やさしい体温 | ナノ

焦凍くんとのファーストコンタクトは、3歳の時だ。
お父さんの仕事の都合で、産まれて直ぐに北海道に転勤になった。ちなみにお父さんはヒーローじゃない。
3歳の時に静岡に帰ってきて、帰ってきたよの挨拶で焦凍くんの家に行った。

小さいわたしは、和風の大きなお家に感動して両親の挨拶も気にせずに廊下を突っ走って行った。
後ろからお母さんの呼び戻す声が聞こえたけど、興奮状態のわたしに、戻るという選択肢はなかった。

「ゆーきやこんこ、あられやこんこ」
大きいお庭に面している廊下を、大好きな歌を歌いながら歩く。
今日のために着てきた白いふわふわしたワンピースの裾が、わたしの動きに合わせてふわふわと動いた。

「ふってもふってへぶぅ」
も、と続きを歌う前に何も無いところでつまずいて顔面から廊下へダイブした。
顔もどこもかしこも痛い気がして、倒れたままぶるぶると震える体。
泣くな、泣くな、と心の中で唱えて、何とか起き上がろうとする。床が滲んで見える。もうだめだ

「・・・だいじょうぶ?」
頭の上から心配そうな声が聞こえてきた。
そっと顔をあげると、そこには綺麗な赤と白の頭の男の子がいた。
「どこかいたいの?」
優しく、起き上がりやすいようにても差しのべてくれて、我慢していたなみだがぽろぽろと零れた。
「あっ、ありがっ」
「な、泣かないで。痛いところどこ?」
しゃくりあげながらおでこを指さすわたしに、男の子は手をおでこにあてた。
「おかあさんがよくやってくれる」
いたいのいたいのとんでけ

一生懸命やってくれるから、いたいのが本当にどっかにいったような気がした。
「よくなった?」
「うん、よくなった!ありがとう」
嬉しくてにっこり笑うと、男の子も照れながら笑ってくれた。


「お名前なんていうの?わたし、名前」
「焦凍」
「しょーとくんかあ。」
男の子は焦凍くんと言った。あのあとわたしを立たせてくれた焦凍くんは、わたしを元気づけるためか池の鯉を見せてくれた。
池には2人の顔が反射して映っていた。

「なんさい?」
「3さい」
「わたしといっしょだあ!」
「ほんと?」
「ほんとう!おんなじ幼稚園いけるかなあ」
いけるといいなあ、と焦凍くんはまた照れながら笑った。

2人で鯉を見ていたら親同士の交流が終わったらしく、わたしをお母さんが呼びに来た。となりに焦凍くんのお母さんもいた。
焦凍くんのお母さんはとってもきれいに笑った。
笑った顔が焦凍くんそっくりだった。



同じ幼稚園に入ることが出来て、休みの日以外は毎日幼稚園でいっしょに遊んだ。
個性の発現はわたしの方が早かった。ある日急に、触ったものが凍ったのだ。すぐになんの個性か調べて、雪女だとわかった。
あー、だから夏はほかの子より暑くて暑くて溶けるかと思ったんだあと子どもながらに理解した。

そして焦凍くんの個性が発現した。そうしたら何でか、焦凍くんは毎日傷だらけになるようになって元気もなくなった。
「焦凍くんだいじょうぶ?」
「・・・」
幼稚園のお砂場で2人でお山を作りながらそっと聞く。
よくわからないけど、焦凍くんは痛そうだった。
「焦凍くんこっちむいて」
手の砂をはらいながら横にいる焦凍くんに向き直る。
目元が赤くてうさぎさんみたいって思った。
「いたいのいたいの、とんでけー」
焦凍くんの色んなところをさわりながら、いたいのが飛んでいくようにぽいぽい投げる。
焦凍くんはびっくりした顔をした。
「いまは、どこも痛くないよ」
「えー?でも、いたいよーっておめめが言ってるよ?」
名前ちゃんパワーで、いたいのとんでくよ!
そう笑うと、焦凍くんもつられて笑った。



焦凍くんが、お怪我をしてしばらく幼稚園をお休みになった。
焦凍くんのお母さんも、お怪我をしてしばらくおうちに帰って来れないらしい。
わたしのお母さんがとってもつらい顔をしてわたしに言った。

「焦凍くんいつ幼稚園くるの?」
「いつかなあ、焦凍くんのお怪我が良くなったらかなあ」
「焦凍くんのおみまい行きたい」
「うーん、」
「行きたい行きたい行きたい!」
焦凍くんに会いたくて、お怪我が心配で、むねのあたりががごちゃごちゃした。
行きたいと暴れて家の中を吹雪にするわたしにお母さんは困り果てていた。

わたしの家と焦凍くんの家は少し離れてて、わたしだけではたどり着けない。
お車がないとぜったいに行けないのだ。
泣きながら吹雪をやめないわたしに、お母さんも心を決めたようだった。


「病院にいる冷から、持ってきて欲しい荷物があると言われたのでお伺いしました」
お母さんはそう焦凍くんのお父さんとお話していた。わたしはまた廊下を駆け抜けていく。
焦凍くんのお部屋にいこうと進んでいると、池の前に見慣れた背中があった。

「しょーとくん!!」
駆け寄りながら放ったわたしの声に、焦凍くんが振り返る。
顔を見て、なんにも言えなくなった。焦凍くんの左のおめめの所に包帯が沢山巻いてあった。
焦凍くんの見えてるおめめも、すっごく怖い。

「焦凍くん・・・いたい・・・?」
「・・・」
「焦凍くん・・・」
焦凍くんはお話してくれなかった。
怖いおめめのまま、ぎゅっと手で服をにぎってふるふると震えていた。
いたいのいたいのとんでけで、飛んでいきそうにないと子どもながらに思った。

「・・・焦凍くん!見てて!」
焦凍くんから少し離れて、個性を使う。
焦凍くんが幼稚園に来ない間やお休みの日に、頑張って練習した技だった。
わたしの手から出てきた雪が形を整えていき、池の横にこじんまりとしたかまくらをつくった。
「はいって!」

焦凍くんの背中を押してかまくらにいれて、わたしも入る。2人で少し狭いくらいだ。
「・・・」
「わたしね、焦凍くんがお怪我して幼稚園来れないってなってね、さみしかった」
いつも一緒に遊んでいたから。幼稚園帰りにはどっちかのおうちに行って、テレビを見たり遊んだりした。
テレビではオールマイトがかっこよく笑って、だれかを助けていた。それを見ている焦凍くんが、きらきらとしていた。
あの時みたいに、きらきらしてほしい。
お母さんに似てる笑顔でいてほしい。

「もう、おおきなお怪我してほしくないって思ってるよ。だからね、わたしがんばる」
「・・・なんで名前ちゃんが」
「わたしがんばってヒーローになる!ヒーローになって、焦凍くんを痛いこととかつらいことから守るの」
焦凍くんの目が大きくひらいた。
「オールマイトみたいにはなれないかもしれないけど、焦凍くんのヒーローになりたい」
焦凍くんをぎゅっと抱きしめる。
ふるふる震えた焦凍くんは、わたしの背中にそっと手を回してくれた。

「おか、お母さんが」
「うん」
「おれが、おとうさんが、」
「うん」
「おれは、おれは・・・」
大丈夫、大丈夫と背中をさする。焦凍くんはしゃくりあげながら思ってることを話してくれた。

「いっしょにがんばろう。なりたいものになろう」
「いっしょに・・・」
「うん。いっしょに。わたしはずっと焦凍くんといるよ。」
「ずっと?」
「うん、おうちが遠いからすぐ会えないかもしれないけど、きもちだけはいっしょ」
「うん・・・うん・・・おれも、」
おれも名前ちゃんのヒーローになる。ヒーローになったら・・・

しばらく2人で抱き合って、お互いの存在を確認した。
かまくらが隠してくれていたので、お母さんが呼びに来るまでずっとそうしていた。



「・・・名前、おい名前」
優しく肩を揺さぶられて、目を開けると焦凍くんの顔があった。
「焦凍くん・・・きゅうにおっきくなった…」
「なんのことだ。身長は最近伸びてない」
「・・・ゆめか」
いつのまにか、参考書の上に突っ伏して眠ってしまっていたらしい。あたりはもう暗くて、池の鯉も見えそうにない。

「結構寝ちゃった・・・勉強・・・」
「疲れてたんだろ」
「起こしてくれて良かったのに」
「気持ちよさそうに寝てたからな」
そう言いながら寝ぼけ眼のわたしの勉強道具をカバンにしまってくれる。
出かける用意をした焦凍くんは、座っているわたしに恭しく手を差し伸べてくれた。
「暗いから送る」
「・・・ありがとう、しょーとくん」



名前と手を繋いで夜道を歩く。
隣で機嫌よく鼻歌を歌っている名前は覚えてるだろうか。
小さい頃、かまくらの中でした約束を。
「焦凍くん、話聞いてた?」
「ああ、聞いてなかった。」
「もー」

眠っている名前の頬に唇を寄せたことは、いつ伝えたらいいだろうか

▼ 季節はずれのかまくら

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