本棚 | ナノ

朝起きて、1番に見るのはお前の顔がいい。
ぼんやりとした視界のなかで、口の端からよだれを垂らして幸せそうに眠る顔を見て、幸せになりたい。
起こしたら目をしょぼしょぼと開けて、俺を見つけると嬉しそうに笑う。その顔が好きで好きで仕方なかった。


「しょうとくんおはよぉ」
「おはよう名前」
「今日はおやすみだっけ・・・?」
「ああ」
「そっか・・・へへ、1日いっしょだ。」


寝起き特有の掠れた声も好きだ。きっと俺しか知らない声。休みが一緒なのは久しぶりだったから、今日は緊急の呼び出しもなしにしてもらった。ヒーローは俺だけじゃないんだからどうということはない。
1日いっしょだと嬉しそうに笑ってくっついてくる名前に腕を回して抱きしめる。同じシャンプーを使っているはずなのに、名前の匂いは甘く感じる。肺いっぱいに吸い込んでから頬擦りをするとくすぐったそうに身をよじった。


「今日どこか行くか?」
「うーん、お家でのんびりしよう」
「行きたいって言ってた映画あったろ」
「いいの、今日はね、しょうとくん独り占めの日なの」


そういってこっちを見上げていたずらっ子のように笑う。その笑顔が心底愛おしくてキスをすると「しあわせな朝だなあ」とむふふと目を細めた。
俺もだよ、名前。しあわせな朝だ。






「しょうとくん独り占めの日だから、おうち映画します!」
「いいな。何見るんだ?」
「えっとね、」


ベッドの上でいちゃいちゃしてると名前のお腹がなって、名前はすぐにお腹すいた!とベッドからころりと出ていってしまった。独り占めされる俺は残されてしまったので少しの寂しさを覚えつつ名前の後を追う。2人で歯を磨いて顔を洗って、名前が少し遅めの朝食を用意するのを後ろからくっついて見ていた。名前の作るカリカリのベーコンと目玉焼きが好きだ。黄身が割れると恥ずかしそうにするのが愛おしい。
「堅焼きの気分だったの!」
そうだな、堅焼きの気分だよな。

パジャマのまま朝食を食べて、名前がカフェオレを飲んでいるうちに食器を洗う。作らなかった方が食器を洗うルールだけど、お互いちゃんとありがとうを言う。やってもらって当たり前とは思わないように生きていきたい。ありがとうとごめんねを大事にする。死ぬその時までずっと仲良くいたいから。

おうち映画します!と高らかに宣言した名前は、見たい映画を携帯で探した。有料の配信サービスに登録しているから色々な映画やバラエティが見れていい。2人で携帯を覗き込んで映画を決めると、テレビを起動してそっちで準備をする。あとは再生ボタンだけになってから名前は立ち上がって、せっせと飲み物と食べ物の準備をした。


「名前ちゃんはキャラメルコーンにします!」
「俺はポップコーンか」
「キャラメルコーンがいい?半分こする?」
「半分こする。」
「甘えん坊なしょうとくんに免じて半分こを許可します!」
「ありがとうございます」
「よきにはからえ」


さっき朝飯食ったばっかなのに入るのかと尋ねるとキャラメルコーンは別腹だそうだ。テーブルにパーティ開けしたポップコーンとキャラメルコーンを並べて、ジュースもこぼれる寸前まで入れた。ソファーのクッションたちの配置を整えてから名前は俺にくっついて再生ボタンを押す。そういえば泣ける映画だったか。ティッシュ、届くとこに置くの忘れたな。



「っう、っ、ひうっ、う、」
「・・・、」
「しんじゃった・・・っ、う、っぐす」
「ほら、ティッシュ」
「ありがど・・・、しょうとくんも」
「ありがとな」


やっぱり泣ける映画だったから名前は途中から大洪水だった。冒頭はキャラメルコーンをポイポイ口に入れて見てたのに、そのうち伸ばしたまま手が止まって、大きい目をまん丸に見開いて、そこからぼろぼろと涙をこぼして。隣をそっと立ち上がってティッシュを取りに行くと、その間にさっき見た時より泣いてしまって鼻水もでてた。ティッシュで涙と鼻水を拭うと、俺の目元も拭ってくれる。泣ける映画だ、実は俺も少し泣いていた。そして名前、そのティッシュは鼻水拭いたやつじゃなかったか




「あー、泣いた・・・。あんなの悲しすぎる・・・」
「見ていて辛いな」
「しょうとくんは死んじゃダメだよ?!」
「死なねぇよ。」
「ほんと?約束だよ?」
「ああ、約束だ。俺は名前を置いて死んだりしない。」
「約束だからね、しょうとくんはわたしと老後に縁側で囲碁やるの」
「名前囲碁出来んのか?」
「老後までにはできるようになる予定」


泣ける映画の余韻はなかなか抜けない。映画が終わってからもぼーっとソファーに座り続けていると、名前は急にこっちを見て声をはりあげた。確かに下手したら死と隣合わせの仕事だ。いつその時が来るかわからない。でも、俺は死なないよ。名前を残してなんて死ねるか。だって俺が死んだら名前はずっとずっと泣いて、枯れるまで泣いて、ぐったりするのが目に見える。幽霊になったらティッシュも差し出してやれない。それに、何より好きな名前の笑顔をずっと見ていたいから。
歳をとってシワが増えた笑顔もきっと何よりかわいい。かわいいおばあちゃんとして近所で有名になったらどうしよう。老後だって俺は名前を独り占めしたいのに。
囲碁は老後までにはできるようになると言うけど、負けてムッとする名前の顔が浮かんで少し笑った。





「夕飯はおそば?」
「ああ」
「何そば?」
「今日はたぬきそば」
「たぬきそば!!わたしの天かすたくさんいれてね!!」


映画を見たあともだらだらしたりいちゃいちゃしたりして過ごしてあっという間に夜。昼食は、朝が遅かったから食べずにいたので夕飯時にはしっかりお腹がすいた。というか名前のお腹が鳴った。キスの合間に聞こえるお腹に、名前は目をぱちくりとさせてから「お腹すいた!」といいまた俺から離れる。俺を独り占めするってことは、俺も名前を独り占めするってことなんだから、簡単に離れないで欲しい。離れていい?って聞いてくれ。ダメって言うから。

冷蔵庫を見ている名前の後ろから覗き込んで、やっぱり夕飯はそばだなと決めた。冷蔵庫の中身は関係ない。準備し出すとこんどは名前が背中にくっついてきてにこにことする。言われなくても名前のたぬきそばには天かすを山盛りにするから、次に買い物に行く時に買い足すのを忘れないでくれよ。

「ネギつながってるよ!」
「当たりだ」
「やったー!景品はなんですか?」
「俺のキスです」
「大当たりじゃん!!ちゅー」
「食ってからな」


もちろん食べ終わって食器洗ってから嫌って言うほどキスした。




「あーもうしょうとくん独り占めデーが終わっちゃう」
「またのご利用をおまちしております」
「次はいつですか?」
「2人の休みが重なる日だな」
「いつですか??明日ですか??」
「明日では無いです」
「ちぇっ」


夕飯を食べ終わってから2人でいちゃいちゃしながらお風呂入って、パジャマからパジャマに着替えた。一日中パジャマで過ごすなんて社会人になってからあまりしないから背徳感が凄かった。ぜひまたやりたい。
朝抜け出したままのベッドにまた2人で潜り込んで足で掛け布団を広げたりする。名前は布団が整ってないと落ち着かない。意外と繊細だ。でも足で直すのはいいんだな。
もぞもぞと真ん中に集合し腕の中に入ってくる名前を抱きしめる。独り占めデーが終わると悲観し泣き真似をする名前に、名前独り占めデーも終わりかと悲しくなった。次の開催日は明日ではない。ついでに言うと明後日でもない。2人の休みが重なる日はなかなかないから、今日という日は本当に貴重だった。休みが重ならなくても映画とだらだら以外は普段と一緒とか、そういうことはあるけれど。


「ずーっと一緒にいたいなあ」
「俺もだ」
「ずーっとだよ?おはようからおやすみまで!」
「トイレについて行ってもいいぞ」
「それは・・・検討させてください・・・」
「名前がずっといたいって言ったのに」
「さすがにトイレは恥ずかしいっていうか・・・。それは老後にお願いしようかな」
「俺は今から着いてきてもらっても大丈夫だ」
「ついて行ってもどうしたらいいかわからないじゃん!」


もー!!と胸元に顔をぐりぐりしてくるからくすぐったくてまたぎゅうっと抱きしめた。
こうやって取り留めのない会話で笑って、時間があればくっついて、夜は抱きしめあって眠る。
そうして朝起きて、よだれを垂らして幸せそうに眠る顔を見て幸せになるんだ。

何もいらない。お前さえいれば、俺はこんなにも幸せになれるから。


「ねーしょうとくん」
「ん?」
「だぁいすき」
「俺もだぁいすき」
「へへー」
「ふふ」
「これからも家族3人で幸せになろうね」
「ああ・・・・・・・・・・・・え?」
「あ、そのうち4人とか5人になるかな?」
「え、名前、」
「また名前考えようね、おやすみ!」
「おやすみ・・・・・・いや、ちょっと待て待て、え?名前?」
「ぐー」


びっくりしたまま寝て、起きてから確認するとにこにこ笑って母子手帳を取りだした名前をこれでもかと抱きしめて泣いた。あ、お腹の方はもちろん力を込めないで。

しあわせは君のかたちをしている

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -