「ついに、ついに・・・我が家にも・・・!!!」
苦節ウン十年、いや言いすぎたね。数年かな。でも気持ち的にはそんな感じなんだよ。
うんうん、と頷いて先程黒いねこの宅配便の業者から受け取ったダンボールを見つめた。この中に・・・!
ちょっと緊張してきてドキドキし始めたから、大袈裟にすーはー深呼吸。部屋にはわたししかいないってわかってるし、そのためにこの日のこの時間を指定したんだけど念の為周りをきょろきょろと確認した。オールクリア・・・。
ダンボールのテープをハサミで丁寧に切って、もう一度深呼吸してから、いざ御開帳!
「し、しょうとおおおおお!!!!」
蓋を開けてすぐに見えた姿に感激して思わず叫んでしまった。でも仕方ないのさ!すぐにダンボールの中からしょうと、基ふわコロりんBIG2の轟焦凍を取り出して手をめいいっぱい伸ばして掲げたあとに、ぎゅうって抱きしめた。あっ包装でガシャガシャするわ。
「今出してあげるからね・・・!」
そっとビニールの包装を解いて改めてご対面。まんまるボディに毛先がちょっと跳ねてる髪型。キリッとバージョンの顔は、なんとも言えない可愛さで・・・。
手触りも花丸100点、いうことないです。
「わあああー!!かわいい!!焦凍!しょうとあいたかったよ〜!」
すくっと立ち上がってふわころ焦凍を掲げながらリビングをくるくる回って、ひとしきりはしゃいだところで潔くぎゅうっと抱きしめた。ふあふあもこもこ。かわいいお顔・・・。
「はあー・・・。グッズ出す会社いい仕事するなあ・・・。」
こんなんなんぼあってもいいですからね。ファンは買わないはずがないんよ。多分2倍の値段でも買ってた。
ぎゅうぎゅうすりすりしてハッと我に返る、そうだ早く証拠隠滅を図らねば!リビングのソファーにふわころ焦凍を優しく置いてダンボールの伝票をシュレッダーにかけて、ダンボールも丁寧に畳んで、うーんこれは多分箱でバレるからベッドの下にでもいれて・・・また外に出る時に捨てに行こう!!
寝室に移動してシャーッ!とベッドの下にダンボールをシュートしていかにも宅配便なんてありませんでしたって顔。よし。
リビングのふわころ焦凍をソファーから抱き上げてすりすりしながらまた寝室に移動してウォークインクローゼットをあけた。わたしのコートがかけてある下の方には棚があって、その上にカバンとか置いているんだけど、コートの裾でいい具合に隠れるからふわころ焦凍の隠れ家はここにしよう。うん。名残惜しくすりすりした後にキリッとしたお顔と見つめあって、そっと隠れ家に置いてクローゼットを閉めた。
時刻はおやつの時間。そろそろ夕飯の準備をしなくちゃね。じゃないとすぐに帰ってきちゃう。そう、本物の轟焦凍が!!
ふんふん鼻歌を歌いながら冷蔵庫を開けて本日の夕飯の材料を取り出して調理開始です。
焦凍は早いと18時には帰ってくるから余裕を持って準備しなきゃね。
焦凍とお付き合いしてはや数年。プロヒーローのショートはビルボードチャートでも常にTOP3を争ってて(ダイナマイトとデクとね)とっても人気。もちろん強さもそうなんだけど彼はとっても面が良いからね。フォロワー層も女性が多いかな。ダイナマイトは男性でデクは老若男女ってかんじ。またチャート発表の時期だからドキドキだな。前回は2位だったけど今回は1位いけそうな気がする!彼女としては鼻が高いのです。ふふん。
そんな焦凍とどう出会ったのかっていうと、在り来りかもしれないけど、事件に巻き込まれたところを助けられてあらら割と簡単にフォーリンラブした感じです!
順調にお付き合いが進み同棲を始めたんだけど、その時にある事件が起きた・・・。焦凍のことめちゃくちゃ好きなんだけどね、いや好きだから彼氏のグッズとか出たら欲しいじゃん?フィギュアとかぬいぐるみとかアクスタとか何でも。チョコエッグだって焦凍が出るまで食べる覚悟ある。そんで同棲するってなってお部屋決めて引越しってなって、わたしの焦凍コレクションをほくほく持ってったらどうなったと思う?
捨てられたんですけど。は??ってなるよね!!いやあああああああ!!!!って叫んでその場にへたりこんだ記憶新しいわ。いや古いんだけどね。
お鍋かき混ぜてたら玄関からドアが開く音がして?!ってなって時計見たけどまだ4時半なんですけど?!誰?!いや焦凍しかいないと思うけど・・・!急いで手を拭いて玄関までパタパタとスリッパを鳴らして行くと案の定靴を脱いでる紅白頭がそこにいた。
「焦凍おかえり、早かったね?」
「ただいま。今日は落ち着いてたから早上がりしちまった」
「サイドキックのみんなも?」
「たぶんそろそろ帰ってんじゃねぇかな」
焦凍はなんと今日落ち着いてたから早上がりしてきたらしい・・・!冷や汗がたらりと流れた。あっっっぶね・・・。下手したらふわころ焦凍と鉢合わせるとこだよ。
靴を脱いだ焦凍はわたしをみてふにゃりと笑ったあとにぎゅうって抱きついてきた。うっ苦しい。
「あいたかった」
「朝もあったよ」
「んな事言うなよ。俺は1秒だって名前と離れたくねぇんだから」
ぎゅうぎゅうされてからほっぺにちゅってされた後におでこにもちゅってしてきて綿あめも裸足で逃げ出すような甘いセリフを吐いてから焦凍は口にもちゅーってしてきた。
そうなんです。彼はわたしにこれ以上にないくらいめろめろなんです。いや自分で言って恥ずかしいけどその通りなんだよね。実際付き合い始めたのも焦凍の一目惚れからだったっていう。
ひとしきりちゅっちゅして満足した焦凍はわたしをヒョイッと抱き上げてリビングまで移動した。まるでわたしに体重ないみたいに抱き上げるけどそれは決してわたしが軽い訳ではなく焦凍がゴリラなだけです。あっ見た目はゴリラじゃないからね!!
「なあやっぱり俺の事務所で働かねぇか。そうしたら最高だと思うんだ」
「うーん、そうしたいけど今の会社にはお世話になってるからなあ」
「引き抜きの連絡していいか?」
「聞いてる?」
聞いてないな・・・。これはわたしが引き抜かれる日も遠くない。むしろ今までよく引き抜かれなかったな。リビングのソファーにわたしを降ろした焦凍はまたおでこにちゅうってしたあとに荷物を置きに行った。
さて夕飯の支度終わらせちゃおうー!あとはルー入れるだけだから楽だね、カレーはさ。
焦凍は年々わたしにめろめろになって若干引くぐらいベタベタしてくる。あれ、わたしの知ってるプロヒーローのショートってそんな感じじゃないんだけどな・・・。まあ焦凍とショートは違うか。だからか嫉妬も凄くて、まあ色々大変なんです。焦凍がデク、緑谷くんと仲良しだからたまにあったりするんだけどめちゃくちゃ葛藤してるみたい。友達の緑谷と仲良くなるのはいい事だけど話して欲しくないみたいな。おい矛盾!!話さないでどう仲良くなる?!
・・・とまあ、こんな感じなので、捨てられたんですよ。わたしのショートグッズが。それはもうわたしがショートグッズにメロメロしてたら次の日には全部無くなってた。自分なのにね・・・。自分でも嫌なんだって。目の前に本物がいるだろって言われたけどそうじゃないんだよ、わかれよ・・・。
「カレー?」
「うんカレー。」
「余ったら明日はカレーそばな」
「はいよ」
お着替えとか終わったらしい焦凍はキッチンにたってるわたしの後ろから抱きついてきてほっぺくっつけてきた。うーん、動きづらい。そばは一昨日も食べた気がしたけど、カレーそばはまた別物か。いや焦凍は毎日おそばでもいいもんね。噂によると高校時代は毎日お昼そば食べてたって。
「なあ、」
「ん?」
「俺に隠してる事ない?」
「エ?・・・ナイヨ?」
焦凍の声はいい声だなあ・・・と思ってたらそんなこと言われたからビクゥッ!ってなりそうになったのを何とか押さえ込んで平静を装った。は・・・?何・・・?何かを察知してるの・・・??ふわころ焦凍が来たことを察知したの・・・??わかっちゃうの・・・?自分の敵は・・・。
「ほんとか」
「ウ、ウン」
「もし隠し事してたら」
「してたら・・・?」
「明日は起き上がれないとおもってくれ」
「いや比較的起き上がれないこと多いからな?隠し事なくても」
「なんのことだか」
「白を切る・・・だと・・・」
起き上がれないことなんてしょっちゅうじゃん!!ひんひん泣いてもかわいいかわいいって取り憑かれたみたいに抱き潰してくんのはどこの誰だよ!!え?取り憑かれてる・・・?
ひとまずふわころ焦凍のことは守りきらないと。焦凍の目を盗んでネット通販して今日やっと来てくれたんだから・・・!!わたしは、焦凍が居ない時にふわころ焦凍を愛でるんだから・・・!!ふわころ焦凍、わたしがプロヒーローから守ってあげるからね!!・・・あれ?何故プロヒーローから守らなければならないの・・・??
「隠し事ないってことは、あのぬいぐるみはたまたまあそこにあっただけなんだな」
「そうそう、たまたまそこに・・・・・・え?」
そうだよたまたま、って思って、え?あのぬいぐるみて・・・?ってほっぺくっつけてる焦凍を無理やり見たら、にっこり笑って後ろを指さした。
その指の先を見ると、床に、転がってました、ふわころ、焦凍・・・。
「焦凍?!」
「ん?」
「あっ、ちが、」
「焦凍は俺だ」
「いやそうなんだけどね?!な、なんで?!なんでわかったの?!」
しょうとおおおおお!?!って床に無様に転がされてるふわころ焦凍に駆け寄ろうとしたけど後ろから羽交い締めにされて無理だった。そんな、目の前にいるのに・・・!!なんで、なんで・・・!焦凍クローゼットから出てきちゃったの?!
「インターホンの来客画面見たら宅配便が来てることくらいわかる」
「そ、そんなとこみる!?」
「俺のいない間に名前に変な虫がつかないか心配だろ」
「さ、左様で・・・」
今までもチェックしてたんか?!そうなの?!でもわたし不貞行為全くないので何にも不安にはならない!!でもそれでわかるか?!
「宅配便来たのにダンボール無いから探したらすぐ見つかった」
「な、なんで・・・そんな・・・」
「名前の考えてる事はなんでもわかるからな」
なんでもわかるって多分これ言葉の綾とかじゃなくて実際そうなんだと思う・・・。なんでも知ってるもんね・・・焦凍・・・。腕の中でガクッ・・・としたらまたひょいと抱き上げられてから焦凍はお鍋の火を消した。え?
「か、カレー・・・」
「あとでな」
「え?」
「俺に隠れて浮気した名前に1回お説教してから夕飯にしよう」
「え?」
スタスタとリビングを横断して廊下に向かう焦凍にえ?ってなって顔みたらめちゃくちゃいい笑顔でそんなこと言ったんで。浮気て、浮気て・・・!!自分じゃん・・・!!
しかもお説教(意味深)?!いまから?!そんな・・・!!そんなあ!!
床に転がされて、遠ざかっていくふわころ焦凍を見つめた。心なしか悲しそうな顔をしている気がする・・・うっ。
「や、ちょっと話し合おう、ね!」
「ベッドの上で聞こう」
「話せない!!それ絶対話せないよわたし!!お願い捨てないでぇ・・・!」
「可愛くおねだりできたら考えるな」
行けたら行くねみたいなニュアンスだからきっと無理だね・・・。
次は、宅配便の履歴も消しとかなきゃ・・・
お金と変わるだろうふわころ焦凍を見つめて、ううと涙を飲んだ。