やさしい体温 | ナノ

やさしい体温 番外編 幼なじみが10年前と入れ替わりました。 本編終了後設定



「・・・しょーとくん?」

ぱちくり。そんな効果音が出ていそうなほど大きな目を開いて、小さい名前が首を傾げた。



「個性事故?」
「そうなんだ。昨日他のクラスの子とぶつかったみたいで。その時は何ともなかったけど・・・今朝になって起きてこないから部屋を見に行ったら小さくなって部屋の端っこで固まってた」
起きたら知らない部屋で怖かったんじゃないかな。

そういう拳藤は俺の横でソファに座りお菓子を食べている名前を見やった。
昨日個性事故にあい、朝起きたら時間差で発動し小さくなったらしい。ぶつかった生徒にどういう個性か確認すると、少しの間過去と入れ替わることが出来るとの事だった。そんな個性あっていいのか?
チョコを食べながら遠巻きに見ているクラスメイトをちらちらと確認する姿が小動物のようだ。
名前(小)に確認すると、いまは5歳らしい。手を広げて「ごさい!」と得意げに教えてくれた。

「・・・で、昔なじみの轟といた方がこいつも安心するんじゃないかと思って」
「そうか」
「うちには厄介なのがいるから・・・」

はぁ、とため息をつく拳藤は、ここに来るまでに名前の写真を撮りまくったり部屋に連れ去ろうとする物間を気絶させ縛り付けてきたらしい。感謝しかない。
付き合い始めた時に物間に告白をされていると名前から話があった。何となく物間も同じ意味で好きなんだろうと思っていたから、先に想いをつげていたと知って戦慄した。もし物間を選んでいたらと思うと死ぬ思いでしかない。その後しっかりお断りをしてきたと聞いて、付き合ってはいたものの不安であった俺は安心して腰が抜けそうになった。ノストラダムスの大予言が外れた時、皆こんな思いだったんじゃないだろうか。

「まあとりあえず、すぐに元に戻ると思うけど頼むね」
「あぁ。」

寮のドアを開けながら去っていく拳藤に、小さい名前は手を振っていた。拳藤は少しの時間で信頼を獲得したらしい。
ドアが閉まり静寂が訪れた。預けられたはいいものの、一体何をしたらいいだろう。この時は何して遊んでいたか。
それを考えていると不意にズボンが何度か引っ張られ、下を見ると名前がこちらを見上げていた。

「焦凍くん」
「どうした」

しゃがんで目線を合わせる。小さい名前は俺の腰くらいしかない。
何もかもが小さくて、可愛らしい。こんなに小さかったのに、あの時の俺には何よりも大きく強く見えていた。

「焦凍くんおおきくなったの?」
「16歳だからな」
「じゅうろく?」

指を折り一生懸命数えている名前を尻目に、この後どうしようかと思案する。寮には遊ぶものもないし小さい子が読むような本もない。さてどうするか、

「じゅうろくっておおきいね!」
「そうでもないぞ。」
「そうなの?」
「あぁ。・・・目が覚めるまでは何してた?」
「あのね、わたしのお家でね、焦凍くんとお泊まり会してたの!」
「そうか・・・」

言われて何となく思い出してきた。この頃は親父の指導の息抜きに定期的に泊まりに行っていた。親父は良くない顔をしていたが名前の母親にはあまり強く言えなかったようで、俺にとってなくてはならない時間だったと記憶している。そうか、お泊まり会か。

「ここ焦凍くんのおうちじゃないよね?」
「いまは学校のために友達みんなで暮らしてる」
「そうなの?なんの学校いってる?」
「ヒーローになるための学校」
「!ヒーロー!!」

大きな目を更にまん丸にして、楽しいものを見つけたような顔をする名前の顔は、今と何ら変わりなくて。

「ヒーローになるんだ!」
「そうだ」
「わたしも?同じ学校?」
「そうだ」
「嬉しいー!焦凍くんとずっと一緒だね」

ニコニコと笑う名前に、心の底から愛しさを感じる。もうずっと、この笑顔に救われ続けている。幼馴染がいなかったらどうなっていたのだろうと思うこともある。多分どうにかなっているとは思うけど、きっとその世界は今よりも色褪せているんだろう。

「ヒーローになるの大変?」
「そうだな」
「焦凍くん泣いてない?」
「ふ・・・。泣いてない」
「え!ほんと?!」
「泣いてないよ」
「うそだよ・・・焦凍くんすぐ泣いちゃうもん」
「そうだったな」

大きくなっても泣いてばかりだと思われているらしい。思わず小さく笑った。小さい時の俺はそんなに泣いていたんだろうか。恥ずかしいから忘れて欲しい。
あ!と大きな声を出して、服のポケットをごそごそと探っている。何かあるんだろうか

「はい!これ」
「?ハンカチか」

雪の結晶の刺繍の入ったハンカチがポケットから出てきて、それを手渡される。昔はよく袖やハンカチで涙を拭いてもらっていたのを思い出した。

「あげる!」
「くれるのか?」
「うん!焦凍くんがいつ泣いてもこれで大丈夫」
「・・・」

小さな手が頬を包んで、額と額がくっつけられた。

「わたしがずーっと一緒。だから泣いても大丈夫」

額から手から言葉から。伝わってくるのは、かわりのない、やさしい温度。
胸が苦しくて、やさしくてあったかくて。
どうしようもないほどに、愛おしい。

「・・・ありがとな」
小さくて大きな体を、そっと腕の中に閉じ込めた。



数分して戻ってきた16歳の名前は、小さい俺を堪能してきたとニコニコしながら俺の頭を撫で続けた。

「あ、ハンカチ!無くしたと思ってたら、この時に焦凍くんに渡してたんだね」
このハンカチには焦凍くんの涙が染み込んでるからと愛おしそうに撫でるから、恥ずかしいやら愛しいやらで感情が渋滞して大事故だ。

「?焦凍くん、へんなかお」

▼ 君の涙はこぼれない

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