている手鏡を取り出して、念のためヘアスタイルやメイクの確認をする。最近忙しくて出かけるの自体久しぶりだから余計気になっちゃうよね。とりあえずおかしいところはなさそう。腕時計を見ても待ち合わせまで15分もあるから焦らず待ち合わせ場所に向かうことが出来そうだ。というか待ち合わせ場所目と鼻の先だし。雄英前のバス停にして良かったな〜。
とりあえず今日は大事な予行練習なんだからしっかりとエスコートとかデートがどういうものか分かってもらわなきゃね!全ては推しカプのため・・・。そう思いながら歩いているだけでもうバス停に着きそう。まだ来てないよね・・・・・・・・・。???

なんかバス停輝いてるわ。いやバス停が輝いてるんじゃなくてその近くにいる人が輝いてるんだわ。周りの人達だって少し遠目に見てるじゃん。

遠目に見ても輝いている人ー轟くんは、控えめに言って芸能人だった。グレーのジャケットに黒の薄手のタートルネック。スラッとしたパンツが足の長さを強調させている。・・・ていうか髪型もワックス使ったの?!あの寝癖つけて歯磨きにおりてくる轟くんが?!ワックスで白い方の髪を少し撫でて耳にかけてるの?!なんで?!ワックスなんて持ってたの?!てかかっこよ!!!!かっこよすぎる!!!マジで芸能人じゃんいや芸能人すら霞むわ。・・・え?いまからわたしあそこに行くの・・・?あの人の隣歩くの・・・?無理なんだけど・・・こんな女が歩いていいような隣じゃないでしょ・・・。腹壊したっていまからメッセージ入れようかな・・・。

少し遠くで不自然に立ち止まっていたからか、その轟くんが不意にこっちを見た。あ、「お。」って顔してるわ。右手を少しあげて「こっちだよ〜」みたいにアピールしてくるからもう帰れないじゃん。なんでこんなところで立ち止まったんだわたし。さっさと隠れればよかったわ・・・。ほんとにいまからこんなイケメンとデートの予行練習するの??わたしでよかったのか・・・?
駆け寄って近くで見ると余計まぶしい。後光さしてるわ。

「よ」
「と、轟くん、お待たせ・・・はやかったね?」
「いや、今来たところだ・・・・・・っていえばいいんだよな?」


首を傾げるな〜〜〜〜!!!!名前に999のダメージ!名前は瀕死だ。もうダメ!!面が良すぎて首を傾げただけで人が死ぬレベル!!!ほら!!周りの人たちも胸を抑えて下向いてるじゃん!!!あそこのおばあちゃんのハートも射抜いちゃってるじゃん!!

「そ、ソウダネ・・・」
「?顔が赤いな。熱でもあるのか?無理してきたのか?」
「ちちちちがうよ!熱ないよ!!と、轟くんめっちゃきまってるね今日!!これならどんな猛獣もイチコロだよ!!」


落ち着くのよ名前。あなたは恋の伝道師なの。三次元の推しの恋路のために馬車馬の様に働くのよ!このデートの練習さえ上手く行けばあとは誘うだけなんだから!!どんな猛獣だって完璧な男に誘われたら断れるわけないんだから!そうバイブル(薄い本)に書いてあるもん!!

「苗字は?」
「え?」
「苗字もイチコロになったか?」

そう言ってまた首を傾げる轟くんにわたしは石になった。近くで2回も見たら石にもなるわ。正直わたしの感想なんていらねーと思うんだけど少しソワソワしながら待ってる人がいるから、石になった首をギギギと動かして頷いた。わたしはいま猛獣役なんだから返事を求めてくるんだよね??そうだよねデートの相手に聞きたいよねウンウン。でも猛獣はこうは答えてくれないかもしれないからわたし動き間違えたかもしれん。
頷いたわたしをみて轟くんは少し目元を染めて微笑んだ。

「そうか。・・・苗字もその服も髪も似合ってる。かわいい」

あ、これ今日命日かもしれん。





そもそもの発端は2日前に遡る。そう、わたしが腐女子バレして轟くんが爆豪くんを好きだと判明した日だ。色々練習していくことになったわたしたちは、とりあえずお付き合いとか告白の前はデートに行ったりすると薄い本に書いてあったので、その通りに進めていくことにした。
轟くんのことだ。急にデートしてくれ、って言いそう。そんでハナっから断られそうなので、まずは誘い方の練習をしようとメッセージアプリでやり取りをしてみることにした。目の前にいるのにね!そりゃ伝道師は近くにいないとアドバイス出来ないからね。

「じゃあわたしにメッセージ送ってみよう!大体明日暇か?とか言うと内容によったりするから、そのついでに用事も書けばいいね」
「そうなのか。じゃあ送るな」

手元の携帯をフリックし始める轟くんの旋毛これ綺麗に2色にわかれてんだな・・・。こんな風に見たこと無かったから初めて知った。わたしが旋毛に夢中になっていると手元の携帯が震えて画面が明るくなりバナーが表示される

『よう。明日暇か?買いたいものがあって、付き合ってくれると助かる』

「完璧じゃん?!?」
「さっき読んだ本のセリフそのまま入れたんだが、大丈夫そうか?」
「大丈夫大丈夫!!」

やっぱバイブルはすげーや!!マジで薄い本って勉強になる。よくわかんだね。ロックを外して轟焦凍と表示されてるメッセージ画面に返事を打ち込む。

『明日は用事があるから難しそう』
『そうか。いつなら大丈夫そうだ?』
『明後日なら時間あるよ!明後日でもいい?』
『問題ない。11時に雄英前のバス停に集合しよう』
『OK!』

あれ?爆豪くんはこんなに簡単に返事しない・・・かも?まあ練習に付き合わなきゃ意味ないからいっか。

「メッセージのやり取りは問題ないね!」
「苗字にそう言われると安心できる。じゃあ明後日、よろしく頼む」
「うん、明後日!・・・明後日?」
「?デート行くんだろ?」

座っていたクッションから腰を上げ「え?」みたいな顔してる轟くんにわたしも「え?」みたいな顔で返した。え?デートすんの??轟くんと???わたし???

「デート・・・?」
「?さっき付き合ってくれるって言ったろ」

練習のことね?!?!その言い方語弊あるからね!!!そ、そっか、デートの練習するのか。そりゃするか。

「あ、明後日轟くん本当に大丈夫なの?」
「特に用事もねえしな。苗字と出掛けるの楽しみにしてる」

じゃあ。あ、これ借りてくな。そう言って今日持ってきてもらった薄い本全てを小脇に抱えて轟くんはわたしの部屋を出ていった。
え?今なんて言ったの・・・??というか

「持ってかれた!!!!」




という経緯を思い出しながら2人でバスに揺られています。轟くんの後ろの席に座ろうとしたら当たり前のように隣に座るだろ?みたいな顔で見られたから大人しく隣にお邪魔させてもらってるけど、バスって近いね?!2人席だともう肩がふれあいそうなんだけど?!めっちゃ限界まで端によってるけど大きく揺れたらぶつかりそう・・・。てか窓の外みてる轟くんの横顔めっちゃ絵画じゃん。誰が描いたの??絵画から出てきたらダメだよルーブル美術館に戻って。
ちなみに出かける先は近くのショッピングモールにした。無難にね。なんでもあるし。あわよくば本屋に行きたい。
そんなことを思いながら轟くんの横顔を見ていたら、窓越しの轟くんと目が合って微笑まれた。目があった????てか轟くんそんなに笑う人だったっけ??破壊力抜群だから安売りしない方がいいよわたしの心臓持たないから。勢いよく反対側を向いて首を少し痛めた。




「とりあえず飯でも食うか」
「そ、そうだね・・・何食べたい?」
「『俺は何でもいいから、苗字の食べたいものにしよう』」
「そばじゃなくていいの?!」
「昨日借りた本に書いてあった」
「ほえーなるほど・・・」

轟くん借りてった本しっかり読み込んでて笑うんだが・・・。まさか薄い本を読み込んでくるとは思わないよ・・・。でもしっかりデートの基本(?)みたいなのを学んできてて、伝道師は言うことなしだよ!!

「で、何食べたいんだ?」
「うーん、わたしもおそば好きだし、ここのショッピングモールのお蕎麦屋さん結構美味しいから食べに行こう、おそば」
「・・・ああ」

やっぱ轟くんといえばお蕎麦だしね。あったかくないやつ。わたしもおそば好きだからお互い好きな物にして損は無いよね。おそばになったからか結構嬉しそうにしてる轟くん、かっこいいのにかわいいじゃん。相変わらず無敵だな。

「じゃあ行くか」
「うん・・・・・・・・・ウン?!」
「?」
「手・・・!!!手・・・・・・!!!!」
「デートには手を繋ぐって書いてあった。練習しなきゃなんねえしな。」

行くかって言ってサラッとわたしの片手を掴んできて一瞬反応出来んかったわ・・・。てか手!!!轟くんと手繋いでる!!!?!あったかいな・・・・・・じゃなくて!!!

「じ、実際にやってみたしもういいのでは?!?」
「別に行先同じなんだからこのままでも良くねえか?」
「そ、それはそうだけども」
「・・・嫌か?」
「いえ、光栄です」

その面で捨てられた子犬みたいな顔するな。ヤンキーも秒で拾うわ



その後蕎麦を食べながら学校の話をして、適当にウィンドウショッピングをして回った。蕎麦屋から出たあともナチュラルに手を繋いでくるからむしろ恋愛百戦錬磨なのでは??と思わざるを得ない自然っぷりでわたしが必要か??と思ってしまう。でも轟くんに練習に付き合ってと言われたのなら付き合って、恋のキューピッドになるためにいるのよ名前と恋人繋ぎをされても心を無にした。心を無にしないとやっていけない。手汗ヤバそうだから正直離して欲しいし、周りの目も気になるから・・・轟くん面が良すぎて目立つから・・・。

「苗字」
「YESボス」
「?俺はボスじゃねえ」
「スルーしてくれ・・・。どうしたの?」
「ちょっと買いたいもんあるから少し待っててくれ」
「あ、はーい」

そう言って来た道を戻っていくのを見送り、近くのベンチによっこらしょと腰掛けた。正直めっちゃ疲れる・・・。面が良いし手は繋いでくるし距離近いし心臓が病気なんじゃないかってくらいバクバク動くからめっちゃ疲れる。例えば爆豪くんと上手くいったとして、爆豪くんはこれに耐えられんのか・・・??わたしは数時間でだいぶ寿命縮まってる感じしかしないけどね。


宣言した通り少ししたら帰ってきた轟くんとまた2人でウィンドウショッピングを再開した。(手は繋がれました)轟くんは文房具屋で新しくペンを買っていたので、わたしもそう言えば赤のインク切れてたと思い出して無事に購入。ありがとう思い出させてくれて。
そのうちいい時間になったのでまた2人でバスに乗って帰路に着く。今度はわたしが窓側に座ることになって、何となく窓の外を見ていたら窓に反射して轟くんが見えた。目が合った。だからなんで???

「降りよう苗字」
「え?あとひとつ先だよ?」
「少し歩かないか」
「う、うん。いいよ」

謎の轟くんの提案でひとつ前のバス停で降りた。何も喋らないのもあれなので今日のデートの講評タイムを設け、轟くんを褒めちぎった。これで自信つくね!!あとは本人誘うだけだから余裕だわ。・・・誘う方が難しくね??

「苗字、今日はありがとな」
「ぜ、全然!轟くんの糧に慣れたのなら!」
「そうか。・・・これ」
「?」

急に歩くのを止めてポケットをゴソゴソする轟くん。何?レシート?やっと蕎麦屋のレシート渡してくれる??割り勘のはずなのに大きいのしかないとか言ってお金受け取らないから憤慨だよわたしは。やっと払わせる気になったのならよろしい。
差し出されたものを反射で受け取った。・・・?レシートじゃないじゃん。

「?これなに?」
「開けてみてくれ」

可愛いラッピングがされた箱を開け・・・これウィンドウショッピングでみてた店の名前書いてある!!!!恐る恐る開けるとわたしが買うのを迷っていた雪の結晶をモチーフにしたネックレスが出てきた。
出てきた?!?!?

「?!こ、これ?!ん?!」
「欲しかったんじゃないのか?」
「え?!いや?!あ?!そ、そうだけど受け取れないよ!!」
「気に入らなかったか?」
「いやそうじゃなくてね!!?申し訳ないよこんな貰うなんて!!」
「でも本ではプレゼントしてたぞ」
「めっちゃ忠実な再現!!!」

轟くんのバイブルにもなってしまっている!!!教科書じゃねーんだから!!あんなふしだらな教科書あってたまるか!!てゆーか借りてった本何冊読んだのかな・・・

「受け取ってくれ。今日のお礼に」
「いやお礼なんてそんな・・・」
「でも俺はつけれねぇし返されても困る」
「ううう・・・でもお金払うよせめて」
「それじゃお礼になんねぇだろ」

押し問答が続き、折れない轟くんにとうとうわたしが折れるはめになった。たしかに欲しかったやつだけど申し訳なさ1000%だよドキドキで壊れるよ

「分かった・・・ありがとうございます・・・」
「ああ」
「お金受けとってくれないなら今度何か轟くんの欲しいもの買うから言ってね!!」
「・・・ああ。また今度な」

押し問答に勝ったのがそんなに嬉しいか??轟くん今日はよく笑うなあ。心臓が不整脈起こすからやめて欲しい。普段学校や寮にいる時はこんなに近くにいないし笑ってるところもそんなに見たことないから新鮮ではあるけど、ほんとに不整脈起こして倒れかねないわ。

「苗字」
「今度は何かな・・・」
「名前って呼んでいいか?」
「ヒェ」

轟くんのなかでそんなに今日仲良くなったの???名前で呼ばれてる人クラスにいる??いないよね??

「ででででもみんなに変に思われるよ勘違いされるよ」
「それでもいい」
「よくないよ?!?!何言ってんの?!」
「そうか・・・じゃあ2人きりのときならいいってことだよな」
「すごい解釈ポジティブシンキングにも程がある」
「・・・ダメか?」

だから捨てられた子犬をやめろ!!!!

「・・・だ、ダメじゃないです」
「そうか。じゃあ名前も俺の事名前で呼んでくれ」
「ゑ?」
「?俺の名前は焦凍だ」
「いや知ってるけども・・・轟くんでよくない?」
「俺は名前で呼ばれてぇ」
「グッ・・・」

ほら名前、練習。そう言ってくる轟くんもはや小悪魔に見えてくる。なんで呼ぶ必要あるのかな・・・名前で呼びあった方が練習になるか??というか今はわたしの練習なの??なんで??いる???

「名前」
「グゥ・・・・・・しょ」
「しょ?」
「焦凍・・・・・・く、ん・・・」

急かすように名前を呼ばれて心臓が飛び出るのを抑えながら名前を呼んだ。羞恥プレイか????そうなの???恥ずかしいからぜったい猛獣暴れるからやらない方がいいよわかったか?分かったなら美術館に帰りな轟くんよ

「・・・名前で呼ばれるのいいな。」
「ソレハ・・・ヨカッタデス・・・」
「帰るか」
「ハイ・・・」

だからナチュラルに手を繋ぐのやめよう・・・あ、帰るまでが遠足理論か。でも人に見つかったら勘違いされるから雄英のバス停まで行ったら離してもらおう。噂になったらせっかくの轟くんの恋路の邪魔になる!!
初恋を実らせるのよ名前!!!

「あ、忘れてた」
「?何か買うものほかにもあった?」
「いや、本に書いてあったこと。まだ間に合うか?」
「?買い物じゃなきゃ間に合う・・・?けども、」


歩き始めていた轟くんが不意にそう言うので、買い物とかじゃなきゃ間に合うんじゃない?と返事をした。というか轟くん参考にしてる本絶対わたし読んでない新刊じゃん許せないわたしより先に読んで早く返せ!読みたい!!

「間に合うならよかった」
「へ、」

急に止まった轟くんが振り向いた。顔ちか!!良すぎる顔が目に毒なんだけどいやちか・・・・・・・・

「・・・デートの最後にこうしてたからな。ちゃんと本通りに出来て良かった」
「・・・」
「?名前?」
「・・・」







『次回予告!』
本格的すぎるデート練習に心臓が持たない!というか動きが完璧でいうことなしだったよ!でもずっと手を繋いだりする必要あったかな?最後のあれは・・・・・・・・キス?!わ、わたしのファーストキスが・・・!!轟くんここまで正確に本を再現しなくていから!!

次回「セカンドどころかサードまで持ってかれる」デュエルスタンバイ!

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