やさしい体温 | ナノ

「焦凍くん、顔怖いよ」
いつもの3割増くらい目がギラギラしてて、周りを寄せつけない雰囲気が出てしまっている焦凍くんの眉間をぐりぐりする。焦凍くんはわりぃと言うけど、手を離して見た眉間にはふかーく皺が刻まれたままだった。周りの人も怖がっちゃいそうだよ。

「緊張してる?」
「してねぇ」
「そっか。わたしは少し緊張してる」
「そうか」

いつもならもう少し喋ろうと思うんだけど、今日はそう思えなかった。今日は雄英高校の推薦の受験の日で、それなりに混んでる電車に揺られている。わたしたちは別々の中学校だから、こうして同じ学校に向かって同じ電車に乗るのは初めてだから少し浮かれていた。ちょっと前まで。
電車に乗ったら、いよいよ受験だなあ、2人とも受かるといいなあ、私だけ落ちたらどうしよう・・・とそういうことばかり考えちゃってなんだか落ち着かない。そわそわしてしまって、無意味に膝の上で手を握ったり広げたりしてみる。

「大丈夫だ」
ぐーぱーしていた右手に、暖かい手が重なる。顔を上げて横を見ても、焦凍くんは前を向いたままだった。
「お前なら大丈夫だ」
握ってくれている力が強くなる。もう一度視線を膝に戻した。握り返すと、また強く握ってくれる。焦凍くんの手は、いつの間にかわたしよりも一回り大きくなっていた。




「終わったー!!筆記もある程度出来たし、実技も悪くなかったと思う!そう思いたい」
「よかったな」
受験がひとまず終わった開放感で胸がいっぱいになって、雄英を出た瞬間に大きく背伸びをする。凝り固まってた体が解されていく。
隣を歩く焦凍くんの眉間のしわも無くなっていた。やっぱり緊張してたんだ。

「焦凍くんも筆記できた?」
「あぁ」
「2人とも受かるといいね」
「・・・そうだな」
ニコニコしながらそう言うと、焦凍くんも目尻を少しさげて笑う。わたしだけにしかわからない笑顔。
これからおなじ高校になったら、2人でいる時間ももっと増えてもっと笑顔も見れるといいなあ、と思いながらまた笑い返した。





「焦凍くん」
「なんだ」
一般の受験シーズンが終われば、卒業までは3年生は特に学校にいく必要もなく、少し早めの春休みが来たみたいだ。雄英は放課後に出かける時間もないっていうから、今の休みを満喫しようとわたし存分にゴロゴロしていた。焦凍くんの部屋で。
隣で壁に背中を預けて文庫本を読む焦凍くんに話しかけると、読んでいたページにしおりを挟んで本を置いてからこっちを見てくれる。こういう所が素敵だなあと思う。

「冬と夏はどっちが好き?」
「冬だな」
「わたしも」
そうか、と言ってごろ寝しているわたしの顔にかかった髪を耳にかけてくれた。

冬は寒くて過ごしやすい。雪女なわたしには寒さは友達みたいなもので、暖房の必要がない。半袖でも過ごせそうだけど、見てて寒いからやめてと前に友達に言われてから、ちゃんと冬服を着るようにした。もこもこのセーターは肌触りが良くて好き。

「冬は」
「ん?」
「お前が溶ける心配がないから、いい」
そう言ってわたしの頬に手を添える。暖かい左手。
わたしに合わせて、冬の焦凍くんの部屋は暖房が控えめだ。
「だから、溶けないってば」




朝日がカーテンの隙間から漏れて、自然と目が覚める。時計を見ると起きる予定より少し早い。
目覚ましをオフにして、ベッドから出てカーテンを開ける。朝焼けの空がきれいで、なんだか嬉しくなった。

新品の制服に着替えて、鏡をみた。うん、意外と似合ってるかも。今日は雄英高校の入学式だ。天気も良くていいスタートがきれそう。

「お母さんおはよう」
「名前、おはよう。今日から華の女子高生ね!」
お母さんも高校生だった頃のこと思い出すわー、とお鍋のお味噌汁をお椀によそってくれる。
お母さん、高校生の時めっちゃキャッキャしてそう。

わたしのために温めにしてくれているお味噌汁に、いただきますと言って口をつける。
猫舌なんだ、雪女だけど。いや雪女だからか。
お味噌汁の温さが体にしみていると、お母さんがそういえば、と私に振り向いた。
「通学は焦凍くんと行くのよね?」
「そうだよー」
「あなた達本当に仲良しねぇ」
「幼なじみだしね」
「あなたのグーダラさに焦凍くん嫌になってない?」
「たぶん?」
「あの子は昔から静かな子だから、あなたに言えないのかもよ」
「いや意外とズバッと言うよ。何も考えないで」
人は彼を天然というのだ。

行ってきます、と玄関を出て駅に向かう。メッセージアプリを開いて、焦凍くんにもうすぐ着くよと送るとすぐに既読が付いてあぁと返ってくる。
もしかしてもう着いてるかな?と少し早めに歩くと、駅の改札前にぼーっと立っている焦凍くんを見つけた。
「おはよう。ごめんね待った?」
「おはよう。待ってねぇ」
「そっか」
事前に買ってあった定期を改札機に当ててホームに出る。ラインに沿って焦凍くんの隣に並んだ。隣見ても焦凍くんの肩しかなくて、少し見上げる。一緒だった身長はいつの間にかこんなに変わっていた。
「なんだ」
「焦凍くん、おっきくなったねえ」
「なんかばあさんみてえ」
「華の女子高生になんてことを!」
なんか悪いこと言ったか?みたいな顔するのやめて。他意がないのはわかってます。



(クラス、離れちまったな)(ヒーロー科2クラスしかないから一緒になれるかなって思ったんだけどね・・・)(・・・)(帰りも一緒にかえろ)(・・・おう)
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