面が良いから仕方ない! | ナノ

終わりかけた人生も意外とどうにかなる

「あ」
「お」


 紙袋の底が抜け、本や冊子が床に散らばる音と居合わせたクラスメイトの声が共有スペースに無惨にも響く。広い共有スペースなのに、相手との距離は1メートルもない。落としてしまった衝撃で固まっている刹那、クラスメイトー轟くんは足元の男同士が寄り添っている薄い本をその手にとってまじまじと見た。


 お、終わった〜〜〜〜!!!!苗字名前16歳の人生ここで終わった〜〜〜〜・・・。足元にある今し方姉から送ってもらった薄い本をどうにかこっそり部屋までもっていこうと、みんなが比較的部屋にいるか出払っている時間を見越して持ってきてもらいこっそり受け取り忍者のように自分の部屋までいこうと思ってたのに、共有スペースで紙袋破けるか?普通。まだスタート地点じゃん。いや紙袋にパンパンに入れてくる姉もどうかと思うけどね!?誰もいない時間にしたのに、なんで今日に限って人が来る!?しかも轟くんだと・・・。今わたしの中で三次元で熱いカップリングの左じゃん・・・。(勝手に)良いクラスメイト関係を築けていると思ったのに終わったわ。もう今日からよそよそしいわこれ。だってクラスメイトがBLの本持ってたらびっくりするじゃん。引くじゃんきっと。だって轟くん箱入り坊ちゃんでしょ・・・。
 そう、轟くんが知らないであろう世界の人種・・・腐女子、それがわたしであった・・・。言いふらすような人ではないと思うけど、口止めはしないといけないしお目汚しをしてしまった謝罪もしないといけな・・・

「なぁ、なんでこれ男同士でキスしてんだ?」

 読んでいる!?!?なぜ拾った本の表紙をみてすぐに読む!?しかもよくみたら結構読んでるね!?わたしそんなに長考してた・・・?

「え、えと、それは、その」
「これ全部同じキャラか?絵柄が違うな」
「拾ってくれてありがたいけど足元の本全部まじまじとみなくて良いからねそれとできればいますぐ渡して欲し」

 轟くんから本を奪い・・・受け取ろうとした瞬間、エレベーターホールからガヤガヤと誰かが降りてきた音が聞こえ、その瞬間わたしはマッハを超えた。まだ落ちている本を拾い上げ轟くんの腕を掴み今し方降りてきたエレベーターに、降りてきた上鳴と切島の横をすり抜け乗り込みボタンを連打した。高橋名人も真っ青になる速さだったと思う。
 あまりの早技に降りてきた2人は頭にクエスチョンマークを浮かべていた。もはや誰が乗り込んだかも分からなかったのではないだろうか。それなら僥倖・・・。2階で止まったエレベーターから轟くんの腕をまた引いて降り、無言でわたしの部屋に駆け込んだ。轟くんをローテーブルの横にあるクッションに座らせて本をテーブルに置き、ドアの鍵をかける。これで追手が来ても完璧だ。そして轟くん。無駄な抵抗もなくついてきてくれてありがとう・・・。そう思って振り向くとまたさっきまで読んでいた薄い本の続きを読んでいる轟くん・・・トドロキくん!?!?


「とととととろろきく」
「あぁ、悪りぃ。もう少しで読み終わるからちょっと待ってくれ」
「あ、ウン・・・」

 なに・・・?死刑執行までの時間ってこんな感じなの?首にギロチンが落ちてくるのをこんな気持ちで待ってるの??真っ白の抜け殻になって立ち尽くしていたら、「立ってたら疲れねぇか?ここ座れよ」と横にあるクッションに視線を向ける。え?ここ轟くんの部屋?
 もう真っ白な頭では別のところに座るとかそういうことは考えられなくて、薄い本を読むときに飲む用に用意していたパックのりんごジュースを冷蔵庫から取り出し、轟くんの前のテーブルに置くと指示されたクッションに座った。「ありがとな」と本を読みながらお礼を言われても頷くしかできない。

 アナログ時計の秒針を刻む音と轟くんのページを捲る音だけが響いている。本当は、わたしだって読みたい・・・この時間は本来であれば届いた薄い本を堪能している時間だったのに、今はなんで轟くんが薄い本を読み終わるのを待っている時間になっているのか・・・。そういえば、男子を部屋に招いた(不可抗力)のって初めてだけど変なもの落ちてないかな。本を快適に読むために部屋の掃除しといてよかった〜と昨日の自分に感謝した。


「待たせた」
「ハイ・・・」
「これ続編あんのか?」
「続編・・・あります・・・」
「読んでもいいか?」
「・・・??」

 え?もう今わたし宇宙猫の顔してない?してる自信ある。そしてなに普通の漫画読んでるみたいに聞いてくるの?それR18じゃないけど続編は致してんだわ・・・。じゃなくて!


「えっと、あの、その」
「おう」
「と、轟くん、引かないの・・・?」
「?」
「いや、これ、普通の本じゃ、ないっていうか・・・」
「そうだな、あんまり読んだことねぇ」
「だよね・・・」
「苗字はこういうのが好きなのか?」

苗字はこういうのが好きなのか?苗字はこういうのが好きなのか?苗字はこういうのが好きなのか?・・・

 脳内で轟くんの声が反響する。どうする・・・苗字名前、ここで否定するか?いや否定したところでじゃあこれなんで持ってんの?ってなるし、否定することはこれまでのわたしの人生の否定につながる(壮大)気がする・・・。これで好きって言ったら、轟くんはドン引きするのかな・・・いや今の時点でドン引きだろうけど、でもドン引きしてたら本読まなくない?てか続編も気にならないよね?・・・いけ、行くんだ苗字名前!!

「す、好きです・・・」
 声がちっせぇ〜〜〜〜!意気込んだ割に全然声出なかったわ。轟くん聞こえた?もう一回言わなきゃだめかな??


「そうか」
「ウン・・・」
「なんでそんなに縮こまってんだ?」
「いや・・・その・・・なんか・・・引かれるかなって思って・・・」

「?苗字を嫌いになるような要素はない」


 ??・・・え?轟くん・・・気持ち悪いとか思わないの・・・?むしろ腐女子に寛大?え?いける口?普通キモいとか思うんじゃないの?男子は・・・。大丈夫だったの?あ、続編求めてるくらいだから大丈夫なのかな・・・あ、なんか涙出てきそう。今までの楽しい学生生活終わったと思って走馬灯みたいなのも流れてたから九死に一生を得た気持ちになってr


「俺も・・・好きなやついるから、こういうのは勉強になる」
「ゑ?」

 ちょっと頬を染めてあっちの方向を見ながらいう轟くん。今何つった?スキナヤツガイル?好きなやつ?この流れで?この流れでいうの?ということは・・・そういうことなの!?ねえそういうこと!?
 隣のクッションに座っていた轟くんに色んな意味で興奮して近づきすぎた。でもこの気持ちに嘘は言えないの・・・ねぇ、そう言うことなの!?

「え?轟くん・・・好きな人いるの?」
「あぁ」
「え、この流れで言うってことは、そう言うこと・・・?」
「?どういう流れかはわかんねぇ」
「だ、誰かに相談とか」
「まだ誰にも言ってねぇ」
「そそそそっか・・・」

 近づいても離れていかない轟くんの距離感はちょっと置いといて。まずは誰が好きなのかちょっとリサーチしよう・・・だって三次元で左に位置させているクラスメイトだよ!?右誰だよ!?緑谷くん!?爆豪くん!?わたしはこの2人を轟くんとカップリングさせてみたりして日常を楽しんでたんだけどもしかして現実になる?!あ、鼻血でそう


「ち、ちなみに誰とか聞いてもいい?」
「クラスメイトだ」
「ほあーーーそっかあ・・・な、なんか特徴とか・・・」
「・・・」

 特徴で悩んでいるのかわたしをガン見してくるけど、これはこいつに言ってもいいのかなとか思ってるのかな?大丈夫大丈夫!わたし大丈夫!ワクワクしながら見つめ返した。うっ、面が良い

「目の色が赤いな」

 ハイ轟爆です本当にありがとうございました。もうなんか感激で涙まで出てきて目元を抑えてると「大丈夫か?」と覗き込んでくれた轟くんまじ天使。

「ウッ大丈夫・・・うまく行くといいね・・・」
「そうだと良いんだが・・・」
「ウン」
「多分初恋で、今までそういう恋愛的な経験もないから自信がねぇ」

 こんなに面が良くて彼女や彼氏の1人もいたことないの???世間は彼を放っておいてなにをしているの??でもそのおかげで雄英で爆豪くんと運命的な出会いを果たしたんだよね放って置いて正解です本当にありがとうございました。
 これは、事情を知っているわたしがひと肌脱ぐしかねぇ・・・!やるのよ苗字名前!!わたしは!!今から恋の伝道師!(彼氏いない歴=年齢)数多の薄い本で培ってきた知識をここで総動員するのよ!!

「轟くんがよかったら、わたしが恋をお手伝いをさせていただきたい・・・!」
「苗字が?」
「ハイ・・・!ぐ、具体的にはデートの誘い方とか色々・・・!」

 考える素振りも絵になるよ轟くん!!いつも面が良いと思ってたけど本当に面が良い!これは落とし方とか覚えたらすぐに落とせるよ!!君の前には誰もがひれ伏す!!爆豪くんはひれ伏さないけど
 
「じゃあ頼む」
「ま、任せて・・・!」

 少し考えた後にこっちをみてペコリと頭を下げる轟くん。仕草が可愛い・・・!かっこいいと可愛いが共存してるとかもう無敵じゃん。頭を上げた轟くんの顔はなんかみたことない表情だった。


「色々教えてくれるんだよな?」
「え?う、うん!」
「練習にも付き合ってくれねぇか?」
「わ、わたしでよければ!」


「これからよろしくな、苗字」
 ちょっと照れながらはにかんだ轟くんに心臓が止まりそうになった。





『次回予告!』
わたし、苗字名前!花も腐る16歳!ひょんなことから轟くんに腐女子バレし、絶望したと思ったら、なんと轟くんは爆豪くんが好きだったらしい!そんな彼の恋のキューピッドになるべく、恋愛経験のない轟くんと恋の伝道師(なお知識のみ)のわたしで恋愛のいろはがなんたるかを勉強していくことになったよ!目指せ!どんな猛獣も落とすオトコ!

 次回、「やけに本格的なデートの練習」デュエルスタンバイ!
prev / next

表紙へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -