やさしい体温 | ナノ


雄英高校に入学してしばらくだった頃、焦凍くんが所属するA組がUSJでヴィランの襲撃にあった。B組は次の日にUSJを使う予定だったが、そんなことがあったので補修や点検の為にしばらく使えないとブラドキング先生が随分深刻な顔をして話していたけど、負傷者が出たと聞いてわたしは焦凍くんが怪我をしていないか、いや怪我はしていないと思うけど、心配で話し半分でそわそわしてしまう。
物間に「トイレくらい休み時間に行っておくべきだと思うね」と言われて思わず足元を凍らせたのはわたしは悪くない。
授業が終わって帰り支度をしてすぐにA組に向かってクラスの中を覗いたら、見た目は怪我がなさそうな焦凍くんが帰り支度をしてて少し安心した。入学してから、帰りは先に終わった方がクラスに迎えに行くということをしていたら、わたしのことを焦凍くんの知り合いと認識してくれたらしいA組のおとこのこが焦凍くんにわたしがきていると声をかけてくれる。その子も怪我をしていない様だった。クラスを見渡してもピンピンしている子が多いから、意外とみんな大丈夫だったっぽい。負傷者は出たって聞いたけど多くなかったんだなあ。

「待たせた」
「あ、焦凍くん」
「何きょろきょろしてんだ」
「みんな大丈夫だったんだなあって。ヴィランと渡り合えるなんてさすが雄英高校の生徒だよ」
「お前もその雄英高校の生徒じゃねえのか」
「そうでした」

行くぞと歩き出す焦凍くんを追いかけて隣に並ぶ。雄英高校は色んな人種のためにバリアフリーになっているから廊下も広くて、2人で並んで歩いても誰の邪魔にならなくていい。中学は友達と2人で並んで歩くと意外と廊下の幅をとっている気がしてなんか落ち着かなかったっけ。
隣を見上げると、焦凍くんの綺麗な横顔が見える。火傷のあとがあっても全然気にならないくらい整ってる。

「・・・俺の顔になにかついてるか」
「え?」

焦凍くんがそう言ってわたしを見るので「かっこいいなあと思って」と返すとしばらくしてから「・・・そうか」と言いまた前を向く。焦凍くんはわたしの前では少しふにゃっとしているところがあるけど、他人の目があるところだとキリッとしているから、何となく口数も少ない気がする。借りてきた猫みたいだなあ。


「ヴィランの襲撃大変だったね。怪我ない?」
「あぁ」
「安心したよ。焦凍くんは強いけど、もし怪我してたらって思ったら心配で」
「そうか」

そう話したら焦凍くんは立ち止まって、名前は、と口を開いた。わたしに振り返る時に髪がふわっと揺れて、その隙間から覗く左右色違いの瞳がわたしを捉える。焦凍くんの目に映るわたしはいつも通りのあほ面だ。
「名前の所にはヴィランは来なかったか」
「え?うん、きてないよ」
「そうか」

それを聞いた焦凍くんは、少し雰囲気が優しくなった気がした。自分が大変だったのにわたしの心配までしてくれて、焦凍くんは優しいなあ。そう思ったことを口にすると、そうか?と首を傾げるのでそうだよ、と返して手を握る。

「帰ったらアイス食べよ」
「新しいの買ってある」
「え?!焦凍くんだいすき!」
「・・・俺もだ」



我が物顔で轟家の敷居をくぐり、焦凍くんの部屋に直行した。焦凍くんはアイスを持ってきてくれるらしいからそれまでごろごろしちゃおうとカバンを放り投げて畳にねそべる。新しい畳の匂いがして、焦凍くん最近畳変えたんだなあと深く息を吸った。
春先の夕方は暖かくて、廊下からぽかぽかと日差しが差し込む。ぼんやりと眠気が降ってきて、それに身を任せようと瞼を下ろしたところで廊下から足音が聞こえてくる。この足音は焦凍くんだなあ、アイス何味かなあ、でも眠いな・・・

「名前、寝るのか」
「・・・・・・ねない」
「アイス溶けるぞ」
「焦凍くん凍らせて」
「わかった」
目を閉じてたけどなんとなくひんやりしたので、焦凍くんがアイスを凍らせてくれてるっぽい。これでしばらくは寝ても大丈夫だ。寝ないと言ったのに本格的に眠くなってきてしまった。瞼と瞼が接着剤でくっつけたかのように開かない。
意識がぼんやりとしてきた時に、うつ伏せになってるわたしの背中に何かがかけられる。タオルケットを焦凍くんがかけてくれたみたい。ふんわりかけてくれたから、焦凍くんの匂いがふわっと鼻を掠った。

「・・・1時間後に起こして・・・」
「わかった。・・・おやすみ名前」
顔にかかっている髪を焦凍くんが耳にかけてくれている気配がする。そのまま頭を撫でられて眠らない人なんているのだろうか、いやいない。わたしはあっという間に夢の中に落ちていった。


昔から2人きりで、こういうことが当たり前で。焦凍くんとはこれからもずっと、こんな感じで生きていくんだろうなとずっとぼんやりと思っていた。いい意味でも悪い意味でも、焦凍くんの世界にはわたししかいなくて。わたしの世界も焦凍くんを中心に回っていて。
だから、体育祭で焦凍くんが半身から鮮やかで鮮烈な炎を燃やした時。わたしはわたしの足元がガラガラと音を立てて崩れていく気がしていた。
焦凍くんの炎は、わたしには熱すぎたのだ。


▼ アイスが溶けるように

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